第3話 アーニャVS木戸

 僕がアーニャと戦う日が刻一刻こくいっこくと近寄ってくる今日この頃。

 学校ですれ違うたび「負けないから」と言ってくる。

 そんな僕らの関係を疑問視する同級生がいっぱいいた。

「あの塩対応なアーニャさんが木戸くんと?」

「でも『負けないから』と言っているらしいぜ?」

「なんだそりゃ?」

「でもそんなに長く話すなんて貴重じゃない?」

「甘い言葉なら分かるけど、威圧するように言っているからな……」

 僕たちの言動を理解できていない人たちがこぞって議論するのだった。

 何がそんなに楽しいのだろうか。

 噂話はしょせん噂話。真実とはほど遠い。

 そしていよいよ今日の放課後、部室で戦うことになっている。

 僕は愛用のハンドガンを持参し、BB弾を持ってきた。エアコンプレッサーは部室にあるから問題ない。

「仕留めてやるぜ」

「――っ! お前、そんなことを言う奴だったか?」

 西沢にしざわが僕を見て驚いた顔をしている。

「あ。聞かないでくれ。今日は大事な試合があるんだ」

「サバゲーの?」

「うん。これでも経験豊富だからね」

 うんうんと頷く僕。

「そういえば、数合わせで兄さんに付き合わされていたんだっけ?」

「そうそう。だから何度も戦ってきた。今度も勝てるさ」

「へー。一芸に秀でるのはいいことだけど、来週の期末テスト、忘れるなよ」

「ご忠告痛み入ります」

「……なんか間違っていないか?」

「そうかも」

 クスクスと笑い合う僕と西沢。

「ま、サバゲーもほどほどにしろよ」

 僕の背を軽く叩く西沢。

「うん。そうするよ」

 放課後になり、僕とアーニャは非公式のバトルをすることになった。

 僕はハンドガンを、アーニャはP90を手にする。

 会場は校内の外れにある小さな建物。

 中には沢山の障害物が用意されているが、人が乗り越えられる高さではない。

 ……はずだった。アーニャが来てからは。

 テスト期間前ということもあり、部活は休み。静まりかえった部活棟。

 そこにエアコンプレッサーの音だけが鳴り響く。

 アーニャもやってきて、代わる代わるエアを入れる。

 それを見ていた華部長に、雁津先輩、聖良さん。

「さあ、勝負は一本、ゾンビ行為なし。真剣な勝負だからね!」

 会場につくと、華部長は声を張り上げる。

 ゾンビ行為とはBB弾を受けたのに、それを無視して移動したり、BB弾を放つ行為である。

「よーい! スタート!!」

 カンとゴングが鳴る音がしたような気がした。

 僕は真っ直ぐに突っ込む。

「ああ――――ぁぁっ!」

 声を張り上げて、飛んでくるアーニャ。

 その額にBB弾がヒットする。

 障害物を乗り越えて、こちらまでくる事は予測できた。そこに狙いを定めれば自動的に当たるくらいはできる。

 アーニャがBB弾を撃ち放つ。

「ゾンビ行為だよ。アーニャさん」

「むぅ! わたしが負けたの……!」

 驚きの声を上げるアーニャ。

「じゃあ、約束通り友達を作ること」

 コツンと額に額をつけるアーニャ。

「ん。友達になってください」

「え。ええ……!? ぼ、僕!?」

「そう」

 アーニャは親しげに顔を綻ばせる。

 その顔が飛びっきり可愛く見えた。

「~~っ!?」

俊太しゅんた

「え!」

「わたしのことは『アーニャ』で、よろしく」

「あ、アーニャ。よろしく」

 僕は手を伸ばすと、握り返してくるアーニャ。

「今回はアーニャの作戦負けだね。でも面白い戦いだったよ」

 華部長が拍手をしながら、そう言うとアーニャの肩を組む。

「そんじゃ、私とも友達にならない?」

「なりません」

「そ、そんなー!?」

 華部長が絶望の淵に立ったような顔で落ち込む。

「あたしとならいいっぴ☆」

 聖良がチアガール衣装で飛びついてくる。

「嫌」

「そ、そんなー☆」

 なんでか、少し嬉しそうな聖良。

「雁津でごわす」

「嫌」

「いいや。俺は友達になりたいわけじゃないぞ?」

「なら何が目的?」

「今度、……間家茶雨まけちゃう高校との模擬戦があるんだ。そのためにもアーニャの存在は大きい。頼む。手伝ってくれ」

「……作戦会議ってことですか?」

「そうだ! 部活動を続けるには必要なことなんだ。頼む」

「いいですよ。サバゲーできるなら」

 アーニャは少し嬉しそうにはにかむ。

「さ、俊太。一緒にいこ」

「え。行くってどこに?」

「勉強会。友達なんでしょ?」

「あー。はい」

 僕は頷くことしかできずに、ついていく。

 アーニャは青みがかった銀糸を振りまいて前を行く。

 その姿は勇ましく、格好良く見えてしまった。

 でも顔はニマニマして嬉しそうだ。

 そこで安心を覚えている自分がいる。

「アーニャさん、アーニャ、どこにいくのさ」

 言い直すとアーニャを問いただす。

「素敵な場所。一緒に行こうと思っていたの」

「え。でも僕負けていないよ?」

 負けたらとある場所につれていくと言われた。

 でも僕は勝ったのだ。

「いいからいいから」

「いや、僕が良くないんだけど!?」

 ふふと笑って誤魔化すアーニャ。

 しかしこの笑顔を独占できる自分って、なんて運がいいんだ。

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