第125話

ふー、空間魔法は面白そうなんだけど、分からないことも理解できないことも多くて色々と困る。

ゴブリンが持ってたくらいだから、もっと単純に使える魔法スキルかと思ったんだけど、期待外れと言うよりも予想外に難しい感じだ。

まあ、使える魔法もあることだし、そこは有効活用するとして、他にも確認しておきたい魔法スキルがあるんだよな。


火と土が魔術師になってるから確認はしたいんだけど、森の近くで火は不味いよな。

となると、今確実に確認できるのは土魔術師スキルかな。

取り敢えずは、火魔術師スキルも確認だけはしとかないとな。


・火球、火壁、火槍、火牢、火陣、火舞、加速、火纏、業火球、爆炎、火炎竜巻


何となく風魔法師スキルに近い物も多いけど、最後の三つが魔術師スキルになって追加された分かな?

名前だけで何となくヤバそうな気がするんだけど、気のせいじゃ無いよな?

ここでの確認作業は絶対にしない!

森林火災とか、スロー・モンキーがどうのと違って完全な災害だから!


こっちの土魔術師スキルはそんな事無いよな。

そう思いながら確認してみる。


・土球、土壁、土槍、土牢、土陣、土塵、重圧、硬化、地割れ、天地返し、大地震


・・・こっちの追加された三つもヤバかった・・・

地割れも、大地震も、どっちも災害じゃん!

それもとか付いてるし!

何!魔術師スキルって大規模魔法ばっかりなのか?

こんな仲間まで巻き込みそうな魔法ばっかりじゃ使い道少ないだろうが!


・・・待てよ!

空間魔術師の三つの魔法は魔力不足で使えなかったよな?

ってことは、この災害級の魔法も使えないんじゃないか?

そうは思うけど、ここで試す勇気は出ないなぁ。

うん!

魔術師スキルで追加された魔法は保留!棚上げ!放置!

魔法師スキルの分までで頑張ろう!


あと確認が必要なのは・・・水魔法師スキルか。


・水撃、水壁、水槌、水牢、水陣、水霧、水圧、水刃


これは大丈夫だな。

やっぱり魔術師スキルがヤバいってことだ!

しかし、魔法系のスキルの確認がこんなに精神的に疲れるとは思わなかったな。



そんな感じに疲れ切っていた俺にアンバーの念話が届いた。

『エドガー、もう直ぐ帰るよー』


『食事の用意してるぞ』

『やったー』

帰って来るみたいだし、火に掛けとくかな。

今日の料理は煮込みだ。

肉を野菜と一緒に弱火でじっくりと煮込んであるから、かなり柔らかくなってるはず。

量も大鍋一杯に作ってるから足りるだろう。


鍋を温めながら待っていると、草原の向こうから砂煙を上げて近付いて来るモノがいた。

魔物か?と、槍に手を伸ばしかけた所で「ニャァ~」と響く鳴き声に「何だアンバーか!」とはならなかった。

何故?って、アンバーが走っただけで砂煙は上がらないからだ。

強い魔物か、多くの魔物に追われてるのか?と遠見スキルで見たら・・・何かデカイ獲物を咥えて引き摺りながら走って来ていた。

頭に浮かんだ疑問は「どこでそんなデカイ獲物を見つけたんだ?」とかでは無く「獲物咥えてるのにどうやって鳴き声あげたんだ?」だった。

俺自身は混乱している自覚は無かったが、充分な思考はできてなかったようだ。


かなり近付いて来たアンバーに念話を送る。


『走る速度を落として!料理に砂煙が掛かっちゃうよ!』

その念話が届いたのだろう、返事は無かったがアンバーはキーって音がしそうな感じで急激に減速した。


『で、それは何を狩ってきたんだ?』

『たぶん熊の魔物。こんな所にいるのは珍しいから狩った。良い運動になった』

何でも無い感じで言うアンバーに、俺は絶句する。


取り敢えず目利きで確認を・・・オーガ・ベアー・・・俺でも知ってるぞ、これ。

オーガ・ベアーって言ったら、討伐するのに最低限六つ星の三人組みが必要だと言われてるヤツだぞ。

アンバーって、どれだけ強いんだよ!


うわーコレどうしよう?

アンバーが狩ったことは勿論、俺が狩ったとかも言えないし、処理のしようが無いぞ。

だいたい、大きさが大きさだ!

余裕でアンバーの最大サイズより大きいんだからな。


こりゃあ急いで解体しないと不味い気がするけど、熊なんて解体したこと無いぞ。

大きさを考えなければ、体のつくりとしては猿と大きな違いは無いと思う。

やるしかないな、頑張って皮を剥ぐとこから始めるか!


本当に頑張った。

皮、角、爪、牙、内臓、肉、骨、腱、魔物石など素材になりそうな物は全部"保管庫"に入れてしまう。

時間経過が三百分の一ってのは非常に助かる。


散々苦労して解体が終わった時には、陽が暮れ始めていた。

慌てて夕食の準備を始めようかと動き出したところで、待ったが掛かる。


『あっちに良い野営場所があったよ。そっちに移動しない?』

『どんな場所だった?』

今の俺は疲れているし、今から移動することに少し抵抗があったのだ。


『草原の中にそこだけ木が生えてて、真ん中に石がゴロゴロしてて古くて壊れた建物みたいなのがあって、そこに水場があったよ』

・・・そんな理想的な野営場所があるのか?

それは、疲れてても行ってみた方が良さそうだ!


『じゃあ、片付けるから案内してくれるか?』

『良いよ!』



で、アンバーに案内されて到着した場所には・・・


「コレって、古い神殿の跡じゃないか?」

アンバーが「石がゴロゴロ」と言っていたのは、崩れた神殿の建物の残骸だった。

そこが神殿だったと分かったのは、見たことのある模様を見付けたからだった。


「やっぱり!旧神教の神殿だった建物だな」


神殿だった名残があるのは崩れずに残っていた祭壇と、その周辺の高さが半分ほどだけ残った壁や柱の辺りだけだろう。

祭壇に祭られている神像も表面を覆うコケの影響もあるだろうが半分ほどが朽ち欠けていて元の面影は薄い。


それでも神殿だった場所だ。

祈りの一つも捧げた方が良いだろう。


必要ないかもと思いつつも購入しておいた、簡易祭壇用の道具を取り出す。

神殿の無い村などで、村長の家などに設置するための道具を購入していたのだ。

旧神教の神殿が放置されているのを目の当たりにしていたから準備することにしたのだが、こんなに早く使うことになるとは思っていなかった。


まあ、簡易と言うだけあって、対になった蝋燭立てと、本来なら聖水を入れるための器があるだけの物だ。

これに小さな神像を付けると、それだけで金貨が飛んで行くが、俺は新神教の神像など必要無いので神像は買わなかった。

祭壇の前に蝋燭立てを置き、蝋燭に火を点ける。

聖水を入れる器には、アンバーが教えてくれた湧き水を満たして供えた。


そこまでしてから、祭壇の前に膝を突き祈りを捧げた。


『クエスト名〈ビュルギャを救え〉が達成されました。クエスト達成報酬が授与されます』


・・・!!



そんなのあったな!忘れてたよ・・・

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