第158話

そう思って水魔法を操り、引き上げてみたのだが・・・


引き上げた物は檻?だった。

それも中に人??が入ってる。

それが水中にあったってことは・・・既に死んでる・・・のか???


流石に檻に入った死体ってのは、事件の匂いしかしない。

死体の検分なんて遠慮したいが、これは確認が必要だろう。


そう思ったのだが・・・胸が上下してる?

つまり呼吸してるってことか?

それって・・・生きてるってことじゃ?


慌てて封印中の〈怪盗〉を使い、鍵を開錠する。

そして檻から外へ出してやろうとして、水中で生きていられた理由が理解できた。


普通の人だと思っていたのは、何との少女だったのだ。

水棲種族である海人族であれば、海中に沈んだ檻に入っていても死んだりすることは無いと分かる。

が、それはそれで疑問は残る。


何故、檻に入っていたのか?いや、檻に入れられていたのか?ってのが正しいだろうか。


確か、海人族はラー海洋国にしかいないはずである。

多少は海洋貿易等で国外に出る者もいるらしいが、それは全て大人の男性のみと聞いている。

主な交易先は、魔国、トライデルフト帝国、酒と鋼の王国の三国のみ。

それ以外の国との交易は無かったはずだ。


その状況で、海人族の少女が檻に入っていて国外に出ている。

どう考えても・・・犯罪の匂いしかしないよな。


・・・俺、アンバーに言われて息抜きに来たはずなんだけど・・・どうなってるんだ?これ。


うわー、絶対に面倒事だ!

面倒事を避けようと思ったのに、何故別の面倒事が寄ってくるんだよ!


チクショウ!


どっちみち助けてしまったこのを放置する訳にはいかないし、俺が保護するしかないのか。

何かの証拠になるかもしれないし、檻も回収して無限庫に入れとこう。


あとは、さっきの村長にでも聞いて、どうにかラー海洋国にこの娘を帰してやりたい。

そのためにも村に戻らないと。


あぁー、まだ漁の途中だったのに!


『ねえ、それって人?』

『アンバー、この娘は海人族って種族だ。水中で生活している種族の人間だな』

そう簡単に説明した。


『そう。それで犯罪者なの?』

何故?犯罪者?


『何で犯罪者だと思ったんだ?』

『だって、悪いことをして捕まってたんじゃないの?檻に入れられてたし』

そういうことか!


『子供だし犯罪者じゃなくて、賊に捕まったんだと思うぞ』

『そう言うことなのね。じゃあ、その娘を家に帰してあげないとっ!』

何か声のテンションが高い気がする・・・何でアンバーは楽しそうなんだ?


『楽しそうだな?』

『エドガーの望み通りじゃない!新しい国に行けるんでしょ』

・・・確かに魔国を出たいとは言ったけど、面倒事避けるためで、面倒事他国に行きたい訳じゃ無いんだぞ。


ああーでもこれは避けられないだろうな。

既に助けた後だし・・・


無限庫から取り出した布で少女をくるみ、抱えて歩く。

勿論、村長に会うためだ。


俺には海の知識が無いし、その辺は漁村の人間の方が詳しいはずだからな。

話を聞いてから、この娘を国に帰してやる方法を考えようと思ったのだ。


人数は減っていたが、さっきと同じ場所に村長がいた。


「どうでした?魔法で魚は獲れましたか?」

「ああ、なかなか良い収穫だったよ。でだ、漁の最中に魚以外のモノが上がって相談に来たんだ」

「何か変な物でも上がりましたか?」

「変と言えば変かもしれんが、海人族の少女を見付けたんだ」

そう言って、両手で抱えていた布の中を見せた。


「かっ!海人族!そっ!それも少女!そ、そんな者を連れて来ないでください!」と声を荒げる。


俺は全く意味が分からず、騒ぎ立てる村長と村人を宥める。

「少し落ち着いてくれ!訳が分からないんだが、何か問題があるのか?」


そんな俺の態度に、ただ立ち寄った冒険者だったことを思い出したのか説明してくれた。


どうやら、さっきから話し合っていた問題がのことだったらしい。

どうやら海上で漁の時に近付いて来た別の舟の船員から「犯罪者の家族である海人族の子供を海に落としてしまった」と聞いてたらしい。

その話の内容としては、こうだった。


海人族の犯罪者の護送をしていたが、海上で海の魔物に襲われ必死で逃げた。

逃げ続けた結果、この村の沖合いまで来てしまったらしい。

そこで、何とか魔物を斃したらしいが、その戦闘中に護送中だった犯罪者の家族である娘を入れていた檻が海に落ちてしまった。

護送任務中のトラブルではあるが、探さない訳にはいかない。

「もし見付けたら教えて欲しい」そう言われているらしい。


ちなみに連絡先は、この村の北東方向の沖合いにある小島で一時的な滞在をしているらしい。

ついでに、その舟に乗ってた船員の格好などを聞いてみたが、どうにも護送をするような人間の格好には思えない。

つまり、怪しさがプンプンと臭ってきそうなのだ。


たぶん俺の勘だと、そいつらは人攫ひとさらいだろうな。

で、魔物云々は本当かもしれないし、戦闘中に海人族の少女が入った檻が海に落ちたのも本当かもしれない。

だが、犯罪者や犯罪者の家族は嘘だと思ってる。


ついでにラー海洋国に行く方法を知らないかも聞いてみた。

しかし、その方法を彼らは知らなかった。


さて、どうするべきか?

まずは、村長や村人への口止めだろうな。

で、この娘が目を覚ますのを待つ。

その後に事情を聞いてから、方針を考えた方が良いだろう。


まあ、彼等に口止めしようとしたら反発されたが「例え犯罪者の家族だろうと、こんな小さな子供を檻に閉じ込めるのが正しいと思うのか?それをしている人間が普通だと思うのか?相手は子供なんだぞ」と言ったら、渋々ではあるが連絡はしないと言ってくれた。

ちなみに「巻き込まれるのは困るから、村には入らないでくれ」だってよ!

何とも狭い心の持ち主達だった。

何となく信用できない気もするし、早めに村を離れた方が良さそうだ。


海のように何も遮蔽物の無い場所だと、遠くの火でも良く見えるらしい。

なので、少し海岸から離れた場所に野営の準備を始めた。

少々疎らだが木々が生えていて低木もあったので、それほど火が目立つことは無いはずだ。



その夜に、この娘が目覚めることは無かった。

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