第164話
今回の部隊は、完全な包囲を実現するために警備隊や海兵隊が船を出して総勢十二隻になった。
それに対して相手側は三隻、大型に限りなく近い中型船が一隻とギリギリ中型船になるかどうかの小型船が二隻。
流石に物量差が激しいので、とても包囲を抜けることはできないだろう。
ただ心配しているのは、海人族の子供達を人質にされることだった。
そのために俺が従魔と一緒に先行して、子供達の安全確保に動く予定である。
もう一つ気になるのは、一隻船が帰って来ないことから仮拠点を引き払う可能性があることだったが、海兵隊に鳥系の従魔で先行調査ができる従魔師がいた。
現在は目的地に向かって航行中だが、早くに飛び立った従魔は既に先行調査に向かっている。
出航した時間が遅かったので、現地到着予定は夜間遅く。
そこから俺が先行し、陽の出前に子供達の安全を確保。
俺の合図を待って、艦隊が突撃と包囲を行い殲滅って言う流れだ。
現在の俺は、到着までは時間があるし、今から気を張ってもしかたないので甲板の端っこの邪魔にならない所で休憩中である。
回収したスキルに操船関係のがあったけど、必要性を感じなかったので見ただけで放置してる。
だって、専門の人達がいるのに俺が手出しする必要は無いからね。
ってことで、念話でアンバー達と打ち合わせ中。
『たぶん十二隻で囲めば三隻を取り逃がすことは無いと思うけど、変に動かれれば囲みも崩れるから、逃げられる可能性が上がるんじゃないか?』
そう思ったのが切っ掛けで、何とか船を動かないようにしたかったんだ。
それに関しては直ぐに対策方法を見付けた。
船は基本的に帆船なんで、帆を張らないと動かない。
なら、帆を張れなくすれば良い!とまあ簡単な話だ。
なので、アンバーとニジに帆の対処を説明してたところである。
簡単に言うと、アンバーには帆を括り付けているロープに切れ目を入れてもらい、ニジには帆が開かないように帆布を魔粘張糸で巻いてもらう。
アンバーの方は逃げようと帆を張れば、強い力が掛かった切れ目の入ったロープが千切れて帆が落ちる。
ニジの方は、ロープを緩めても帆が開かないので、船を動かせない。
ここまでやっても、泳いで逃げるとか小島に逃げ込むとかあるだろうけど、そっちは対処のしようが無いんだよな。
向かって来れば俺一人でも対処はできるが、バラバラに逃げる相手はどうにもならない。
いかに散らばらないようにするかが問題なのだ。
だから、大元の船を押さえる算段をしたんだけどな。
『帆のロープに切れ目って面倒ね。落としてしまえば楽じゃないの?』
『それだと、俺らが潜入してるのがバレるだろ?子供達に被害が出るかもしれないじゃないか』
アンバーの大雑把さが発揮された言葉に反論した。
『そっちがあったわね。確かに潜入早々にバレるのはダメね。分かったわよ、三分の一ぐらい切って置くわ』
『それで頼むよ。ニジは問題無いか?』
『・・・無い・・・大丈夫・・・グルグル巻き・・・する・・・』
『グルグルはやり過ぎになりそうだし、クルクルぐらいにしてくれ。それでもニジの糸なら充分な強度があるはずだからな』
『・・・クルクル・・・分かった・・・』
どっちも分かってくれたようだ、良かった、良かった。
『で、先行するのは良いけど、どうやって船に忍び込むのよ?』
『そこはスキル頼みになるが、一部封印を解除するつもりだ』
〈環境効果無効〉があるから、水中でも普通に活動できる。
そこに〈忍者〉と〈怪盗〉があれば、潜入は問題無い。
更に〈忍者〉と〈怪盗〉の能力で開錠や隠密、無音戦闘があるから、見付からずに子供達を救出できるはずだ。
今回は潜入と言うことで武器も短剣の二本差しで双剣にしてる。
後は、到着すれば行動開始だな。
あっ!そうだ!薬作っとこうかな。
子供達の体調や精神状態が分からないし、回復薬とか精神安定薬とかあると良いかも!
ついでに麻痺薬とか睡眠薬とかも作っとけば役に立つかもな。
そういえば、毒薬用の素材が結構溜まってるんだよな。
強力な解毒薬とか解呪薬とかに使う以外は毒薬としてしか使い道が無いから、どうしても溜まっちゃうんだよね。
まあ、今回も毒薬の出番は無いし、使わないんだけど。
そこから船内の小さな部屋を借りて薬を作った。
手持ちの薬草を半分ほど薬にしたところで、目的地から少し離れた場所に到着したと知らせがあった。
急いで甲板に出ると、忙しそうに、しかし騒がず静かに作業をする兵達が目に入った。
船内から出たばかりの俺に「エドガー」と直ぐ近くから声を掛けられた。
それはあの警備隊の隊長だった。
「これから出発か?」
「そうだな」
そう返事を返したのだが「子供達を頼む」と頭を下げられた。
たぶん俺一人で向かうことに何かしら思うところがあるのだろう。
責任感がありそうだし「任せっ切りで悪い」とか思ってそうだ。
動き易いように単独行動できるように説得しただけなんだが・・・
静かに船べりに近付き、渡されたロープを掴む。
そのロープを使って海に入るのだ。
こんなところで大きな音を立てて飛び込むなんて単なる馬鹿のすることだから。
海に入ってしまえば、後はスキルを使って目的の船を目指すだけだ。
船を動かした時と同じように、水魔法を使って推進力にして、静かに、しかしかなりの速度で移動を開始した。
真っ暗で目視では船があるのか分からない状況だが、空間魔法で周辺の状況を捉えている俺には特に迷う心配も無い。
真っ直ぐに目的の船に接近し、スキルを駆使して船の側面を登る。
体が海面から離れた所で、風魔法を使って体の水分をある程度飛ばす。
完全に乾かすことはできないが、ポタポタと雫を垂らさない程度にしておかないと潜入の意味が無いからだ。
空間魔法で見張りのいない場所を選んでいるので、音を出さないことだけ注意して甲板に上がる。
マストの上の物見に人がいるのは分かっているが、甲板上に人影は無かった。
取り敢えず、最初の関門は突破できたようだ。
流石に
なので、甲板上にある物資搬入用の扉に向かう。
この辺りの船の構造は、どれも似たり寄ったりなので分かり易いのだ。
目的の扉を甲板上に発見。
空間認識と空間把握で船の構造と、人の有無を確認。
問題無いことが分かった時点で、物資搬入用の扉から船内に侵入した。
さて、子供達は・・・こっちだな!
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