第163話

薄暗く窓一つ無い石造りの室内、室内を照らすのは七本の蝋燭のみ。

微かに揺れる蝋燭の炎に照らされる室内には、中央に円卓とそれを囲むように配置された椅子のみしかない。

壁を飾る絵画も無ければ、キャビネットも花瓶に生けられた花も、装飾と言える物は一切無かった。

出入りできるドアは一つだけであり、そのドアが静かに開いていく。

複数の革靴が床を叩く音が響き、静かにドアが閉まる。

足音の消えた時には、七名の人間が円卓を囲んでいた。


「定例会議を始めよう。いつも通り進行は私ヴィリグートが進めさせてもらう。まずはグレゴール、海人族の方は集まっているか?」

ドアから一番遠い席の男性が話し始めた。


「予定より少ない。現在不足数の補充のために追加の依頼をしている」

「不足している人数は?」

「十五名だ」

「流石にそれは不足し過ぎだ。期日までには揃うのか?」

「まだ確定してない。予定通りなら、十五名揃えば五日後に連絡が入るはずだ」

「なるほど。そこで揃っていれば、期日には間に合いそうだな。もし揃わない時には直ぐに連絡を、別口での補充が必要になる」

「分かっている」

グレゴールとの打ち合わせが終わったようだ。


「次はヒムラーだな。例の件の進行状況は?」

「順調に集まってはいるが、少し派手に動き過ぎたようだ。スキル持ちが警戒してる」

「期日には?」

「このままでは間に合わない。なので、少し強引な方法になるが、スキル持ちを襲撃する予定を立てている」

「目星は?」

「そこは大丈夫だ」

「そうか、そっちは揃わない場合、最悪、金を使って生け捕りにしなければならないから成功すること祈ろう」

二人目のヒムラーとの話も終わった。


「さてカールとマリア。運送状況は?」

「順調よ。モノさえ届けてくれれば、輸送に問題は無いわ」

「俺の方も順調だ。ただ、情報では海洋系の魔物の出現情報が変化しているらしい。それで影響が出るかどうかは現状判断できないところだな」

「そうか。カールの方は、護衛人員の増強を指示しておく。何とか被害を出さないようにしてくれ」

「了解だ」


「最後ヴィストールとヴォルフの準備は?」

「儀式の準備はにえだけになってる」

「神殿の祭壇の間までのルートは確保できた。だが、祭壇の間に入れてはいない」

「ヴィストール、何が問題だ?」

「星だ。並びが、まだ整ってない」

「それがあったか。それは何時整うと見ている?」

「儀式の三日前から入れるようになると想定している」

「かなりギリギリだな」

「こればかりは人知の及ぶ所では無いからな」

「それは仕方あるまい。相手が相手だ」


「まだ予定日まで一ヶ月以上あるが、今回の機会を逃すと次に儀式が行えるのは十年以上後だ。何としても成功させたい。頼んだぞ」


「「「「「「「深淵の主のために!」」」」」」」と七人全員が声を揃えた。


順次部屋から退出していく彼等を見送り、最後に残ったヴィリグートは何処からか水を取り出して飲む。

進行のために喋りすぎて喉が渇いていたのだ。


「私を虐げてきた者達よ、今に見ていろ。この儀式が成功した暁には、国などと言う小さなものでは無い、世界が私の思いのままになるのだ!」

彼以外いない室内に彼の声だけが響いた。



*** *** *** *** *** ***



おっと!港の港湾警備隊が気付いたな、それらしい船が三隻近付いて来てる。


「そこの不審船!何故信号旗に返事をしない!やましいことがあるのではないのか!」

一隻の舳先に立った男が問い質してきた。


「すまん。船のことは詳しくないんだ。俺は冒険者のエドガー、七つ星だ。ある漁村を訪れていた時に、怪しい集団と遭遇して、それを殲滅した。その時に情報を得たのだが、組織的な違法奴隷を扱っている海賊と分かったんだ」

「ちょっと待て!そこに転がってるのは・・・」

「ああ、全部殲滅した海賊の死体だ。だが、問題があってな。コイツラは下っ端で、他にも仲間がいるんだ。ついでにそこには攫われたり、買われたりした海人族の子供が捕らわれてる」

「・・・詳しい事は本部で聞く。操船できないなら曳航する人員を乗り込ませるぞ、良いな?」


そんな感じで青海城に曳航されることになった。

良かった、良かった。

結構、水の抵抗が大きくて魔法の効率が悪かったから助かったよ。

魔力が切れたりはしないだろうけど、魔力操作に神経を使うからな。


でまあ、一緒に乗り込んできた男性、警備隊の隊長さんはロドルスと言うらしいが、彼に色々経緯を話すことになった。

簡単にリーディルを発見して保護してからのことを説明したんだが、彼の機嫌が滅茶苦茶悪くなった。


で、その機嫌の悪いまま話をしていた部屋を出て行ってしまったのだ。

俺も部屋にいた他の警備隊員も、その行動に驚いて引き止めることができなかった。

結果、唖然としたまま放置された俺は、残っていた隊員で唯一驚いていなかった人物に声を掛けて聞いてみた。


「あれ、どうしたんです?」

「ああ、隊長は子供がいるんだが、一度攫われそうになったことがあるんだ。それで、その手の話を聞くと当時を思い出すらしくて・・・」

なるほど、その手の話の経験者だったか!

そりゃあ落ち着いていられなくもなるか。


「で、結局あんたは組織を潰すために協力を要請しに来たってことで良いのか?」

「そうだな。それと、保護した少女の安全を確保したいところだ」

「・・・それ、もしかしたら良い所があるかも知れないぞ」

「孤児院とかか?」

「いや、さっきの隊長の所だ。隊長の奥さん、海人族とのハーフなんだよ」

「うぉ!ホントか?」

「ああ、だから頼めば引き取るって言うと思う」


それは良いかも。

会ったばかりだが、為人ひととなりは悪く無いと思うし、海人族のことが分かる人がいて、子供を大事にしてる。

今のところ最善の人物なんじゃないだろうか。

リーディルは、まだ睡眠薬の効果で寝てるが、起きたら話をしてみるべきかもな?



それから暫く(お茶のお代わりを四度ほど頼んだ)して隊長が戻って来た。

一緒に三人ほど連れて来たようだ。


「こちら城主様、兵団長、警備隊総長だ。エドガーの話をしてきた、そして・・・」

「そこからは私が話そう。我々はその賊を討つと決定した。ついては、あなたにも同行して欲しいのだ」

ふーん、隊長が上層部の説得に成功したってところか。

まあおれが同行するのは問題無いな。

ってか、どっちかって言うと同行できてありがたい。


何でか?って、討伐したヤツラの持ってたスキルが良かったんだよな。

何で、こんなスキル持ってて賊なんてしてるんだろう?って不思議に思ったぐらいだ。


ななっ、なっ、なんと!

錬金術師(金属)、錬金術師(宝石)、錬金術師(布)の、それぞれを持ってたやつがいたんだよ!

なので、全種類を集めることはできたんだ!

ただ、合成するのに数が足りない。


そうなると、俺じゃ無くても期待しちゃうだろ?『もしかしたら全部揃うかも?』ってさ。


ってことで「分かった、乗り掛かった船だ。俺も参加しよう」って答えしか無いだろ!

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