第159話
翌朝は、陽が出る前に目覚めた。
理由は、特に無い。
何故か目が覚めてしまっただけだ。
理由も無く目が覚めたために、特にやることも無い。
結果、早々と朝食の準備に掛かることにした。
時間もあることだし、いつもより時間の必要なスープでも作ってみよう。
コトコトと弱火でクズ野菜や処理した骨を煮込んでいく。
これは山間部の貧しい村で教えてもらったスープの作り方だ。
原理は分からないが、骨を綺麗に処理して煮込むととても美味いスープの素になるのだ。
ただ、弱火でジックリと煮込む必要があるので、調理に時間が掛かる。
ゆっくりできる時にしか作れないってことだ。
だんだんと良い匂いが漂い出したところで、アンバーやニジも起き出してきた。
「随分と良い匂いがしてるわね。思わず空腹で目が覚めちゃったわ」
「・・・主・・・匂い・・・美味しそう・・・」
何だか、ニジの台詞だと俺が美味そうな匂いをしてるみたいに聞こえる。
断じて違うがな!
「何だか早くに目が覚めたから、美味いスープでも作ろうかと思ってさ」
そんな答えを返して、鍋の様子を見る。
結構マメに灰汁を取らないと変な匂いが残るからだ。
そうこうしてると、ゴソゴソと
薄っすらと目を開けた少女は、まだ寝惚けているのだろう、現状を認識できていない様子である。
それも一時のことで、直ぐにビクッ!と体を硬直させ周囲に視線をやった。
「あー、心配しないで良い。たまたま君の入れられていた檻を発見して、俺が中から出したんだ」
まだ警戒してるのだろう、ジッと俺を見ている。
「君みたいに小さな子供が、檻に入れられているなんて、犯罪に巻き込まれたんだろ?大丈夫、俺は君を家に帰してあげたいだけだ」
まあ、目覚めた直後に、突然見ず知らずの男にそんなことを言われてホイホイと納得なんてできないだろう。
しかし、一言も話してくれないのは状況の確認もできないし困るな。
この娘に強制なんてしたくないし、できない。
時間は掛かるかも知れないが、気長に待つしかできないか。
「俺は冒険者だ。仕事を請けてる訳じゃ無いし急いでもいない。気長に待つから、話しても良いと思ったら、君のことを教えてくれ。っとそれより、腹が空いてないか?美味いスープを作ったんだ。良かったら一緒に食べよう」
そう話を切り上げ、スープの調理を再開する。
調理と言っても、鍋の中のクズ野菜や骨を取り除いて、具材になる野菜などを入れるだけだ。
入れる野菜は葉物中心にして、他に昨夜の内に用意しておいた魚の身を潰して団子にしておいた物も入れてみた。
海人族なら、魚は慣れた食材のはずだからだった。
少女の前にも器に入れたスープを置き、俺達は先に食べ始める。
彼女の目の前で器に入れたり、先に同じ物を食べることで警戒してるであろう少女が安心できるようにと配慮した結果だ。
俺達が二杯目を食べる頃には、少女も食事を始めていた。
それを横目に見て多少は安心した。
流石に何も食べないなんてことになると命に係わるからな。
こっちの配慮を受け入れてくれて何よりだ。
できれば、ついでに話もしてくれれば良いのだが・・・気が早過ぎるかな?
食べ終わって少しすると、少女が
空腹が満たされて、緊張や警戒で疲れた精神を体が休ませようとしているのかもしれない。
この状況は少女にとっては必要なことだと理解できる。
ただ、俺の方からすると、気長に待つつもりではあるが、気になることが多過ぎるんだよな。
コッソリと少女を国に帰すことも考えてはいるが、それが正しいか判断ができないのだ。
俺は少女が攫われたと思ってるが、実際には売られてたって可能性も無いとは言えない。
それは、少女に帰る場所が無いことを意味しているのだから。
どういう事情があるのかを聞き出せない限り、次の行動に移れないのだ。
攫われたにしろ、売られたにしろ、少女が大人に不信感や警戒心を抱くには充分過ぎる理由だし、それは俺がどうこう言えるものではない。
まあ結局は気長に心を開いてくれるのを待つしかないって結論に戻ってしまうんだけどね。
眠気に勝てずに寝てしまった少女を見つつ、アンバーに念話で話し掛ける。
『なあ、もしこの
この質問、俺の持つ〈環境効果無効〉で水中での呼吸や行動が可能だからの問いだったりする。
当然、アンバーもニジも同一のスキルを持ってるから、俺と同じ行動ができる。
『舟でしょ。どこで食事をするつもりよ』
・・・そうか、何日か掛かるだろうし、そのことは考えてなかったな。
流石に水中で食べれる物なんて知らないし、魚をそのまま齧るとか俺には無理だ。
舟を使うとなれば、色々と渡航の手続きがあるんじゃないかな?
つまり正規のルートで移動することになるんだが、そのためには魔国の東、ラー海洋国との交易の玄関口である白波城に行かなければならない。
そこから先の渡航に関する手続きなどは分からないが、これは難しそうだな。
俺が個人的にどうこうできるとは思えない。
そうなると、どこかの街で少女の保護を願い出て、その後は魔国主導で少女の帰国交渉をしてもらった方が良いかも?
できれば俺が帰して上げたかったが、これは俺の手に余ると言う結果になった。
そうなると、少女の事情を確認して、近隣の大きな街に行って領主とかと話をしないとな。
近い所となると、当初の目的だった白雲城だろうか。
領主がまともなやつなら良いが・・・
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