第157話
「アンバー、少し戻る感じになるが西寄りに漁村があるみたいだぞ」
俺は、移動を開始したは良いが直ぐに空腹を訴えてきた従魔達に食事を用意してやっていた。
「あらっ!地図を確認してくれたの?」
「闇雲に走っても疲れるだけだろ?ある程度でも目的地を明確にしとけば多少は楽になるからな」
「そうね、ありがと」
アンバーは簡単にだが俺に礼を言ってくれた。
なので、ここで確認するべきだと判断する。
「で、アンバーは何の目的で海に向かってるんだ?本気で新鮮な魚が食べたかった訳じゃ無いだろ?」
俺も最初は、単純に食い気に負けた、と思っていたのだが、途中からそれだけじゃない気がし始めていたのだ。
「そう・・・気付いちゃったのね。ちょっと立て続けにトラブルに巻き込まれてるから、街に行かずに息抜きをしたらって思ったのよ」
「気を使わせたみたいだな。でも、それなら国を出る方で考えてくれても・・・」
「ダメよ。あなたが巻き込まれる問題って、今までもギリギリのタイミングだったことが多いもの」
「・・・そ、それって結局は俺に巻き込まれろって言ってないか?」
「当たり前じゃない!こういう大きな面倒事って解決する方に高い能力が必要なのよ。あなた以上に能力がある人って、私は見たことが無いのよ」
・・・それ卑怯だろ、俺を持ち上げて反論し辛くしてるし。
「それって、危ない目に遭う可能性が高いってことなんだが、それで良いのか?」
「危ない目って言うけど、私と二人で守護者の盾全員と正面から戦っても負けないでしょ?今はニジもいるのよ、軍隊相手でも簡単には負けないわよ」
・・・確かに、隠し事をしなくて良いなら、同行していた時でも負けることは無かっただろう。
というか、スキルを全開にすれば楽勝できたはずだ。
ニジがいる現在なら、もっと早く楽に勝てるだろう。
そう考えると、俺の能力を隠すために考えたり細工したりするのが面倒の原因だと気付いた。
でも、それを無視はできない。
俺の生活に対する影響が大き過ぎるからだ。
俺の生活だけで無く、世間に与える影響も大きいはずだ。
現状スキルは一人一つが出発点なのに、俺の方法なら一人で複数個のスキルを成人前に得ることが可能だ。
【ストッカー】を持たない一般人が何個まで成人前にスキルを保有できるかは分からないが、時間経過と共にスキルが増える以上、複数のスキルを持てる可能性はある。
それは間違い無く新神教の教えに逆らう内容であり、多くの信者から異端視される可能性を持っている。
その情報だけでもとんでもない面倒事なのに【ストッカー】のこともあるのだ。
何が起きるか分かったもんじゃない!
つまり、スキルを全開で戦うことはできないし、そんな状況になることも避けたいのが俺の考えだ。
だが、面倒事に首を突っ込むと、どんなに準備をしていても絶対に安全とはならない。
そこの状況を脱するためにはスキルを使用する必要があるかも・・・
やっぱり、個人的には面倒事に巻き込まれたくないってのが俺の意見だが・・・アンバーは拒否しそうだよな。
悩んでいる内に、目的地にしていた漁村が見えてきた。
取り敢えず、新鮮な魚介を手に入れようか。
この漁村を離れるまでに、次の目的地を決めれば良いんだし、今はアンバーも言ってたように息抜きをしよう。
漁村に近付いた所でアンバーから降り、歩いて村に向かう。
特に目立つ所も無い、ごく普通の漁村だ。
村の周りに畑があり、民家の集中してる辺りには木でできた柵がある。
全部は見えないが、グルリと民家の周りを囲んでいるのだろう。
畑仕事をしている女性を見つけたので「すまない。近くまで来たんで、新鮮な魚が食べたくて寄ってみたんだが、誰か売ってくれないかな?」と聞いてみた。
「あんた、冒険者かい?この時間じゃあ売り物になりそうな魚は無いんじゃないかねぇ。一応、一番大きい家が村長のとこだから、聞いてみたらどうだい?」
「時間が遅かったか。村長に聞いてみるよ。ありがとう」
どうやら、そういうことらしい。
仕方なく、村長の家に向かってみる。
村に入り歩いていると、家の陰から怒鳴り声が聞こえるが、どっちも男の声だったので無視する。
こういう小さな村で、言い合いや喧嘩に余所者が口を出すと碌なことにならないのだ。
ってか、以前同じような場面で首を突っ込んで喧嘩が酷くなったことがあるのだ。
なので、放置して村長の家に向かう。
しかし、村長の家には誰もいなかった。
出てきたのは小さな男の子で、たぶん五・六歳くらいかな?
その子が教えてくれたのは、たぶん舟の所にいるってことだけだった。
大体の方向だけ聞いて、今度は海の方へ。
村の外に出ると目の前には海岸があり、左手に何艘か陸揚げされた舟が見えた。
舟の方に近付くと六名の男達が何かを話し合っている様子だった。
「すまないが、村長はいるか?」
邪魔になるかなと思いつつも、待っていても仕方無いと思い声を掛ける。
「儂だが、あんたは?」
「冒険者だ。近くに来たもんで魚が買いたかったんだが、どうかしたのか?」
ただの話し合いだと思っていたのだが、どうも全員の顔に深い悩みの色が見て取れた。
「ちょっと揉め事があってな。・・・それで、魚ってことだが、今日の漁は終わっちまったんだ。新鮮なのは明日の朝じゃないと無いんだが、どうする?」
「俺が適当に獲っても良いか?」
「舟は貸せんぞ?」
「ああ、魔法でちょいとな」
水魔法系のスキルを使えば、海水中の魚をどうにかできるだろうって安易な考えだったりする。
川で試した時は上手くいったので、海でも可能だと思ってるのだった。
「そりゃあ、できるなら別に構わんが、根こそぎにされると困るぞ」
「そんなのは無理だよ。舟一艘分も獲れたら大成果だ!」
「そいつは獲り過ぎだ。少々返してもらわねばならなくなるぞ」
「まあ、実際獲れたらの話なんだがな。で、何が揉めてるんだ?冒険者の俺で手が貸せることか?」
つい軽口の流れで無意識に言葉にしてしまい『しまった!』と少々後悔する。
「こいつは冒険者で何とかできる話じゃないんだ。申し出はありがたいがな」
「そうか・・・それじゃあ、どこか魔法で漁をしても良さそうな場所を教えてくれないか?」
これ以上口を出すことじゃ無いだろうと話を変えた。
その後、近くの岬にある岩場が根(水深が深くなっている場所)になっていると教えられて、そこに向かうことにした。
『あの時の川と同じ要領で魚を獲るつもりでしょ?』
『分かったか?上手く水流を操れば行けると思うんだが、海では初めてだからな、まずは試してみないと』
以前の川での漁を覚えていたアンバーに聞かれたが、正直言って余り自信は無かった。
暫く歩いて岬に到着。
そのまま岩場を歩くのだが、藻というか海草というかが生えているのか、何やらヌメヌメとした岩場で滑りそうだ。
慎重に足場を選んで、教えられた根の場所まで歩く。
結構な波があって、海水の飛沫が高く上がっていた。
飛沫を浴びながら波打ち際に近付き水魔法を使う。
魔法と言っても、攻撃するとかでは無い。
水を操って、竜巻のように渦に魚を巻き込む感じにするのだ。
そのままその渦の出口を水面にしていると、巻き込まれた魚がドンドンと水面の方に上がってくる。
ある程度集まったら、網で掬い上げるだけである。
川と同様に海でも漁をするのに、この水魔法で問題無いと安心した。
これで魚がいる場所なら、どこででも漁ができるな!
今獲れたのが三十匹ほどで、アンバーの食欲を考えると・・・あと三回、いや、あと四回は獲っておいた方が良いだろう。
そして追加で二回魚を獲り、三回目の魔法を使っていた時、何か大きな獲物が魔法に掛かった反応があった。
ただ、その獲物に反発する気配が無い。
生物なら何かしら逃げようとする魔法に反発する気配があるのだが、まるで死体かただのゴミのように反発が無かったのだ。
死体は欲しくないがゴミなら大きさ的に中身が気になる。
勿論中身までゴミということも有り得るが、何かしらのお宝の可能性・・・は無いか?
まあ、引き上げてみれば分かるだろ。
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