サバゲー女子

夕日ゆうや

第1話 始動

 歩死牙歩思惟ほしがほしい高校一年の僕は部活に困っていた。

 実は趣味がサバゲーなのだ。

 サバイバルゲーム。

 それはエアソフトガンで敵を討つゲームである。場所は様々あるし、女子でもやっている人は多い。

 でも世間一般では、『戦争が好きなの?』『変なの』と言った色眼鏡で見られることが多い。

 でも実際は違う。戦争の悲しさも、残酷さも知っている。

 サバゲーは単なるゲームだ。お遊びだ。だから熱くなれる。そうでないのなら、とっくにやめている。

 ぐるりと教室を見渡すと、その子が視界に入ってくる。

 さらさらな青みがかった銀髪にエメラルドのような翠色の瞳。背はすらっとしていて、胸はすっきりしている。

 見るからに外国の血が色濃くでている。

 顔立ちは整っており、どのパーツも優れていると知る。

 名前は、

「ようアーニャ、元気か?」

 学園一チャラい男・璃空りくが銀髪少女に話しかける。

「……なに?」

 短く返すアーニャ。

 アーニャは大人しく、自分から話すことはない。そんな印象の強い子。

 それに本をいつも読んでいて、みんなには変わっている子と言われる。

「いや、俺と一緒にデートしね?」

「嫌」

 辛辣な言葉とともに本に視線を落とすアーニャ。

 色恋沙汰もなく、このように告白されては断ることから『氷塊の魔女』と言われている。

 塩対応が効いているのだろう。

 放課後になり、僕はとある部室に向かう。

 サバゲー部。

 この部活があったからこの高校に入学したと言っても過言ではない。

 部室前にたどり着くと、ノックをする。

「どうぞ」

「し、失礼します!」

 なんとか言い終えると、僕はドアを開く。

 部屋に入ると、この部室の長らしき、スマートな女子がいた。

 ついで椅子に腰掛けている屈強な男が一人。その奥に小柄な少女が一人。

 壁にはたくさんのエアガン。衣服類も飾ってある。そして楯もある。

「入部希望です!」

「おお。新人くんかー。いいね」

 スマートな女子が話しかけてきた。

「私は桜井さくらいはな。部長だ。よろしく」

 握手を求めてきたので応じる僕。

「俺は雁津がんつ。よろしくな。一年」

「はい。よろしくお願いします」

 巨躯な身体が揺れ動く。

「やっはー。あたしは松沢まつざわ聖良せいら。よろぴく☆」

「よ、よろしくです」

 聖良という子はちょっとあざとい系か?

 コンコンとノックが鳴る。

 後ろを振り返ると、そこには冷徹完璧美少女アーニャがいた。

「わたし、この部活に入部します」

「わぉ! 二人目確保!」

 桜井部長は乗り気でアーニャを抱きしめる。

 簡単な自己紹介を終えると、僕と一緒に入部することになったアーニャ。

「よろしくお願いします。木戸きどくん」

 アーニャは柔らかな言葉で僕を見てくる。

 それが意外で言葉を失う。

「ええと?」

 困ったように眉根を寄せるアーニャ。

「あ、うん。よろしくね」

「じゃあ、さっそく体験してみるかい?」

 桜井部長がそう言い、エアガンを手にする。

 このサバゲ部には専用の練習場がある。

 校舎裏にある小さな施設。

 中は障害物が多く、かなり難しいセッティングをされている。

 障害物を利用して敵に近づくのが主な攻略法といったところか。

「じゃあ、雁津とアーニャさん、私と木戸くんで模擬戦を行う」

「いいですけど、僕は経験者ですよ?」

「うん。でも雁津は強いから」

「……」

 無口なアーニャさん。

 まあいいや。

 やってやるさ。

「ゲーム。スタート!」

 聖良のかけ声とともに始動するゲーム。

 僕はMP5サブマシンガンを手にし、障害物を盾に距離を詰めていく。

「ひゃぁあっはっはは――――――っ!!」

 叫び声を聞き、目をまたたく僕。

 障害物の上から突進してくる人影。

「え。アーニャさん!?」

 その陰はアーニャのものだった。

 P90を撃ち放ち、僕にヒットする。そして桜井部長をも襲う。

 面食らった僕たちは一気に攻め込まれ、桜井部長も落ちる。

「ふ。わたし、強い……」

「ええ……。そんなのありかよ」

 僕は残念そうに呟く。

「ははは。まさか障害物を飛び越えてくるなんて。どんな運動神経しているんだか……」

 桜井部長も困ったように頬を掻く。

「でも木戸くんもいい動きしていたね。さすが経験者」

 部長の言葉に救われた気分になる。

「俺を忘れないでおくれ」

 雁津がその巨躯で障害物をよけながら近寄ってくる。

「まあ、新入部員にはどんな感じか、伝わったと思うから。あとは入部届けね」

 桜井部長は鞄から入部届けを出す。

 さっと奪うアーニャ。

「いや、そんなに急がなくても……」

「ん」

 書き終えたアーニャはそれだけ言い入部届けを差し出す。

 桜井部長は僕にも入部届けを差し出してくる。

 このアーニャに勝ちたい。

 入部届けに記入をし、差し出す。

「じゃあ、二人ともこれからは同じサバゲ部ね! よろしく!」

「よろしくお願いします」

「ん。よろしく」

 俺はペコリと頭を下げる。

 アーニャも習うように、小さく頭を下げる。


 こうして僕のサバゲーライフが始まった。

 アーニャと仲良くなるのは少しあとの話。

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