第130話
どれぐらい厳しかったかって言うと、俺が投げた上級の回復薬が五十を超えてたんだよな。
単純換算で金額にして、金貨約百八十枚!
まあ、俺は技術料だけで売ってるから実質は六十枚ぐらいだけど。
ってか、上級の回復薬じゃないと回復できない攻撃を最低でも五十回は受けてる前衛が凄いって話だな!
それで破格だって言った、その変異種であるブラック・ミノタウロス・アーツが持っていたスキルが・・・〈限界突破〉・・・だった。
何が凄いか?っていうと、これを持ってると色々なスキルに設けられている取得条件の限界を突破できるらしい。
これは【ストッカー】が教えてくれたんだけどね。
で、その限界ってのが、人族だと戦闘系スキルは成長できても「〇聖」までってことだった。
〇聖ってのは、〇に武器名が入るんだけど、例えば剣聖とか、槍聖とかって感じだな。
勿論、最初からもっと上のスキルを得ていれば別だけど、下から成長させられるのは、そこが限界だって話らしい。
他にも、一つの戦闘系スキルが上限に達してしまうと、他の戦闘系スキルは成長できる限界が下がるらしい。
つまり複数の「〇聖」スキルは得られないのだ。
だが、この限界突破はそれさえも可能にする。
分かるだろう?これが転機だったって!
俺も、旅の中で大量のスキルを得てたけど、ある一定以上には成長させられずに停滞してたんだ。
だけど、この〈限界突破〉を得た途端【ストッカー】の超、超、超長い案内が脳内に溢れて危うく気絶するところだった。
まあ、それは強制的にストップして後で纏めて確認したんだけどね。
結果として、俺の戦力は大幅に強化された訳だ。
何せ、あの時までの旅の中で、十を超える神殿の不正情報を集めては帝国のナイフォード侯爵と王国のゼルシア様達に送ってきたのだ。
その度に回収していた保存石も同数集まっていたし、その中のスキルの数は膨大だった。
それを合成し続けていたことで、成長限界に達していたスキルも大量にあったのだ。
それが全て〈限界突破〉によって、次の成長が可能になったのだから、色々と凄いことになるって想像できるだろう。
そうそう、その保存石のお陰で、目利きスキルが物品鑑定スキルに成長したんだ!
目利きでは確認できなかった品物の細かい情報が見れるようになったんだ。
で、そのスキルで変異種のミノタウロスの角を鑑定したところ、こんな文言があった。
ブラック・ミノタウロス・アーツの角 ミノタウロスの黒色変異種が進化した個体。七種の武具に精通し、全てで聖を取得したことでアーツの称号を得た。
この「全てで聖を取得したことでアーツの称号を得た」って文言が気になって、色々調べたんだ。
調べて分かったのは、武具系スキルを七種とも聖にすることで、アーツの称号が得られると同時に〈限界突破〉のスキルが解放されることだった。
つまり〈限界突破〉は、普通に取得することは不可能なスキルだった訳である。
俺はけして自分の運が良いとは思っていない。
ってか、そう思ってた。
でも現実を見ると、確かに子供の時に両親が亡くなり孤児院で生活はしたが、そのことで自分のスキルを知り、生きる方法を見付け、アンバーという相棒ができ、大量のスキルを得て強くなっている。
運が良いのだろう、と今では思う。
特に〈限界突破〉を得たことで、強くそう思うようになった。
と同時に、少し怖くもなったが。
何が怖いか?って、〈限界突破〉によって色々なスキルが成長できるようになった中に物品鑑定も入っていたんだ。
成長後のそれは〈鑑定眼〉意識して見ることで、人であろうが物であろうが鑑定できるようになったのだ。
まあその結果として自分を見たら、見たくないモノが見えてしまったんだが。
名前 エドガー
種族 人族?
年齢 18
職業 戦闘職(生産も可能)
何で俺が『戦闘職?』と考えて「確かに生産より戦闘の経験の方が上がってるな」と気付いた。
俺としては生産職でいたかったが、状況的に難しかったことは確かだし、そこは我慢して、今後戦闘よりも生産に力を入れれば良い。
そう考えたのだが、そこでおかしな記号に気付いたんだ。
人族?・・・この?記号が気になった。
他の人を鑑定しても、この記号は付いていない。
そのことに、少なからぬ不安を覚えたのだ。
それが俺の心の中で、不安から怖さに変化していった。
今はどうか?って、諦めたよ!
どうにかなるもんでも無さそうだし「諦めるに限る!」って、そう考えるようにしてる。
過去の話はここまでにして、現在の話に戻そう。
現在の俺は、ある依頼を受けて移動中だ。
その依頼の対象が、どうやら変異種らしい。
あの時の様な特殊個体は出ないと思っているが、何か嫌な予感がしてる。
こんな状況だから過去のことを思い出していたのかもしれないな。
「なあ、アンバー。変な感じはしないか?」
「特におかしな気配とかは無いわよ」
ああそう、アンバーは神獣になったことで、普通に話せるようになったんだ。
今でも他人の前では念話だけど、二人だけの時は普通に話してるんだ。
「そうか・・・でも、何か嫌な感じがする。気を付けてくれ」
「エドガーの勘って当たるんだよねぇ。嫌だなぁ」
そんなことを言われても、俺が困る。
依頼を受けてなければ、帰りたいぐらいなんだ。
まあ、そうは思っても対象の姿も見ずに逃げ帰ることはできない。
折角積み上げた信用を無くしてしまう。
その日は移動で潰れ、目的地まで到着することもできなかった。
地図の精度が悪過ぎて、距離感がおかしかったのだ。
「ったく、何でこんなに距離が違ってんだよ!」
「ここで怒っても仕方無いでしょ。踏破地域を広げると思って諦めたら?」
なんか最近、アンバーの態度が昔ほど可愛くないんだよな。
俺が説教されてるし・・・何時の間にか姉貴ができたみたいな・・・
「分かった、分かった。空間結界を張っちまうよ」
「この辺に魔物の気配は無いし、無くても良いわよ」
「そうは言っても、何があるか分からないだろ。アンバーが寝ずの番とか俺が嫌だし」
「あら!ありがとう」
本当に、アンバーの話し方がお姉さんっぽくなってきたよな。
そんな感想を胸にしまって、自分達の周りに空間結界を張った。
翌日、空が白み始めた頃。
「エドガー、何か大きいのが近付いてるわよ」
そんなアンバーの声で目を覚ます。
「空間走査、魔物!」
咄嗟に魔法を使い状況を調べる。
確かに目的地方向から、魔物が一体近づいて来ている。
「これは、あれか?獲物が近付いて来てないか?」
「そうみたいだよね。何で?」
「俺が知ってると思うか?」
「だよねぇ。でも、迎え撃たないと、でしょ?」
「違いないな!」
少し離れた所にある森の中から、バキッバキッと木々を折る音が近付いて来ていることだし、準備をするか!
「・・・デカッ!」
視界に入った討伐対象は、明らかに依頼書の内容とは大きさが違っている。
だが、それ以外の特徴は一致してるってことは?
これを討伐しろってことか?
「なあ、大きさが違い過ぎてるんだが、逃げても良いと思うか?」
「別に良いと思うけど、大きさが違うって証拠は無いよ?」
だよな、確かにそうだろう。
って結局討伐しなきゃならねぇんじゃないか!
「取り敢えず、鑑定!」
ブラック・オーガ・アーツ オーガの黒色変異種が進化した個体。七種の武具に精通し、全てで聖を取得したことでアーツの称号を得た。
がー!変異種の進化個体だぁ!
ミノタウロスの再来みたいなもんじゃないか!
って驚くとでも思ったか?
俺はあの時とは違うんだよ。
変異種の進化個体とやるのは三度目だしな。
ただ、オーガってのが問題か?
あいつら、ただでさえ体が硬いんだよな。
まあ、いつも通りにやるか!
外野もいないし、この程度なら余裕、余裕!
それよりも〈限界突破〉が三つ目になる方が気になるんだよ!
「全力でやるぞ!アンバー!」
「良いわよ!」
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