第108話

ヤバイ!!


ああー、森から出てきたアンバーの後ろに猿の群れが、が、が、思考停止しそうな俺は無意識に持っていた石を投げてた。


「バガーン!」

突然の大きな音に正気に戻った俺。


『何今の?投爆ってあんな感じなのか?』

その目で見たのは、吹き飛ぶ数体の猿。


『エドガー凄い!何やったの!』

そして響くアンバーの念話。


俺はアンバーの念話に答える余裕も無く、街道いっぱいに広がった猿の群れにひたすら石を投げつける。

石一つで、三体から五体の猿が吹き飛ぶ。

なら三十個も投げられれば数が激減するだろうが、距離的にそんな悠長なことは言ってられない。

十個ほど投げたところで、石の出番は終わり。

槍を振りまわし、確実に数を減らすしかなかった。


視界の端にはアンバーが爪を振るう姿が時々見えるが、気にしてる余裕は無い。

前後左右、どこにでも猿がいて、全周から襲い掛かってくる。

背後の防御までは手が回らず、何度か背中にしがみ付かれて危なかったが背後に風壁を使うことで、防御の代わりにしたら少しだけ楽になった。

背後の風壁を維持しながら槍を振るい、隙間に風撃を前方に打ち出す。

流石に、懐に入られそうにになってきたところで、風陣を使い周辺から猿を追い払う。

その間に一息吐いて、槍を短剣に持ち替えた。

風陣を解くと同時に風槌を四方に放ち、短剣での戦闘が開始した。


戦闘終了後、周囲を猿、猿、猿、猿の死体に囲まれながらへたり込んでいた。


数が多過ぎる!と心で叫んでたが、念話では無いから誰にも聞こえないだろう。

しかし突然の緊張感が半端無い戦闘だった。


息が整ってきたところで、少しだけ戦闘を振り返ってみた。

最初の投爆での攻撃で四十ほどが脱落。

風撃や風槌で二十ほどが脱落。

槍の攻撃で四十ほどを斃し。

何故か俺にばかり群がってきた猿の残りを、アンバーが半分ぐらいを斃してくれたようである。

後の半分は言わずと知れた、俺が短剣で戦った数である。

ざっと三十ってところかな?


流石に群れ三つ分の戦闘は頭に無かったから、驚いたりで初動が遅れたりして無傷ではすまなかった。

回復薬で直すつもりだが、足、肩、背中などに引っ掻き傷や噛み傷が数箇所できてる。


っと、ここで問題!

アンバーが面倒臭がっているんだが、どうにか説得して群れを二つまでに抑えたい。

何か良い案はないか?

相談相手もいないのに、一人で自問自答してる。


でも、良い案なんて簡単に浮かぶ訳が無い。

仕方なく問題を先送りして、まずは周りの猿の始末をしないと。


疲れた身体を動かして、解体作業に取り掛かる。

勿論、その時にスキルも回収してるが、爪に牙に毛皮に証明用の尻尾、あと肉はアンバー行きだな。


とんでもない数を解体しないとならなくて、時間が掛かった。

途中に食事を挟んで、夜中まで解体してたよ。


アンバーには、この後始末の大変さをアピールして、次から群れ二つ分までってことでお願いした。

思わず説得理由ができて、は良かったかな。


でも、精神的にも、肉体的にも疲れた!

もう、寝る!

そう決めてアンバーの腹毛の中に埋もれるように倒れ込んだ。



顔に朝日を感じて起きようとした瞬間、俺の額をヤスリが削っていった。


「ザリザリザリッ!」

「痛ってー!」


転がるようにアンバーの腹から膝立ちになる。

素早く周囲を見回すが、特に何も無い。

いったい何が起きたのか?さっぱり分からずアンバーに目をやると、一生懸命に毛繕いをしてた。


『痛かった?ゴメンね、毛繕いしてたら一緒に舐めちゃった!』

ヤスリだと思ったのは、アンバーの舌だったか!


『・・・痛かったよ、次から注意してくれよ』

わざとで無いと言うなら、これ以上怒るのもどうかと思い注意だけしたが、少々納得はいっていなかった。


毛繕いしてるアンバーは置いといて、自分の額を確認してみたが血も出ておらず、擦り傷も無かった。

あの痛みは完全に何かで削られたと思ったが、そうでも無かったみたいだ。


しかし、子猫の状態でも猫の舌はザラザラしてると思ったが、大きくなった状態だとは凶器に近いな。

不意打ちで舐められないようにしよう。

痛みで色々と吹っ飛んでしまうからな。


非常に希少な方法で起こされたが、それは置いといて、食事をしながら今日の予定を考える。

昨夜は疲れ過ぎていて、何も考えずに寝てしまったからな。


街に帰るまでに、今日を入れて三日。

帰るのに半日みるとして、二日半。

アンバーが調べてくれた、街道を縄張りにしてる残りの猿共の群れは四つ。

二つずつの群れを斃すとして一日をみると、残り一日半か。

少し短いな。


群れの元の住処だった森を見に行きたかったが、少し時間が足りないかも知れない。

アンバーに乗って行ったとしても、調べる時間も考えれば少なくとも二日半ぐらいは必要だろうしな。

今回はあきらめて、猿の討伐に力を入れるか!


アンバーに次の肉を焼きながら、そう決めたのだった。


食事の終わったアンバーが顔を洗ってる内に、俺は昨日手に入れたスキルの確認と合成をしていた。

まあ、結果として、保管庫スキルも投爆スキルも、そのままでは合成できないようだった。

ただ、指示スキルと把握スキルは合成できた。

まあ、一段階目だから当然だろう。

指示スキルは指揮スキルに、把握スキルは把握2スキルになった。


・指揮スキル 指示できる仲間の対象が倍に増える。


・把握2スキル 周囲の状況を細かく把握できる広さが増える。


実に不親切だな。

元の数なり、広さなりが分からんと増えた量も分からんぞ、コレ?

感覚頼りなのかな?

把握の方は使い道もあるけど、指揮は使わないな。

アンバーと二人だけだし、念話があるから必要ないんだよな。


まあ取り敢えず、スキルは確認できたし良しとしようか。


『ねえ、保管庫スキルって物を入れとけるんだよね?アンバーも欲しいな』

『アンバーには無理じゃないか?袋がないと使えないぞ』

『袋って、猿のお腹のヤツみたいなの?』

『そうだな』

『そっかー、じゃあダメだね。残念』

『今度、良い道具とか無いか探してやるからさ。今回は我慢してくれよ』

『うん!分かった』


今度、街で何か探してやろう。

アンバーが狩りに行った時に、入れられる物があれば便利だしな。


さて、じゃあ昨日の続きで猿共を狩りましょうかね。

もうスキルは必要は無いけど、街道だけは通れるようにした方が俺も助かるしな。

そこまでは頑張ろうか!


『アンバー、昨日言ったように、群れ二つ分だぞ。それ以上だと後の処理に時間が掛かるからな』

『分かってるよ!この道を縄張りにしてるの二つ引っ張ってくるから!』


そう言って駆け出したアンバーを見送る。

今日は群れ四つを狩って解体もすれば、夕方になってるだろうな。




昼の食事時間に休憩を入れて二度、猿共と戦った。

午前の二つの群れは想定通りで、特に問題も起きなかった。

流石に色々反省点を踏まえての戦闘だったことで、怪我も無かったしな。


だが、午後からの二度目の戦闘は予想外!

完全に数がおかしかった!


アンバーの後ろを追って来た群れの数が、どう見ても昨日の数より多かったのだ。

これは流石に無傷は無理で、またアチコチに引っ掻き傷ができてしまった。


まあ理由はメスのスキルを見て分かったんだけど、どっちも指揮スキルと把握2スキル持ちだったってだけだ。

アンバーに群れの数まで調べろとも言えず、これは俺のミスだなと反省するしかなかった。

結局、今も絶賛解体中である。

二百体以上の解体は時間が掛かるよ、マジで。


流石に荷物が凄いことになってるし、少し予定より早いけど「一度街に戻った方が良いかも知れない」と思う。

街道を縄張りにしてた群れは狩り終わったはずだし、明日は街道の安全確認をして見ようかな。



その結果を見てから、街に戻るか再度考えてみよう。

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