第165話

限られた空間に必要な物を詰め込んだ感じだからだろうが、船内は通路が狭かった。

これは非常に不利で、誰かに出くわせば隠れることもできないと言うことだ。


唯一の救いは、子供達が囚われているのは人気ひとけの無い場所だということだ。

お陰で突発的に人に出くわす可能性が無い。

仮に人に出くわしても〈忍者〉を使えば何とかなりそうだが、そこは何も無い方が穏便に行けそうだけど。


子供達が監禁されていそうな場所に到着はしたが、見た感じはだった。

普通の警備隊員では気付かない程度に上手く偽装してある。

まあ、この程度の偽装では俺の〈忍者〉や〈怪盗〉を欺くことはできないんだけど。

仕掛けを操作して偽装を解除すると、本当の扉が現れた。


「四つか、随分厳重なこって」

ボッソと呟いて、手っ取り早く〈怪盗〉の開錠能力で開けてしまう。

鍵は開けたが、直ぐにドアを開けるようなことはしない。

何故なら〈怪盗〉も〈忍者〉も両方のスキルが警告してきてる。

たぶん何かしらのトラップ、罠が仕掛けられているのだろう。

ここで有効なのは音が鳴るやつかな?

別の部屋に紐が繋がってて、扉を開くと音が鳴るって感じだろう。


分かってる罠なんて何の問題にもならない。

〈怪盗〉の罠感知で罠の場所を特定、直ぐに罠解除を使えば、扉の罠がある辺りだけが透けたように見える。

室内では初めて使ったが、なかなか便利だな。

罠は単純な構造だったが、なかなか考えられた罠のようで簡単には解除できなくなっていた。

楽なやつだと、扉の隙間からナイフを差し込むだけで解除できたりするんだけど、こいつは下手な解除をすると、それだけで音が鳴るようになってる。

まあ、普通なら時間を掛けてコツコツと解除するんだが、俺には別の方法がある。


〈アルケミスト〉の乾燥と粉砕を使えば、扉の木材を一部だけ取り除くことも可能なんだ。

扉に開いた穴の向こうには罠が見えてる。

金属製の箱で中に紐が通ってるんだろう。

次は、手に入れてから使ってない錬金術師(金属)の出番かな。

金属に穴を開けるだけだけど。


流石に金属特化のスキル、簡単に穴が開く。

見える紐を切ろうとすると、またスキルの警告が出た。

どうやら、ただ切るだけではダメみたいだ。

「何とも厳重な警備体制だことで・・・」


もう一度罠解除で確認すると、どうやら紐は輪っかになってるみたいだ。

なかなか考えられた罠だった。

ニジがいれば簡単なんだが、今は帆の作業に行ってるし、待つのは時間が掛かり過ぎる。

面倒になったので、扉は使わずに入ることにした。


扉の横の壁に、〈アルケミスト〉で人が一人四つん這いで通れるくらいの穴を開けるだけだ。

罠は部屋の中に入ってから解除すれば、部屋から出る時は扉から出られる。


音を立てないように部屋に入ると、そこには大きな檻が三つ。

それぞれに何人かずつ子供が入れられていた。


〈怪盗〉も〈忍者〉も暗視が使えるスキルなので、真っ暗でも充分に視界は確保できている。

子供達は眠っているようだが、起きて騒ぎ出されると面倒になる。

と言って、睡眠薬で眠らせると俺一人で十四人を連れて脱出は難しい。


さて、どうしようか?


『終わったわよ。そっちはどう?』

悩んでいる所にアンバーから念話が届いた。


『アンバー、ニジの方はどうだ?』

『そっちも終わって合流したところよ』

両方が揃ってるなら、何とでもなるな。


『まず、ニジは物見の見張りを麻痺させてくれな。アンバーは脱出用の小舟を海に下ろして、船尾の方に運んでくれ。子供を護衛しながら船外に出るのは難しいんだ』

『船尾に穴でも開けるの?』

『良く分かったな。その通りだ』

『本気?』

『ああ、それでアンバーとニジで子供達を護衛しながら小舟で船から離れて欲しいんだ』

『エドガーは?』

『小船が安全な場所まで離れられるように、こっちを見張っとく。何かあっても、俺が囮になればそっちは逃げ切れるだろう』

『そう・・・分かったわ』

『・・・了・・・』


二人に指示は出し終わった。

後は、騒がれないように子供達を睡眠薬で眠らせる。


続いて、壁に穴を開けて、アンバー達が来るのを待つ。

子供達の監禁場所が船尾で良かったな。

変な所だと、穴を開けた途端に浸水して船が沈むところだった。


音も立てずに小船がやって来た。

アンバーが水魔法を使ってるようだ。

俺がやってたのを真似したみたいだな。


静かに檻から子供達を連れ出して小舟に乗せていく。

途中までは順調だったのだが・・・どうやら、夜間の見回りがあったようだ。

人の気配が近付いて来ている。


残り三人をアンバー達に任せ、俺は囮としての行動に出ることにした。

『アンバー、ニジ、残りの子供は頼む。見回りが近付いてる』

それだけ告げて、罠が解除されていない扉を開けて通路に出た。


通路にはカラーン、カラーンと鐘が鳴る音が響いていた。

これが罠の正体だったのだろう。


途端に船内が騒がしくなった。

バタバタと走る足音や、ガチャガチャと鳴る金属音、ワーワーと騒ぐ人の声、どれもが俺のいる場所に向かって来ている。


チラッと背後を見ると、既に子供達を運び出したのだろう、アンバー達の姿は見えなかった。

さて、安全圏に小船が逃げるまで「時間稼ぎといこうか!」腰の短剣を二本とも抜いて構えた。


この船は限りなく大型に近いとは言え、やはり中型船である。

船内の通路は人が横になって擦れ違える程度の幅しかない。

つまり、通路で戦う場合は一対一になるのだ。

ただ、例外として戦っている者の後ろから槍などで突くなどの攻撃は可能だと言うことかな。

後は投げナイフなどの投擲武器も使えるだろう。


一番やってはいけないのは、背後を取られることだろうか?

現在船尾には穴が開いてるから、ロープなどで穴から入ってくることが可能なのだ。

なので、その穴が見えないように扉は閉めている。

気付かれなければ、背後の取りようが無いからな。


色々考えている内に、船員達がやって来た。

ざっと見て十五人ぐらいが犇めき合ってる。

だけど、近付いて来るにしたがって一列に並び直している。

やはり俺が警戒していたように前に片手剣と小盾、次に槍、その後ろに・・・あれは短弓か?投擲武器より厄介だな。


船にどんな証拠があるか分からないから「なるべく船を壊すな」と言われてるが・・・安請け合いしてしまったかも?

まあ〈忍者〉には壁歩きや天井立ちなんて能力があるから、狭小な場所での戦闘に困りはしない・・・はずだ。

実践で使うのが初めてっていうところが多少心配ではあるけど・・・


「いたぞっ!」

「この野郎!どっから入り込みやがった!」

「やっちまえ!」

ガラの悪い連中だな。

まあ、子供を違法売買してるヤツラに常識を説いても仕方無いか。


先頭の男が小盾を前に詰め寄ってきた。

ふんっ!それで俺の攻撃を受けるってか?

誰が構えてる盾に攻撃なんかするかよ!


俺は踏み込むと見せて、瞬動で盾の陰に入るように屈み、盾の下から先頭の男の両脛に一撃を入れる。

これで先頭の男の動きを止められた。

勿論、攻撃が決まれば素早く逃げる、モタモタしてると別の攻撃が来るのが分かっているからな。


先頭の男を後ろに逃がすためには、次の槍持ちが前に出てくるしかない。

蹲っている先頭の男が脇に寄り、槍持ちが出てきた。

直ぐ後ろから短弓で狙われてるから、迂闊に踏み込むのは悪手・・・と普通は思うだろう。


だが〈忍者〉なら関係が無い。

踏み込んだ瞬間に壁に飛び、更に上に天井へ、その天井を足場に下に向けて飛ぶ。

立体機動を存分に生かした動き、それを支える〈忍者〉の能力。

狙ったのは飛び道具である短弓で、ついでに槍を超至近距離で仕留めるつもりだった。

片手の短剣で短弓の弦を切り、逆の短剣で背後の槍持ちの肩を切り付ける。

そのまま超至近戦闘を続けようとして、一つ上の階から飛んで来た殺気に飛び下がった。


随分と派手な殺気を出すヤツがいるみたいだ。

場所的に船長室・・・コイツラのかしらか!

殺気の移動具合から、俺の所に来るつもりだろう。



相当鍛えているか?良いスキルを持っているか?

どっちでも良いが、これは骨が折れそうな相手だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る