第124話

街を出て南の街道を歩いているのだが、尾行されているっぽい。

たぶん三人だと思うのだが、どうも尾行の仕方が下手で、簡単に見つけてしまった。

移動方向が同じだけの冒険者なら別に気にすることも無いのだが、本気で尾行されているとなると、下手な尾行しかできない三人だけとは考え難い。

少々悩んでから、まずは尾行なのか?違うのか?その確認を先にすることにした。


目的だった場所までまだ距離があるし、スロー・モンキーの縄張りになってる森を通ることになるが、隠密で何とでもなる。

そう割り切って、西側の森に向かって街道を離れて歩き出す。


気配の感じは、やっぱり尾行のようだった。

街道を外れた俺の跡をつけて来ているのが分かった。


森の手前で一旦止まり、森の中の気配を探る。

外周部分に気配は感じられないが、少し入り込むと途端に気配が多いことが分かる。


これなら森に入って尾行者から見えなくなった所で隠密を使えば、俺がどこに行ったか分からなくさせれそうだ。

仮に足跡やその他の痕跡を探せる人間がいたとしても、スロー・モンキーの縄張りの中で投石を何とかしながら俺を追い続けるのは難しいだろう。


そこまで考えてから、森に入って木々に隠れるように歩き出した。

勿論、相手の姿が確認できなくなった瞬間に隠密を使ってる。

尾行者には、そのまま森の奥に進んだように見えるだろう。

まあ、じっさいに進んでるんだが、尾行者は俺がどこに行ったか判断に迷うはずだ。


さて、のんびりとスロー・モンキーの縄張りを歩きつつ、尾行者のことを考える。

誰が、俺を尾行をさせているのか?

思い当たるのは三つ、伯爵家、ギルド、そして守護者の盾。


最後の一つは可能性としてありえるから名前を挙げたが、俺は無いだろうと思ってる。

俺にバレた時に追及されるのが分かってるはずだし、仮に尾行をさせるならキャスさんに任せるだろう。


伯爵家は、俺が仲介してることになってる薬師の情報が欲しいのだろうと推測できる。


ギルドは、俺が勧誘を断ったことで本当に守護者の盾と行動を共にするのか監視してるって可能性。

あとは、俺が有能だって言ってた感じから、俺の能力を測りたいって線だ。


伯爵家とギルドは、街を出てしまえば良いだけなので尾行を撒いても問題無い。

守護者の盾は、キャスさんじゃ無い時点で気にしなくて良さそうだ。


さて、とっとと良さそうな拠点を見付けないとな。


森を歩き、途中で進む方向を南に変更。

暫く歩いていると、スロー・モンキーの縄張りから出た。

そのまま進んで、森と草原の境目が見えた所で停止して周辺の状況を確認した。


『アンバー、この辺で野営の準備をしようと思うけど、どうかな?』

『分かんない!周りを見てきても良い?』

『良いぞ。他に良さそうな所があったら教えてくれよ』

『うん!』

そう言って、俺の肩から飛び降りたアンバーは凄い速度で走り去ってしまった。

俺は、ちょっとだけ苦笑して、野営の準備をするか悩む。


アンバーが良い所を見付けて来てくれれば移動することになるし、一旦は保留して食事の用意をしておいてやろうかな。


食事の用意はできたのだが、アンバーが帰ってこない。

念話で呼び掛けようかとも考えたが、狩りがしたいと言ってたので、少し様子を見ることにした。


その間に、先日手に入れたスキルの確認作業をしておこう。

まずは、気になっていた空間魔術師スキルだ。

何ができるのか楽しみである。


方向認識 --- 向かっている方角を正確に知ることができる。

地形認識 --- 自分を中心に、横方向にある程度の範囲の地形を知ることができる。

識別   --- ある程度の範囲の生物を、仲間とそれ以外で識別できる。


空間認識 --- 縦横両方向にある程度の範囲の空間を知ることができる。

空間走査 --- 空間認識の範囲内で、特定のモノを探し出すことができる。

地図化  --- 自身が移動したことのある場所を脳内に地図化でき、その情報を記憶できる。

現在地認識 --- 世界基準点からの現在位置情報を知ることができる。

地点登録 --- 現在地認識した地点を脳内に登録できる。


空間結界 --- 充分な魔力があれば、自身を中心に結界を作ることができる。

空間断裂 --- 充分な魔力があれば、指定した場所の空間を切り裂くことができる。

亜空庫作成 --- 充分な魔力があれば、自分だけの亜空間を作り出し、そこに物を保管できる。


色々と分からないことが多いな。

世界基準って何?とか、充分な魔力があればってどれ位?とか、亜空間って何?とか思うが、自分だけでは答えが出せない。


取り敢えず、色々と試してみるしかなさそうだ。

まずは"方向認識"からだな。

太陽の位置から大体の方向を予想してスキルを使ってみると、微妙にズレていることが感覚的に分かる。

それがスキルの効果なのだろう。

深い森の中で方向を見失った時には役立つかもしれないな。


"地形認識"は、もっと分かり易くて、頭の中に地面の凹凸の具合が絵の様に浮かんできた。

ただ、こんな平地では使い道が限られてる気がする。

岩場や、岩石地帯、渓谷なんかだと役立つかも?


"識別"は、今現在周辺に仲間がいないから・・・もしかしたら何か引っ掛かるかも?

そんな気がして使うだけ使ってみたが、やっぱり周辺に仲間はいないみたいだった。

感覚としては、さっき使った地形認識に、青い印が出る感じで、俺の印しか感じられなかった。


次に"空間認識"を使ったのだが、"地形認識"との違いが分かり難い。

目を凝らして見ると、地面の下に何か細い通路?みたいな・・・ああっ!モグラの穴か!

つまり"地形認識"だと地表面、"空間認識"だと地下とかの範囲内に入った構造自体が理解できるのか!

これって・・・建物内で使ったら、例えば伯爵家とかの間取りとか全部分かっちゃうんじゃ・・・使い所を考えないと不味いかもな。


"空間走査"は特定のモノを探せるみたいだけど、取り敢えずナール草でも・・・

うわっ!この赤い点が全部ナール草なのか!

"空間認識"の地表面に点々と点いている赤い点、どうもこれが全部目的のモノらしい。

凄いなコレ!素材採取の効率が段違いだぞ!

非常に使い勝手の良さそうなスキルだ。

俺の目的である生産職の素材集めには、なくてはならないスキルになりそうだ。


"地図化"は言葉通り、行ったことのある場所を地図として脳内に映し出せるようだ。

ただ、範囲を指定しないとダメらしい。

何故か?って、現に今の俺は惨い頭痛に苛まれているからだ。

たぶん、広範囲の地図化は、情報が多過ぎて人の体では処理仕切れていないんじゃないだろうか?

もしかしたら、慣れとかもあるかもしれないが、今は無理!

余りのことに、咄嗟にスキルを使うのを止めたのに頭痛が酷いからな。


頭痛が治まるのを待つ間、少し休憩。

お茶を飲んで、気分を落ち着かせる。

リラックスしてくると、段々と頭痛も治まってきた。


さて次だが、"現在地認識"って必要なのだろうか?

"地形認識"や"空間認識"、"地図化"なんかで、俺自身の周囲のことは把握できてると思うのだ。

それなのに態々、現在地を認識するという行為の意味が分からなかった。

分からないが、取り敢えず試してみないと始まらない。

で、使ってみたのだが・・・もっと意味が分からなくなった。

数字が大量に脳内に表示されてる。

二桁、二桁、四桁の組み合わせと、三桁、二桁、四桁の組み合わせ、最後に五桁、二桁、五桁の組み合わせの数字の羅列だった。

これに何の意味があるのか?

これが現在地の情報なのか?

場所を数字で表してるってことか?

全く持って、意味が分からない。


"地点登録"は、この意味不明は数字の羅列を場所として記憶するスキルみたいだった。

ただ、意味の分からない数字を覚えて何の役に立つのかは、やはり理解できなかった。


残り三つのスキルは残念だった。


"空間結界"、"空間断裂"、"亜空庫作成"の三つは『魔力量が不足しているため、使用できません』と言うメッセージが聞こえただけだった。

じっさいのところ、俺がどれだけの魔力を持ってるかすら分かってないし、必要な魔力の量も分からないから、どうすれば良いのかも良く分からない。


いつか使えるようになるんだろうか?

というか、魔力ってどうやって増やすんだろう?

エスクラさんにでも聞いてみるかな?

・・・でも、魔法を使えないはずの俺が聞くのは変に思われるかも?



何か良いタイミングでもあれば聞いてみたいな。

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