第135話
確かに俺は〈従魔師〉スキルを取得した。
あれは、他の従魔師に初めて会った時のことだ。
アンバーをただの猫だと言ってた頃、その従魔師にアンバーが普通の猫じゃないとバレて「お前は従魔師なのか?ギルドに登録は?」と話し掛けられたのだ。
従魔師ギルドがあるなんて知らなかった、俺は「そんなのがあるのか?」って言ってしまったんだ。
それからが大変で「モグリだ!」とか「従魔師以外が魔物を連れて街に入ってはいけない」だとか騒がれたんだ。
それで仕方無く保留にしてた〈従魔師〉を特殊合成したんだ。
で、その従魔師に「ちょっと待て。仲間と話してくる」って言って、その騒ぎを聞き付けて寄って来た守護者の盾のと打ち合わせをした。
要は、俺に〈従魔師〉スキルが生えてたって設定だ。
ガルさん達は、俺が隠しスキル持ちで、スキルの習得が異常に早いと思ってるから、全く疑問にも思わなかったみたい。
で、俺が打ち合わせたかったのは「ギルドって、絶対に入らないといけないのか?」ってことだった。
冒険者ギルドは、入らないと仕事が請けれないから、入るべきだと分かってる。
商業ギルドも、商業権の発行がギルドの管轄なので、商売をするなら入らなければならない。
他にも、農業、漁業などは必ず入らないと不味いギルドは多々ある。
逆に、調薬とか、鍛冶、錬金術師、魔法師、などは必ずしも入らなければならないと言う訳では無いギルドもある。
これは嘘だとすれば、専門職故に、直ぐ仕事ができなくなるからだ。
鍛冶ができないのに鍛冶師だと名乗ってもどうにもならない訳だな。
と、そこで今回の従魔師なんだが、ガルさん達も従魔師のギルドについては詳しくは知らなかった。
なので、冒険者ギルドにいることだし、職員に確認してみたのだ。
「従魔師ギルドですか?特に絶対に入らなければならないようなことは無かったと思いますよ。仕事自体は、ここで請けられますし」
確かに、従魔師が従魔を使ってやる仕事と言えば、冒険者の仕事だろうな。
それなら、冒険者である俺には必要が無いことになる。
職員が「もしかして、その猫ちゃんは魔物ですか?」だって。
「そうだよ。俺、従魔師スキルがあるから」と、そんな感じで軽く答えといた。
で、肝心の従魔師の人だが、冒険者ギルドに入ってるし必要無いって断った訳だ。
そんな騒動があったので〈従魔師〉スキルを持ってるんだけど、アンバーとは従魔契約をしてない。
必要無いからだが、従魔師を特殊合成するのに〈隷属〉を合成してるのが嫌だったからでもある。
アンバーは俺の相棒で、従えるつもりは無いからだ。
そんな〈従魔師〉スキルを、この蜘蛛系魔物に使うか?と聞かれると、非常に困った。
意思疎通ができない魔物ならば、従える必要性も理解できる。
だが、意思疎通が可能な魔物を隷属させるのは、何かモヤモヤとして嫌だった。
「アンバー、俺は意思疎通が可能な魔物を隷属させるのは嫌だ。だから従魔契約はしない」
「じゃあ、連れて行かないってこと?」
「いいや、そのままアンバーと同じ様に連れて行ってやろうと思ってるよ。言えば分かってくれるんだからな。アンバーが良ければ、仲間になってもらうのはどうだろう?」
「そう言うことね。私は良いわよ。虫は嫌いだけど、この子は頭が良いみたいだし、私の毛の中に隠れても絡んだりしないでしょう?」
アンバーの心配している所が「毛に絡む」ってことだと分かって、思わず吹き出しそうだったが何とか耐えた。
アンバーの了解も得られたことだし。
『君を仲間に迎えるよ。そうなると名前が必要か!君は雄雌どっちだい?』
『・・・雄・・・』
『そうか。じゃあ綺麗な
『・・・仲間・・・良い・・・分かった・・・喜・・・よろ・・・しく・・・』
『そうか良かった。俺はエドガー、彼女はアンバーだ。俺は君を無理矢理縛ったりしない。だから、言うことは聞いて欲しい』
『・・・エドガー・・・主人・・・アンバー・・・嫁・・・俺・・・ニジ・・・家来・・・良い・・・』
『えっ!ちょ、ちょっと待ってくれ!嫁?アンバーが?種族的に無理だろ?』
『・・・違・・・何?・・・』
『私は良いわよ。エドガーが旦那さんでも』
『えっ!違う!種族的に無理だろって言ってるんだけど!』
『そんなこと、神様にお願いすれば、どうにでもなると思うわ』
『いやいや、そんなお願いされた神様も困るだろ!ってか!できるのか?』
『・・・アンバー・・・嫁・・・違う・・・何?・・・』
『ニジも、嫁ってなんだよ!あーもうっ!』
・・・
・・
・
ニジが仲間になって最初のコミュニケーションはとんでもなくカオスだった。
何とかその場の混沌を治めて、無数に転がる死骸を片付けることにした。
一度、全部を無限庫に収納してから解体処理することにした。
虫系の外骨格は硬くて防具の素材として重宝される。
綺麗に処理すれば、割と良い値段で買い取ってもらえる素材なのだ。
俺の持つ〈解体師〉スキルはこう言う時に役立つスキルだ。
元々は、あの伯爵領で守護者の盾と会った時、スロー・モンキーとかゴブリンとかの解体と討伐証明の剥ぎ取りとかがスキルが生える切っ掛けだったんだろう。
あれから彼等と同行する内に〈解体〉スキルが生え、神殿の保存石から得た同一スキルと合成することで今の〈解体師〉になったのだ。
このスキル、大物や複数を解体する時には凄く助かるスキルだったりする。
どう助かるか?って言うと、まず複数の場合。
〈解体〉だと知識的サポートだけで、全部自分でやらなければならない。
が〈解体師〉だと同一種の解体は最初の一体だけで、後はスキルが全部処理してくれる。
つまり、残りはスキルで解体されるのだ。
次に大物の時は、大きいから一人では解体が難しい。
ところが〈解体師〉があると、スキルの補助で大物を俺が解体し易いように移動させてくれるのだ。
簡単に言うと引っくり返したり、保持したりをスキルが補助してくれるんだ。
そこで、この大量の虫系魔物。
同一種がそれなりにいるから、複数を解体することになる。
つまり同一種の最初の一体だけを解体すれば、後は全部スキルの補助で終わると言う凄く楽な作業になってる。
虫系魔物で素材となるのは、まず外骨格、次に顎、爪、羽、魔物石辺りが基本かな。
あとは毒持ちなら毒袋と、蜘蛛系なら糸袋、蟻系なら蜜袋は定番だろう。
他にも薬の素材になる物もあるので、その辺を回収。
それ以外の肉や内臓は基本食べない。
美味しくないのと、病気を持ってる可能性が高いからだ。
廃棄する物は、一箇所に纏めて後で燃やす。
燃やすのは、腐敗を防止するため。
腐肉からは、病気が発生し易いからだ。
二千近い魔物の解体としては異常とも言える短時間で処理を終え、気になったことをニジに確認してみた。
『何で他の蜘蛛の魔物をニジが斃したんだ?』
『・・・命令・・・聞かない・・・戦う・・・降参・・・無理・・・』
・・・他の蜘蛛の魔物がニジの命令を聞かなかったってことかな?
で、戦いだすとニジが降参できなくなる。
だから、自分で斃したってことだろうか?
『なるほど、ニジ以外は、それほど知能が発達してなかったのかな?』
『・・・正・・・』
これは俺が言ってることが正しいってことだろう。
何となくニジとの意思疎通の感じが分かってきたぞ。
廃棄物が燃えるのを待ちながら、そんな風に新しい仲間であるニジと意思疎通をして過ごした。
さて、事後処理は終わったけれど、この素材をギルドに売却するなら報告が必要だろうな。
まあ、そこは七つ星で従魔師だし何とかできるだろう。
そろそろ俺自身の実力が認められてきてるし、過剰な能力のスキルは使わないにしても、俺に手を出せば危険だと言う認識を周囲に持ってもらうべきだろう。
この前のオーガの黒色変異種の進化個体、今回の大暴走してた大量の虫系の魔物。
この二つだけでも、充分なインパクトはあるはずだ。
後は、盗賊団とかを壊滅とかさせればダメ押しできそうだけど・・・
別に俺は戦闘狂じゃないし、態々探してまでやろうって気は起きない。
壊滅って言っても、殺す気もあんまり無いんだよな。
前の俺だと薬が無かったら、やらないと逆にやられるってのがあって、盗賊の命に構ってられなかったけど、今の俺だと無傷で結構簡単に制圧できるからな。
もう、守護者の盾の名前は使えないが、俺の名前だけで通るようになれば、下手に俺に絡むヤツはいなくなるはずだ。
大暴走してた大量の虫系の魔物の殲滅と、そのキングとの従魔契約は俺の実力を示すのに良い札だろう。
じゃあ、晴嵐城の城下町に向かうか!
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