第132話
ガルさんの要望で呼ばれたギルドマスター(ギルマス)が「事情を確認する」と言って個室へ移ろうとしたが、俺はその場でもう一度同じことを説明する。
勿論テラーボイスも使ってだ。
「それを詳しく聞くために個室に行こうとしたんだが」と言い出したギルマスの声に被せるようにガルさんが言葉を続けた。
「このミスは個室で話して終わるような内容じゃ無い。少なくともエドガーは死に掛けたんだ。明日は、ここの冒険者の誰かが犠牲になってるかもしれない。俺達も、エドガーが被害に遭ったことより、この城下町ギルドの冒険者達が同様の被害に遭わない様にするためにギルマスを呼んだんだが?それでも個室での密談を望むのか?」
これには流石にギルマスも否とは言えなかった。
結果、ギルドにいる全ての冒険者の前で話し合いが行われることになってしまったのだった。
「先に、エドガー討伐対象はどうした?」
「ガルさん、勿論そのままの状態で持って帰ってるよ」
俺は、そう答えたが、実際は少々細工をしてある。
いきなり首を落として終了ってのは、流石に色々と不味いと分かってるからな。
両膝と両手首に槍で突いた傷を複数つけてあるのだ。
「おーい、少し場所が必要なんだ。テーブルとイスを脇に避けてくれ」
そう周囲にいる冒険者に頼む。
少しして充分な広さが確保できたと確認して、無限庫からブラック・オーガ・アーツの死骸を出す。
これは、収納系スキルを知られている訳では無く、彼等との旅で見付けた収納鞄の効果ということになってる。
収納鞄はエスクラさんとローベンさんも一つずつ持ってて、容量は中規模だが時間停止と時間遅延の物がある。
こういうのを遺物って呼ぶらしい。
俺の見付けた物は収納鞄ではあったのだが、容量が小さくて俺には使い道が無かったが「容量が大きかった特別な鞄だった」ということにして、俺の収納系スキルを誤魔化してきたのだ。
あっ!ちなみに俺の収納系スキルは〈無限庫〉容量はいくらでも入るけど、時間経過は千分の一って感じだ。
さて、その言う訳で収納鞄から出したように見せて収納から出したんだが、その姿は改めて見ても大きい。
周囲で見ている冒険者も絶句している。
「ギルマス、これをどう見たら、通常のオーガの変異種と見間違えるんだ?体長だけで、1.5倍はあるぞ?」
「・・・それは・・・」
「横からすいませんが、ギルマス?俺は契約魔法が使えます。今回のギルドの不始末について俺と契約しませんか?もし「できない」と言うのなら、ギルマスの言葉は信用するに値しないと言うことになりますがね」
この契約魔法スキルは、マジで自然に生えてたんだよな。
時期は去年の今頃だったと思うが、ローベンさんとある料理の味について意見が食い違ったことがあったんだ。
その時に「じゃあ賭けようか?」と言われて「乗った!」と言った瞬間に、無意識に契約魔法スキルが発動したんだ。
あれには全員が驚いたが、後で皆が色々調べてくれた結果、俺の行動が要因だと言われたんだ。
彼等に俺が決めたルールを守らせるために、いつも罰を決めてたんだけど、どうもそれが〈契約魔法スキル〉を取得する方法として古くから実践されている内容と同じだったらしい。
俺は、特に使いたいスキルでも無かったし、元々契約魔法を持ってたから意識しなかったんだが皆は違ったようで、それ以来、俺と無理そうな約束はしなくなったんだよな。
俺が契約魔法で罰を与えるとか思ったんだろうか?
「そりゃあ良い!ギルマス、別に疚しいことが無いなら問題無いだろう?」
俺は、何となくギルマスだけじゃなくて他のギルド職員も怪しいと思ってたんだが、ガルさんはギルマスを確実に怪しんでるな。
何か俺のこと以外に問題があったんだろうか?
そんな俺の気持ちに気付いたのかエスクラさんが小声で教えてくれた。
「私達の依頼でも情報間違いがあってね。エドガーの薬が無かったらエドバンが死んでたかも知れないのよ」
・・・そりゃあ、怒るわ。
チラッとエドバンさんを見ると、確かに、いつも胸を覆っていた鎧が無かった。
装備できない程に変形したってことだろう。
そう考えれば、それは致命傷だった可能性が高い。
そんな会話を俺達がしている頃、ギルマスとの話し合いの方法が変わっていた。
ギルマスが顔色を悪くしているので、これでは話にならないとローベンさんが話し合いを進めることにしたようだ。
どうもガルさんの怒りが頂点に達していて、既に話し合いでは無く尋問になってて、それが何時拷問になってもおかしくないと判断されたらしい。
あーあ、こりゃあ長引きそうだな。
事実、凄い長かった。
徹夜しても足りずに城主まで呼び出して、ギルマス以下八名の職員が拘束されることになった。
彼らは、高難易度の依頼の情報を精査するべきなのに、その費用を着服して、精査せずにそのままにした。
つまり、業務上横領、業務上過失傷害、業務上過失致死と罪状が出る出る。
余りの惨さに城主も呆れ果て、余罪を厳しく追及すると言ってた。
そんなバタバタの最後を締め括ったのは、俺の昇格だった。
「エドガーさん、依頼達成です。それと、おめでとうございます!これで七つ星ですよ!」
報酬と一緒に星が一つ追加されたギルド証を受け取る。
とうとうここまで来た。
それは単純に嬉しいことだが、と同時に寂しいことでもある。
俺が七つ星になったと言うことは、これで守護者の盾とお別れだからだ。
それは六つ星に上がった時から告げられていたことだった。
「エドガーやったな!」
「おめでとう!」
「とうとう七つまで来たね!」
守護者の盾の面々が口々に祝いの言葉をくれる。
その言葉を受けながらこの三年半のことを思い返す。
最初の頃は、辛かった。
高難易度の依頼に同行するだけで、命の危機を何度感じただろう。
離れて見てるだけで良いと言われても、そう言う場所は周囲にいる魔物もそれなりに強かった。
彼等が討伐対象と戦っている最中、俺は離れた所で別の魔物と命懸けで戦ってたりしたんだ。
まあ、いざと言う時はアンバーが助けてくれたりしたんだが、その辺から、アンバーの話し方が変わってきたんだよな。
彼等の性格も色々あったよな。
基本的に上級の冒険者としての知識も経験もある人達ではあったが、色々と問題があったんだよな。
一番は、身内に甘いこと!
何故か?全員が身内には甘いんだ。
だから、ミスをしてても、身内の中のことだからって注意もしない。
俺が入ったことで、その辺の意識改革をさせたんだけど、手間取ったんだよな。
色々迷惑も掛けられたんだけど、俺も迷惑は掛けたし、そこはお互い様って感じ。
何より、彼等は性格が良いから、怒るに怒り難かった。
俺が〈シェフ〉を得てからは料理番みたいにされて、でも美味そうに食べてくれるのは嬉しかった。
ただ、余り飲むな!って言ってるのに「俺のツマミが美味いから」とか言って、二日酔いになるほど飲むのは最後まで直せなかったな。
剣や盾、魔法の訓練なんかもしてもらったな。
色んな街で、色んな人と顔繋ぎもしてもらった。
良い宿屋や鍛冶屋も教えられた。
他国に行く時の注意点なんかも初めて知ったことがあった。
ご当地の名物料理も教えてもらったな。
変なことも、迷惑なことも、危ないことも、楽しいことも、面白いことも、美味しいものも一杯あった。
これが最後になるとは頭では理解できてた。
俺のスキルのことがあるから、ずっと一緒にいることはできないと分かってたんだ。
でも、いざその時になると、なかなか難しい。
それだけ俺も、守護者の盾に馴染んでいた、と言うことなのだろうな。
「で、エドガーは、何時までここにいるつもりなんだ?」
「数日は休息かな。その間に、今後のことを考えるつもり」
「あーあ、エドガーの作る料理も食べ納めかー残念!」
「私も、エドガーの作った乾燥果物を追加できなくなるのね」
「酒のツマミもだぞ。アレが無くなるのは損失だ」
料理に、乾燥果物に、ツマミにって、ガルさん以外の皆が言ってるのって、みんな食い物のことばかりなんだけど?
はぁー、分かってる。
そんなに気を使わなくて良いのに。
別れを惜しんでるのは俺だけじゃ無いってことだろ。
「じゃあ、俺がこの街を出る前に俺の料理を腹一杯食べてもらおうかな?」
「「「「「「うおぉーやったぜ!」」」」」」
当分会う機会も無いだろうし、そのくらいは良いだろう。
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