第133話

十日前、取り決めだった七つ星になった俺は、同行していた守護者の盾の皆と約束通りに別れることになった。

まあそれで、四日前にお別れ会みたいなものを開き、俺の料理が気に入っていた彼等に料理を振舞った。


その翌日、皆が酔い潰れて寝てる内に宿を引き払い、そのまま旅に出たのだ。

挨拶もせずに不義理だと思うかもしれないが、彼等宛てに手紙を残してあるので許してくれるだろう。


何故か?って、俺も三年半で守護者の盾に馴染み過ぎていたんだよ。

だから、何も言われないように早朝に出発したんだ。


行き先は手紙に書いてないし、彼等も分かってるだろうから追い掛けて来ることも無いだろう。

なので、これからは、また昔通りにアンバーとの二人旅である。


今向かってるのは紫雲城から南東方向にある晴嵐城だ。

紫雲城と晴嵐城の道程には、赤雲城と黒岩城があるが、そこには寄らないつもりだ。


理由は、紫雲城のギルドでの不正騒ぎで分かったことだが、赤雲城と黒岩城のギルドにも同様の嫌疑が掛けられているらしい。

そんなゴタゴタしそうなギルドがある所に行きたくないからだ。


それ以外にも、限界突破を三つ集めたので合成してみたいと思ってる。

ただ、スキル関係のモロモロは人目に触れないようにしないと不味いので、少々街道から離れて移動している今の状況みたいな時の方が良いのだ。


「アンバー、早目に今日の野営地を見付けたいんだけど、良いか?」

「良いわよ。この辺は魔物の気配も少ないし、強そうな気配も無いから問題無いわ」

「了解!」


返事と同時に、地形認識、空間認識、地図化を連続使用して周辺情報を取得する。

特に地下に空洞などは無いようだし、この辺で空間結界を展開しようかな。


森の中の一角に空間結界で安全な場所が確保できたぞ。

これで周囲の状況が変わっても問題は無いな。


安全が確保できたし、スキルの合成に挑戦しようかな。


『限界突破を合成するための要件が満たされていません。合成には神級のスキルが最低一つ必要です』


・・・ダメだったか。

まあそれは良いや。

こんな破格のスキルが簡単に合成できたら良いな!程度にしか考えてなかったからな。


ただ、必要な要件の方が問題だ。

何だよ、神級のスキルって!

神様からスキルを奪って来い!とでも言うのか?


はぁ、こりゃあ無理だな。

どう考えても、神級スキルってのは俺が手を出せる物じゃ無いと思う。

神様に喧嘩を売りたいとも思わないし、限界突破二つも決定かな?


俺は他にもしてるスキルがある。

持ってないはずの戦闘系スキルとか、持ってないはずの魔法系スキルとかが、その対象だ。

咄嗟にスキルを使ってしまうことを危惧して、そういう風にスキルを隔離してるんだが、これも限界突破で【ストッカー】が進化したことで可能になったことだった。


俺はこれまでの旅の中で、いくつもの神殿の不正を協力者達に報告してきた。

その度に保存石を回収してきたのだが、限界突破を得た直後、一番最初に反応したのは【ストッカー】と言う枠外スキルだったのだ。

あの時は、限界突破によって【ストッカー】が進化可能だと言うことにも驚いたが、保存石が必要だと言うことにも驚いたんだよな。


で、【ストッカー】を進化させる時に分かったことがある。


保存石には、その大きさでスキルを保存できる最大容量が決まるらしい。

俺が持ってた保存石の中で一番小さかったのが、トリニードの街を出る時に餞別に貰ったヤツだった。

あの保存石が最大で千二百のスキルを保存可能だった。

他の保存石はそれより大きかったので、かなりの数のスキルを保存可能だった訳だ。


進化に保存石が必要なことは分かったが、他に必要なこともあった。

保存石を、特殊な方法で加工する必要があったのだ。


それを可能にするのが〈アルケミスト〉と言う錬金術師の上位スキルだった。

調薬スキルって便利だと思うのだが、必要としない人もいるようで、保存石にはかなりの数の調薬スキルが入っていた。

それを合成していくことで、錬金術師スキルを一段階上の〈アルケミスト〉スキルにしたのだ。


新しいスキルを使って、除去、練成、加工、圧縮、結晶化という行程を経て出来上がったのが、水晶の結晶体のような物だった。

これと、他人には見えないが俺が本のようだと認識していた【ストッカー】が合体し、黒い水晶の結晶体に金糸が入ったような物が出来上がった。

それこそが【ストッカー】の進化した姿だった。


スキルのストック数は、保存石を加工する際に不純物を除去したことで飛躍的に増えた。

当時の結晶体の状態で、凡そ三万だった。

今は、その後に回収した保存石を加工した物も合成することで、凡そ六万になってる。


【ストッカー】自体の機能も変化していて、スキルの種類分けや、一時的な無効化(一時的封印って呼んでるやつ)、自動合成(指定したスキルのみ)などができるようになったのだ。

ただ結晶体と合体したことで物体として存在することになり、今は俺のペンダントとして首に掛かってる。

一番注意しないといけないのは、物体化しているので盗難されることかな。


まあそんな訳で【ストッカー】の新しい機能でしてるスキルがある訳だ。


「さて、限界突破は合成できなかったし、そうすると急いでやることも無い訳だが、アンバーはどうしたい?」

「美味しい食事でしょ?」

「はいはい。アンバーのリクエストに応えようか、何が良い?」

「トロトロに煮込んだお肉!」

「あーあれか!良いぞ。今日はまだ早いし、じっくり煮込めるからな」

「嬉しいわ!」


俺は、アンバーのリクエスト通りに料理の準備を始めたのだった。



そういえば、昔ゴブリン討伐で大量に手に入れたスキル、悪食と悪臭無効があっただろ。

あれって実は、限界突破が手に入ってから合成してみたんだよ。

悪食は合成後に状態異常耐性と更に合成することで〈状態異常無効〉になった。


・状態異常無効スキル --- あらゆる状態異常を無効化できる


悪臭無効は合成後に水中呼吸とか水中行動とか色々なのと合成することで〈環境効果無効〉になった。


・環境効果無効スキル --- あらゆる環境による効果を無効化できる


この二つで、色んな依頼がやり易くなったんだよな。

ちなみにアンバーも、この二つを持ってる。

俺の【ストッカー】で合成してやったんだ。


何でこんな話をしてるかって言うと、今いる魔国って南にあるんで凄く暑いんだよ。

それに加えてグルリと海に囲まれてるんで湿度が高いんだ。

つまり、非常に蒸し暑い訳だ。

そんな中、快適に過ごせてる俺達は〈環境効果無効〉のお陰ってことなんだよ。


考えてもらえば分かるんだけど、こんなに蒸し暑い場所で、トロトロに煮込んだ肉を食べる気になると思うか?

普通は無理だよな。


でも、俺達には関係無い。

食べたい物を食べたい時に食べられるってだけでも、ありがたいスキルってことだ。



「アンバーできたぞ」

「待ってたわ!」


できあがった料理をアンバーに出してやる。

俺も、パンを片手に同じ物を食べる。



さてと、明日はちょっと距離を稼ごうかな。

「アンバー、明日は移動を頼んでも良いか?」

「良いわよ。でも急ぐ必要があるの?」

「いや、特には無いんだけど、珍しい食糧とか探してみたいなって思ってさ」

「それは良いわね!美味しい物が見付かれば嬉しいし、そう言うことなら走ってあげる!」



これで明日の予定も決まったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る