第七章 エドガーと三日月島
第162話
時間を掛けて情報を吐かせたのだが、有用な情報は少なかった。
現状、追加で分かったことは「どこに運ぶか?」と「誰に売るか?」の二点だけだった。
まず、どこに運ぶか?は、メンバルト協議国と魔国の国境沿岸にある島だった。
次に売る相手だが「イルシャ」と呼ばれている組織に売っているらしい。
不思議なことに、この組織は海人族以外の種族は買わないらしいのだ。
それが何のためなのか、俺にはサッパリ分からなかった。
不確定情報もいくつかあって。
一つは、取り引きした島から更に移動しているらしいこと。
もう一つは、イルシャの重要人物が「ヴィリグート」と言う名前らしいことだった。
これが不確定情報だと言う理由は、ヤツラが酒の席で聞いたことで、酔っていたので記憶が曖昧なためだ。
それ以外で分かったことは、今一時的に停泊している島の情報と、
こっちは正確な人数や船のことなど、吐かせられるだけ吐かせた。
その結果として、俺個人が解決できるか?と考えて、無理だと判断。
理由は、船の操作が一人ではできないことだ。
アンバーとニジがいれば戦いでは勝てるだろうし、戦う場所が小島では無く魔国の陸地なら問題は無い。
ところが場所は小島で行き来するのに船が必要な状況である。
俺だけで操船できない以上、色々と問題が多いと判断したのだ。
ならば、どうするか?
青海城に行って、城主に協力を要請するか、逆に城主に協力して操船できる兵を出してもらうしかないと考えたのだ。
ただ、問題がある。
普通に移動したのでは、時間が掛かり過ぎる。
ここでコイツラを捕まえてしまった以上、本隊が小島から逃げる可能性がある。
そうなると広い海上で探すのが難しくなってしまう。
さらに、本隊の船には子供が十四名残っていることだ。
俺だけでどうこうできる人数では無いし、攫われた子供は帰ることができるだろうが、リーディルのように買われた子供には行く当てが無い。
結果として、国なり孤児院なりに頼む以外の方法が無いのだ。
リーディルがいなければ、アンバーに乗って高速移動という手段が取れるが、今までの状況から彼女を放置することはできない。
と言って、彼女と同じ境遇の子供を増やすのも許し難いという、なかなかに面倒な状況になっていた。
俺自身の隠し事が面倒を増やしているので文句の言いようも無いしな。
俺の中では一つだけ解決方法があるんだが、リーディルに説明するべきか、説明しないで実行するべきかで迷っていた。
まあ、その前に片付けて置くこともあるんだけど。
情報を吐かせるのに時間が掛かったこともあり、今日は出発ができなかった。
既に昼をかなり過ぎているので、もう一晩ここに留まることにして、その間にコイツラと船を始末しなければならない。
船を置いておけばコイツラの仲間が来る可能性があるし、コイツラを始末しなければ連れて歩くなり、閉じ込めるなりが必要だからだ。
何をするか?って、全部無限庫に入れる予定だぞ。
ただ、無限庫には生きている者は入れれないってだけだ。
そんな所をリーディルに見せたくないから、夜寝てる間に片付ける予定である。
で、明日の朝はリーディルに確認することがある。
俺には秘密があり、それを人に知られる訳にはいかない。
だが、急いで青海城に行く必要があり、それは他に捕まっている子供達を助けるためだ。
だが、急ぐためには俺の秘密が必要になる。
リーディルが睡眠薬を飲んで眠ってくれれば、俺は秘密を知られなくて良くなる。
つまり、急いで青海城に向かえる。
とまあこれを説明するつもり。
リーディルが了承してくれれば、後はアンバーに全力で走ってもらう。
で、到着直前に海から船で青海城に向かうのだ。
操船でき無いのに?って思ってるだろ。
その程度の短い距離なら水魔法で海水を操って、船を進めるぐらいはできるからな。
それができるのも、船が大きくないお陰だが。
まあ、そんな感じの予定を組んでみたんだが、結局はリーディル次第である。
いくら子供とは言え、大人に不信感を持ってる子に強制はしたくないからな。
・・・昨夜の悩みは無駄だった。
リーディルは、俺を信用してくれて睡眠薬を飲むことを、すんなり了承してくれた。
信用してくれた理由は、他の子供も無事に救いたいってところらしい。
で、今は青海城に近い海岸線に到着したところである。
無限庫から船を出し、それに飛び乗る。
リーディルは船室に寝かせたままにして、甲板上にヤツラの体を並べる。
その後、俺は船首近くに陣取って水魔法を使って船を進めるように海水を操った。
静かに、だが確かに前方に向けて船が進みだした。
あと少し進めば青海城の物見からも俺達の乗る船が見えるようになるだろう。
ただ、その後の話し合いが面倒ではあるが、子供達を救うためには必要なことだと思って頑張るしかないな。
*** *** *** *** *** ***
「見張りご苦労!何も問題無いか?」
「隊長!何も問題ありません!至って平和なもんですよ」
「そうか、それは何よりだな」
物見の櫓まで来てくれた隊長と話をしていると、頭上から声が掛かった。
「前方!不審な船舶を発見!帆も張らずに移動しているうえ、真っ直ぐに、こちらに向かって来ます!」
「信号旗は上がっているか?」
「何も出ていません。合図も送っていますが応答もありません!」
「総員警戒態勢!警備隊の船を出させろ!一番、二番、三番で囲むぞ!」
「信号送りました!一番、二番、三番出航準備中!」
正体不明の不審船の登場で、港湾警備隊は一気に慌しくなった。
警備隊員が港湾内を走り回っている。
隊長も全力で船の方に走り去る。
たぶん、直々に船で出るつもりだろう。
俺も急いで櫓を登る。
通常時なら二人で見張りをして一人は交代で休憩を取るのだが、警戒時は三人でやることになっているからだ。
櫓に上がってみると、確かに帆も張っていないのに進む船が西側の崖を回り込んで来ていた。
ただ、襲撃などでは無さそうだ。
船が小さいから大した人数も乗れないし、あんなので港に突っ込んできても大したことにはならない。
波に流されてるだけか?とも思ったが、時期的に離岸流が発生してる時間帯だから船の動きが不自然だ。
三人で櫓の上から監視をしてると、準備の終わった警備隊の船が出港する。
「一番、二番出航!三番も今出航しました!」
「信号送れ!」
「信号送ります!」
監視任務をしながら、信号旗で情報を送ることもしなければならない。
「不審船の甲板上、目視可能。甲板上に男が一人立っています。他は十人ほど甲板上に寝かせられているようです」
「警備隊の船に信号送れ!船上、男一名。離れて対応すること!」
「信号送ります!」
どうして船を寄せないか?
様子が怪し過ぎて、何が起こるか予測ができないからだ。
警備隊の船が近付いて行く。
船首にいるのは・・・隊長みたいだな。
不審船の男と話をしているようだ。
んっ!ロープを投げたな、船を寄せる気だろうか?
「信号来ました!男は冒険者、寝ているのは船員の死体、違法奴隷関係、討伐済み」
「何っ!っと、本部に信号送れ!」
「信号送ります!」
違法奴隷関係の船を発見した冒険者が、船を制圧したってことか?
一人で十名近い人数を討伐って、凄腕の冒険者ってことだろうか?
何にしても、隊長達が戻ってくれば分かることだな。
それまでは、通常通り警戒をしていれば良い。
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