第134話

晴嵐城まで、特に問題は無かった。

勿論それは、俺達にとってだが・・・


他者から見れば充分に大問題だったかも知れないことは発生した。

事実、それで到着が一日遅れているので、間違いは無い。


何が起きたかって言えば、まあ単純に魔物が出たってだけなんだが、魔物の種類が問題なのだろう。

小型の魔物ではあるが、俺もアンバーも苦手な虫系の魔物が大量発生してたんだ。


場所は街道から森と草原を挟んだ反対側の岩石地帯だった。

俺達が森を通っていたところ、アンバーが大量の魔物の気配を察知。

俺が望遠、探知、空間認識、空間操作などで再確認したところ大量の小型虫系魔物だと判明。

進行方向が、今向かってる晴嵐城の城下町方向だったことで、アンバーと相談。

結果、殲滅することになった。


これにはアンバーの強い要望があったのだが「初めての街には珍しい食べ物や、美味しい食べ物があるかもしれない。だから、こんな小物に荒らされるなんてダメ!」だそうだ。

あんまりな理由に驚きはしたが、確かにこのまま放置するのはよろしく無い。


それに虫系と言っても、岩石地帯にいた魔物なので飛べるモノが少なかったのと移動速度が遅かった。

そういうモロモロを考慮して殲滅することにしたのだ。


と言っても、俺が使える魔術師、じゃ無かった、魔導師スキルを使ってしまうと周辺被害がとんでもないことになる。


ああー、魔法師スキルの後に上位の魔法師スキルがあって、その上位に魔術師スキルがあって、更に上位に魔導師スキルがあるんだ。

限界突破後に合成していった結果、四属性が全部魔導師スキルになった訳。

ちょっと強力過ぎるんだよね魔導師って、目立つんであんまり練習できてないのも痛い!


ってことで、下の魔法師スキルで行こうと思う。

岩石地帯の虫系魔物は水が苦手だし、少し離れてるけど川があるから、移動方向だけ調整できれば何とかなると思ってる。

ただ、テラーボイスとかは効かないからな、そこは上手く調整できるか分からないけど投爆で、その辺の石を投げて進路調整する予定だ。


「そこ!」バガーン!

「次はこっち!」バガーン!


既に五十個ほど投げたんだが、進路を変更することはできたみたいだ。

虫系魔物も俺が強い敵だと認識したみたいで、俺から逃げるように進路を川の方に向けている。


「もう少し近付いたら、水魔法師の出番だな」

「全部端から斃せば良いのに」

「これって絶対にキングとかがいるだろ?虫系は大きさだけじゃ判断できないから、どれがキングか分からないし」

「そうだったわ。面倒ね」

「もうちょっとの辛抱だよ。ほれ、そこ!進路を外れるな!」バガーン!


誘導しながら調べてたけど、たぶんキングは蜘蛛系の魔物だろう。

中央の後ろ寄りに数匹の中型の蜘蛛系魔物がいて、その上に小型より小さな蜘蛛系魔物が乗ってる。

あの小さい蜘蛛系魔物がキングだと思うんだ。

空間走査で調べた魔物の規模は二千ほど、小型と言っても通常の虫では無いので、小さいもので人の半分ほど、中型は人と同じぐらいになる。

それが二千もいれば、なかなかカオスな見た目である。


俺は余り直視しないように注意してるが、聞こえてくるカサカサと言うか、ガサガサと言うか、その節足動物特有の音だけでも気持ち悪く感じていた。

ただの虫なら問題無いが、あんな大きいのは嫌いなんだよ!


ちなみにアンバーは小さい普通の虫をオモチャにする以外は嫌いだって言ってた。

理由は、毛の間に入って取れないからだって。

モフモフならではの悩みだったよ。


「おっと、そろそろだな」

「エドガーは魔法に集中して、周りは見ておくわ」

「頼んだ!」


まずは、川の水を使って全体を囲う水牢を発動!

高さを出すために通常よりも魔力マシマシだ!


で、次に同じく魔力マシマシで水牢の上から水弾の連打!

ドドッ!ドドドッ!ドドドドッ!と水弾の着弾音が聞こえる。

空間走査で確認してた魔物の数がドンドンと減ってる。


だけど、一回じゃあ足りなかったみたいだ。

ってことで、水弾の連打二回目!

ドドッ!ドドドッ!ドドドドッ!と再度水弾の着弾音が聞こえてきた。


そろそろかな?

魔物の数を再確認。


中型とキングと思われる魔物以外は殲滅完了。

ってか、水魔法師でも魔力マシマシにしたらこれだけの威力が出るのに、更に上の上の上のスキルなんか使ったら、どうなることやら?

怖くて使い道が無いって!


それよりも!

魔物の討伐だった!


キングなのに小型よりも小さいってことは、確実に変異種だろう。

変異種じゃないと、そこまで小さくなることは無いはずだ。

あとは色が何かってことだな。


虫系の魔物は、強くなるほど外骨格が硬くなるんだ。

硬くなるほど色が濃くなっていく、黄色とかが一番柔らかくて、黄、緑、橙、赤、青、紫、黒と言う感じで硬くなっていく。

黄、緑、橙辺りは誤差と思うぐらいの範囲でしか変わらないが、赤ぐらいから急激に硬く感じるようになるのだ。

だから、変異種がどの色なのかで随分変わってくる。


なので、跳躍強化でジャンプして望遠で姿を確認する。


「・・・最悪だな。一番硬いヤツだった」

「えっ!オーロラなの?」


そう、オーロラ。

黒の外骨格が更に硬くなると、段々と光沢を得て、次第に光を反射するようになるんだってよ。

そうすると、表面が光の反射で虹色に見えることがあるんだ。

それがオーロラって言われてる。

つまりに硬いってことだ。


ついでに鑑定眼で確認して見た。


オーロラ・アサシンスパイダー・キング アサシンスパイダーのオーロラ種が、キングになると同時に変異した個体。変異で小さな体になったが、能力に変化は無い。


その上変異種で小さいときた。

「最悪の相手だな」

「どうするの?」

「アンバーは中型の残ってる六匹を相手してくれるか?俺がキングとやるよ」

「私は良いけど、エドガーは大丈夫なの?私みたいに毛が守ってくれないでしょ?」

「そこは、考えがあるから。毒は状態異常無効で効かないし、硬いけど虫系だから薬があるからさ」

「ああー、薬ね。それは効果がありそうね」

「ってことで、水牢解除したらよろしくね。俺はキングを中型から引き剥がして離れるから」

「了解よ!」


さてと、薬を準備してと。


「やるぞ!」

そう言って、水牢を解除した!



水牢が解除され、立ち上がっていた水が地面に落ちる。

バシャー!バシャバシャー!バシャバシャバシャー!


目に入るのは無数の死骸。

その向こうに、中型の蜘蛛系魔物が何匹か纏まっている。

その中央の中型の上に小さな蜘蛛系魔物。

キラキラした体から、間違い無くオーロラ色の変異種でキングだろう。


アンバーと同時に走り出そうと足に力を込めた瞬間!


残っていた中型の蜘蛛系魔物がバラバラになっていく。

俺もアンバーも、その異常な光景に脚が出なかった。

立ち止まったまま見ていると、小さな蜘蛛系魔物は、小さな体を更に小さく縮めて丸まった。


飛び掛るための前動作かと警戒する俺達。

だが、相手は全く動かない。


念話で相談してから、最大限注意してゆっくりと近付いていく。

それでも動かない相手。

流石に、これ以上近付くと回避ができないと思うギリギリまで近付いて、相手を観察した。


観察されていることに気付いたのか、小さな両前足を挙げて振っている。

っ!まさか降参?

虫系魔物が?

聞いたことがないんだけど?


「なあ、アンバー。あれって降参って意味じゃないかと思うんだが?どうだ?」

「私もそう思うんだけど、ありえるのかしら?あっ!ちょっと待ってて」


喋ってる最中に何か思い付いたのか、アンバーが待てと言う。

何をするつもりだ?


少し待っていると「やっぱり降参するって」と言う。

俺が不思議そうにしていると「念話よ!念話で確認してみたら。返事があったの」だって。


確かに、俺もアンバーと使っているし可能性はあったか!

理由も分かったので、俺からも再確認。


『降参するんだな?』

少し驚いたのか、ピクッとしてから。


『どっちも・・・強い・・・勝て・・・無い・・・無理・・・降参・・・』

そんな感じの途切れ途切れの念話が返ってきた。


うん、意味は分かる。

俺達の強さが分かって、勝て無いと思った訳だな。


『これからどうする?人間に危害を加えないなら自由にしても良いぞ』

これは少し甘過ぎる対応かも知れないが、意思疎通ができて、人を害さないってのなら、自由にしても良いかと思ってしまったのだ。


『負け・・・勝った・・・者・・・言う・・・聞く・・・』


うぅん?負けたから勝った者の言うことを聞くってことか?

と言われても、困るんだが?


「エドガー、従魔契約すれば良いじゃない」


ああー、忘れてた、従魔師スキルだな!

確かに、従魔契約すれば連れて歩けるけど、それで良いのかな?


「本人が良いって言ってるんでしょ?勝者に従うって」



確かに、そうなんだけど・・・マジで良いのか?

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