第2話 アーニャとの約束

 僕たちサバゲー部はサバゲーショップに足を運んでいた。

「このKSC M93RC Combat Courier ガスブローバックガンいいなー」

 僕は目の前にあるハンドガンに興味を引かれる。

 だが高い。

 だいたいエアガンというのは何万もするのが当たり前だ。

 僕が今使っているサバイバルゲームの装備はだいたい兄貴のお下がりだ。

「そのくらい買ってあげるよ」

「アーニャさん。それはダメだよ」

「……?」

 アーニャさんは分かっていないようにそのエアガンを手にレジに回る。

「ま、待ってよ。アーニャさん」

「大丈夫。わたし大金持ちだから」

 ブラックカードを見せて、ふふと笑う。

 会計を済ませると僕に押しつけてくる。

「え。いや、ええ……」

「あの二人、いい感じね」

 華がそう呟き、雁津と聖良が笑みを浮かべる。

 いや何の話しさ。

「ん。いいから」

「…………分かったよ」

 アーニャの頑なさに負けて僕は譲り受けることにした。

「でも、そんなに優しいと勘違いするよ?」

「いいじゃない。別に勘違いしても。わたしはサバゲーができる最低限の環境があればいいの」

「だからってクラスメイトに冷たくするのは違うんじゃないかな?」

「ん? 木戸くんはわたしに恋人ができてもいいの?」

「いや、ええ。そういう意味ではなくて……」

 僕は一人の少女にタジタジになる。

「わたしは好きよ」

「――っ!?」

「サバゲーやっている木戸くんは」

「……もしかして楽しめるから?」

「そうなの。わたし変わっているから」

 変わった子は普通は自分で〝変わっている〟と言わな……くもないのか?

 とにもかくにも。

 サバゲーが全てなのか。

 なら――。

「今度、賭けてみない? 僕と君でサバゲー勝負。勝ったら、君は友達を作ること。いい?」

「ふーん。面白いの。わたしに勝てるとでも?」

 威圧的な態度だが、負けていられない。

「ああ。やってやるよ」

 僕はいつになく熱い気持ちになった。

 アーニャさんに友達を作ってほしい。その思いだけで言ってしまった。

「でもそれだと不公平なの。わたしが勝ったらとある場所に来てもらうの」

「とある場所?」

 それだけが条件か?

「ん。場所は秘密。それだけ」

「わ、分かった」

「どうせ勝つのはわたしだけど」

 その言葉が鼻についたのは僕だけじゃないはず。

 とことこと前を歩くアーニャ。

「いししし。頑張ってね! 木戸くん♪」

 華先輩がこちらを見ていたようで、嬉しそうにニマニマしている。

「あ。勝手に使うことになって申し訳ありません」

 ペコリとお辞儀をする。

 場所は他にもあるが手軽なのは学校の設備だ。

「いいよ。私もアーニャには友達、できて欲しいもの」

「ですよね!」

 僕と華先輩は嬉しそうにハイタッチする。

 それを見ていたアーニャはその手をはたく。

「人前でいちゃつかないで」

 不機嫌そうに唇を尖らせるアーニャ。

 なんだろう。すごく可愛く見える。

 ダメだ。このままじゃ負ける。

 気持ちで負ける。

 雁津と聖良も見届けているように見える。

「そっち、先輩と一緒でもいいよ?」

「え」

「一緒に倒してあげる」

「いや、僕一人で闘う。これは僕と君の戦争だ」

 僕は意を決して言う。

「戦争、軽く使わないで」

「あ。ごめん」

「もういいわ」

 興味が他に移ったのか、感心を失うアーニャ。

 なんだよそれ。

 僕が負けることを知っているみたいじゃないか。

 そんな訳にはいかない。

 僕はアーニャに勝つんだ。

 そしてそんな塩対応が間違っていると気づかせるんだ。

 友達を増やして、一緒に遊ぶ。

 それでいいんだ。

 勉強も大事だけど、人と会話するのももっと大切だって教えるんだ。

 だから僕は負けない。

 負けてたまるか。


 ▽▼▽


「わたし。どうしちゃったんだろ?」

 今日、サバゲーショップに買い物にいった。

 先輩と一緒に仲良くしている木戸くんを見て、わたしはなぜかそれが苛ついた。

 そして胸の辺りがモヤモヤするようになった。

 その前に言ってくれた『友達を作る』と言った木戸くん。

 それがなぜか頭から離れない。脳裏に焼き付いて離れない。

 友達。

 久しく作っていない。

 それもそのはず。

 友達は裏切るから――。

 わたしの敵だから。

 宿敵だから。

 倒すべき相手。

 わたしはエアガンを構えて、その写真めがけて狙いを定める。

 そして引き金トリガーを引く。

 空気圧で発射されたBB弾が空中を飛翔し、写真めがけてぶつかる。

 ただ撃っているわけじゃない。実弾よりも遅いBB弾は放物線を描いている。

 だから当てるにはその計算が必要になる。

 毎日のように、その写真に向かってBB弾を撃つ。

 その作業があるからこそ、技術は磨かれてきた。

 わたしは絶対に外さない。

 そして木戸くんのことも。

 本気のわたしは強いんだから。

 負けるはずがない。

 勝つよ、わたし。

 膨らんだ意欲が燃えるように沸き立つ。

 負けるわけにはいかない。

 そして木戸くんをあの場所に連れていく。

 どんな顔をするのか、少し楽しみだ。

 鼻歌交じりにお風呂に浸かる。

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