第4話 カフェ佐伯

 僕はアーニャに連れられて大通りから一本外れた道にある一軒の白いカフェに入る。

 見た目はこじゃれた感じのするスマートなカフェだ。

 ドアを開けるとほのかにコーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。

 中に入ってみると落ち着いた雰囲気のシックなイメージが印象的な内装だ。

「いらっしゃいませ」

 店員らしき女性が声をかけてくる。

 そしてアーニャを見ると少し驚いた顔をしている。

「アーニャさん」

 顔なじみなのか、名前を知っている相手だった。

「いつもの席、使うから」

 アーニャはそれだけ言うと店内の奥にある個室に向かっていく。

 慌てて追いかけるが、個室には二つの席が隣り合っているではないか。

 僕はアーニャの隣の席に座るが、この距離は近い。緊張してしまう。

俊太しゅんた。何がいい?」

 先程の店員さんから受け取ったメニューを差し出してくるアーニャ。

「わたしはいつもので」

「はーい」

 明るくみやびな印象の店員さんだ。アーニャとも慣れ親しんでいる様子だし、友達なのかもしれない。

 となるとここに誘ったのは『もう友達ならいる』という意味合いが大きいのかもしれない。

 メニューに目を落とすと、驚いてしまう。

 フレンチのコース料理。それも三千円以上する。

「僕、こんなの頼めないよ!」

「ん。ドリンクだけでいい」

 そう言ってドリンクのメニューを見せてくるアーニャ。

 少し意地の悪い笑みを浮かべている。

 ドリンクを見るとそこには普段飲んでいるのとさほど変わらないメニューがあった。

「ま、まあこのくらいなら」

「カフェがメインだから大丈夫」

 店員さんを呼ぶ。

「あ、パフェとかもあるよ」

 アーニャは少しテンションを上げて言う。

 パフェが千円。

「ぼ、僕はいらないよ」

「そう? ならわたしは頼むよ」

 そうだった。アーニャはお金持ちだった。

 注文を済ませると、オリジナルコーヒーと季節のパフェ、それに僕の頼んだオレンジジュースが並べられる。

「ごゆっくりどうぞ」

 店員さんは伝票を残して立ち去るのだった。

 アーニャはコーヒーを一口飲むと、パフェにのっったアイスをスプーンで掬う。

 確かに美味しそうなパフェだ。何層にもなっており、見た目だけでなく、飽きが来ないように工夫もされている。

 チョコチップにクッキー、コーンフレーク。そして春限定の苺がサンドされている。上にかかっているソースも苺のものだろう。

「ん? 食べる?」

 アーニャは何度か口に運んだアイスを掬うと、僕に向けてくる。

「へ? い、いや……」

「欲しそうにしていたから」

「う、うん。じゃあもらおうかな?」

 アイスを食べると、アーニャは気にした様子もなく、パフェを食べる。

「ぅう〜〜」

 間接キスだよ〜。

 内心うなるがその声が届くことはない。

 アーニャが食べ終えるとコーヒーを少し飲む。

 全然飲めていなかったオレンジジュースに口をつける。

 口いっぱいに広がる酸味と甘さ。爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。

「おいしい……」

 氷が少し溶けて薄味になっているのが少し惜しいと思えるほどに。

 空気を読まずに、キュルキュルと僕の腹の虫が鳴る。

「ふ。ハンバーグとかオムライスとかもあるよ」

「で、でもお金が……」

 僕は金欠である。それもこれもこの間サバゲーショップに行き消耗品を買い足したからだ。

 BB弾や電池、エアなどなど。

「ん。わたしが払う」

「え。いや、悪いって」

 僕は手を振って断る。

「わたしがここを選んだもの。おごらせて」

「そこまで言うなら……」

 僕はハンバーグを頼み、アーニャはオムライスを頼む。

 来る前からいい匂いをさせているハンバーグ。

 眼の前にくると意外とボリューミーで、上にのったチーズがとろとろに溶けている。

 ゴクリと喉を鳴らし、静かに箸を入れる。

 ナイフとフォークもあるが使い慣れている箸がいい。

 中にもチーズが入っていたのか、肉汁と一緒に顔を見せてくる。

 乗っかっているチーズとは種類が違うらしい。

 パクリと食べると、口の中に肉汁の甘さとチーズの酸味、塩気が舌を喜ばせる。

 もう一口。

 箸で裂き、口元に運ぶ。

「それ頂戴」

 そう言ってアーニャが箸にかぶりつく。

「え」

「代わりにこれ」

 そう言ってスプーンで掬ったオムライスを差し出すアーニャ。

「……」

 パクっと食いつき、卵の甘さとケチャップの酸味を感じとろけそうになる。

「アーニャ。こういうことは好きな相手にするべきだよ」

 無防備過ぎたアーニャに釘を刺す。

「ん。好きな相手だけど?」

「そうじゃなくて……」

 友達の好きじゃないんだけどなー。

 食べ終える頃には日も傾いていた。

「ごちそうさまでした」

 僕はアーニャにお礼を言い、頭を下げる。

「ん。また来て」

「いやそれは……」

 お金があればぜひとも来たいけど。

 毎回おごってもらうわけにもいかないし。

「送るよ」

「?」

 疑問符を浮かべるアーニャ。

「いやだって帰り道、危ないでしょ?」

 しばらく考えたあと、思い出したように呟くアーニャ。

「ここ、わたしの家。カフェ・佐伯さえき

「え」

 実家だったの――――!?

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