第137話

「うぉぉぉーーーー」


突然のギルマスの雄叫びは、現在戦場のようにバタついているギルドに響いた。


当然、何事か?と人が集まる。

そして、ギルマスの部屋に入れば、所狭しと置かれた虫系魔物の素材が目に入る。

特に目立つのは、ギルマスが最後に見た中型の蜘蛛系魔物素材だろう。

他とは大きさが倍は違うのだから、当たり前である。


もうこうなっては収拾がつかない状態になっていた。

ギルマスの部屋を見た者全てが、矢継ぎ早に質問を投げ掛けるのだが、全員が自分の聞きたいことを喚くので、誰が何を言ってるのかも聞き取れない。


その五月蝿さに、ニジはアンバーの腹の下に隠れてしまった。

何でニジがアンバーの下に隠れられるのか?って言うと、ニジには小型化ってスキルがあったからだ。

本来のサイズでも充分に小さいサイズではあるが、それでも掌よりは大きくて、何とか片手に乗るギリギリなのだ。

流石に目立つから確認したら、このスキルを見つけた訳だ。

で、ここに来るまでは小さくなってもらってて、さっき呼んだ時に元に戻ってもらったって訳だな。


それにしても五月蝿過ぎて何の話もできんなこりゃ。


「ここを何処だと思ってやがるっ!俺の部屋だぁ!呼ばれて無いヤツは出て行きやがれぇ!」

騒ぎにブチ切れたギルマスが叫んでる。

ってか、最初の切っ掛けはアンタの雄叫びなんだけどな!


勇敢な冒険者が一人「ギルマス、無断で入ったのは謝る。だが、この素材の山、どういうことか聞かせてくれないか?」と言い出した。


「馬鹿野郎共!その話をこれから聞こうって時にお前らが乱入してきたんだよ!話が進まねぇから、とっとと出て行きやがれ!」

ギルマスも、まだ話を聞いてないと言うことで渋々出て行く冒険者達。


やっと静かになった室内。

徐に頭を下げるギルマス。


「すまなかった!俺が不用意に大声なんか出したがために、不快な思いをさせた。この通り謝罪する」

・・・自覚はあったのか。


「で、何で雄叫びなんか?」

「ああ、それは・・・報告をしてきたやつが、中型の蜘蛛の魔物がキングだって言ってたんだ。あんたが従魔にしたのでも、中型のでも、どっちがキングだろうと構わないが、その両方がここにいるってことが大暴走が終わったってことになるだろう。それで、ついな・・・」

なるほど、喜びの雄叫びだった訳か。

だけど、実感が無かったとしても報告してるし、その素材も出してたんだから、ギルマスとして、そのくらいの予想と判断はして欲しかったな。

だから、中型の蜘蛛の素材を見て、慌てて実感して大声出すことになるんだろうし

、微妙に残念な感じのギルマスだなぁ。


「・・・それで、すまないが大暴走のことを教えて欲しい」

謝罪をされて、更に下手に出られながら話を聞かせて欲しいと言われれば、話をするために来た俺も話さざるを得ないな。


まあ、発見時からの話をしたとしても、スキルは内緒なので大した内容にはならない。

要は、発見して、方向が不味いから川の方にスキルで誘導して、そこでスキルで殲滅して、キングをスキル使って従魔にして、スキル使って解体して、スキル使って事後処理して、ここに報告に来た、以上!

ギルマスもスキルのことを除かれると話が簡潔になり過ぎて多少は不満そうだが、御法度だと言うことは分かってるから追求はできない。


でまあ、収納鞄のことは伝えたので、大暴走の素材が大量にあることで、一応信用はしてくれた様子だった。

ただ、やはりギルド主導で大暴走の終息を宣言するために確認が必要らしい。

あと、俺は依頼を受けてないので、確認後にならないと討伐費用が出ないって。

まそれは急がないし、待っても良いかな。


ギルマスは、大暴走の防衛戦準備を一時停止させ、その後に確認のための冒険者を送り出し、城主に報告が必要とかで、俺に三日後にギルドに来て欲しいと告げて出て行った。

素材の買取なんかも、三日後に交渉させて欲しいって。


俺は、出していた素材を回収し、ギルドを隠密を使ってそっと出て行く。

変なヤツに見付かると面倒そうだったからだ。


で、街の人に聞きながら、ペット可の宿屋を探した。


*** *** *** *** *** *** 


俺が宿屋を探していた頃、ギルドの受付前にはギルマスの姿があった。


「みんな静かにしてくれ!上級の冒険者がこの街に来る途中で大暴走を発見した。進行方向がこの街であることも確認された」

その言葉で、静まり返っていたギルド内は途端に騒がしくなる。


「静かにしろ!話は最後まで聞け!」

多少のザワザワ感は残っているが、静かになった。


「さっき、俺の部屋に乱入したヤツは何となく分かってるだろうが、その上級の冒険者は危険も顧みず、その場で大暴走を止めることにしたそうだ」

驚きの声が上がるが、声は小さかった。


「そして、二千を超える虫系魔物の大暴走を殲滅したらしい!ただし、それは報告を聞いただけであり、調査をして確認しなければならない。そうでなければ終息宣言はできないからだ!」

ギルマスの言葉に、驚きの声と、喜びの声が混ざる。


「すまんが"荒野の風"には、その調査に出てもらう!この後部屋に来てくれ。詳細を詰めよう。防衛戦の必要は無くなると思うが、終息宣言までの一時的な作業停止とする。いいか!確定では無い!くれぐれも終息宣言前に騒ぐなよ!騒いだヤツは後で〆てやる」

ギルマスは、そう言って"荒野の風"を引き連れて部屋に戻って行った。


残された者達は、喜びたいのに喜べない、なんとも微妙な状態に置かれることになる。

と言って、ギルマスの忠告を無視することはできない。

かと言って、集中できるはずの作業も停止されて、やることが無くなった。

職員が声を出すまで、微妙な空気に中で途方に暮れるしかなかったのだった。



ギルマスは忙しかった。

ギルドで仮の宣言をし、調査のための冒険者を手配し、城主に連絡を入れ、その後に報告に向かい、戻って来て防衛戦用に用意された書類と格闘する。

調査に出した冒険者が帰ってきて報告するまで、防衛戦の体制を崩す訳にはいかないから仕方無いのだが、それでも忙し過ぎると感じていた。

だが、そこにはがくるまでの悲壮感は無かった。


*** *** *** *** *** *** 


エドガーは従魔とペット可の宿屋を発見し、五日ほどの宿泊を決めていた。

「なかなか良い宿だ」と感じているようで、その理由が食材を提供すれば、従魔用やペット用の食事も作ってくれるサービスがあるということだった。


そんな彼は部屋で寛ぎながら、掌にニジを乗せ、その背中や頭を撫でていた。


「ニジって、凄くモフモフしてるんだな!」

そう!ニジは遠目に見るとオーロラ色のせいで、硬い外骨格だと思ってしまうが、実は同系色の割と長い毛が生えていてモフモフなのだ。

だけど、草木のほぼ無い岩石地帯では、直射日光でかなり暑いから邪魔になりそうだな。


そう思ってたが、実は理由があった。

朝露を集めるために毛が生えている方が効率が良いらしい。


朝の温度差で毛に結露した朝露を集めて水分の確保をしていたんだって。

なるほど、そう言う使い方か!


あと、昼は暑いけど、夜はかなり冷え込むみたいで、そのための防寒の役目もあるそうだ。

そうだよな!人と違って服を着たり脱いだりする訳じゃ無いんだから、そういう風に環境に適した体になるんだろう。


でも、予想外にモフモフな仲間だったことが非常に嬉しい。

アンバーはフワフワ、モフモフ。

ニジは少し固めのモフモフ。


うん!どっちも良いな!


おっと、肝心なことを忘れるところだった。

まずは大暴走で手に入れたスキルの確認だな。

凄い数だったから、全然確認できてないんだよ。


えーっと、毒牙、毒液、噛み付き、粘糸、外殻強化、蟻酸、誘引、猛毒、麻痺毒、隠密、気配察知、魔力察知、念話、指示、管理、把握、ロケーション、掘削、土魔法、刺突、斬撃、擬態、熱耐性、環境適応、体色変化、小型化、待ち伏せ、連携、溶解毒、共生っとこの辺りまでは許容範囲かな?


残りの、産卵、寄生、支配は不味い感じがするな。

絶対に、他の生物に産卵するとか、体に侵入して寄生するとか、寄生のついでに体を支配するとかじゃないのか?

ダメだろ、これ・・・

一応、後で確認はするけど、封印行きだろうな。


・・・アンバーとニジの両方とコントラクトを使って置いた方が良いかも?


何故?こんなことを考えたかと言えば、寄生と支配を見てしまったからだ。

本人の意思に関係無く行動させられる可能性を危惧したのだ。

これについては、ニジだけでなく俺やアンバーにも対策が必要だと思う。

これは、今後の課題だな。


隷属で縛るのは俺が嫌だが、お互いに納得して契約するコントラクトなら、アンバーやニジも受け入れ易いだろう。

内容は、後で相談して決めようかな。


それにしても数が多かったから、スキルの種類も豊富だな。

人である俺や、神獣であるアンバーには使えないスキルも多いが、色々と強化できそうだ。



『さて、それじゃあ【ストッカー】よろしく!』

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