第109話
三つの月、大月、中月、小月と並んでいる月は、夜間の時間を計るのに役に立つ。
でも、時間が分かると時には恨めしくなることもあるんだ。
だって、やっと解体が終わって眠りに着いたのは、三つある月が全部頂点を越えてからだったから。
前の晩でも大月が頂点越えただけだったのに・・・
昨夜の解体の影響で、朝起きるのも随分と遅くなってしまった。
アンバーが待ち切れずに、顔面肉球アタックをしてきて無理矢理起こされたぐらいだ。
食事を食べ終わって、お茶を飲みつつ予定を考える。
帰る途中で森の中の街道を調べれば、縄張りの移動も確認できるだろう。
できれば、ついでに薬草の採取もできれば役に立つ。
そんな感じの寄り道してれば、到着も一日前ぐらいになるかな?
予定よりも一日早いことになるが、それは薬師が在庫を持ってたことにすれば問題無いだろうな。
伯爵も早いことに文句は言わないだろうし、通行許可証があるからスロー・モンキーを狩っててもギルドから文句を言われたりもしないはず。
ただ、数が尋常じゃないんだよなぁ。
合計で五百以上の尻尾があるんだよ。
流石に全部出すと、いらないトラブルを招きそうだ。
今回は百ぐらいにしよう!そうだ!それが良い!
あっ!まだメスのこととかもあったな。
冒険者としてはギルドに報告するべきなんだけど、何か追求されそうだよな。
何で
本来は、森を通り抜けるだけって話になってるし。
う~ん、これも今回は保留しよう。
面倒なことは棚上げ、棚上げ!
何日か後の俺が何とかしてくれるさ!
『結局自分でやるなら同じなのに』って呆れた目でアンバーに見られていたが、俺はその視線に気付かなかった。
小さなアンバーを肩に乗せ、街道を歩いて森に入る。
気配に注意し、把握2スキルも使って周囲の状況を確認する。
スキルに引っ掛かる魔物はいないようだ。
つまり、まだこの縄張りに入って来た群れはいないと言うことである。
後は、どれぐらい放置すると群れが移動するのか?ってことかな?
時間的な予測ができないと、街道を通行させる訳にはいかないだろうしな。
まあ、その辺は領主である伯爵が判断すればいいだけなんだがな。
さて、縄張りの確認をしつつ、薬草類の採取をしよう。
最近はスキルの方に注力してたから、本職である生産職用の採取が疎かになってたんだよな。
都合良く保管庫なんてスキルも手に入ったことだし、錬金術師として薬の素材は積極的に集めておきたい。
縄張りを把握2スキルで確認しながら素材の採取に精を出していると、よく聞く声が頭に響いた。
『採取の経験が一定値を超えました。採取スキルを取得しました』
っ!・・・いや、おかしいだろ?
スキルを得るための経験って、年単位で必要だって聞いてるぞ?
俺が採取を始めたのなんか三年ほどのことだし、最初の二年は孤児院でのことだから回数も少ない。
まともな採取が一年ほどで、経験が一定値を超えるって、どう考えてもおかしいよな?
原因が分からん!
ちょっと考えてみるか?
アンバーに周辺の警戒を頼んで、少しスキルの取得について考えてみることにした。
経験ってのは、地道に積み上げるもんだよな?
急激に経験を積める方法なんてあるのか?
・・・・・・あっ!
上級の冒険者である"灼熱の息吹"のリーダー、エメラスが「自分が斃せるギリギリの魔物と戦う経験を積むと戦闘系のスキルの伸びが早い」って言ってたことがある。
その理屈で考えると、簡単な採取を数こなしても得られる経験は少なくて、難しい採取をこなせば多くの経験を得られるってことになる。
その理屈を俺に当てはめると・・・短期間に面倒な素材を複数採取したな。
月の花に、髑髏草に、インビジブル・レタスと、初心者では絶対に手を出さない素材の採取を成功させたな、俺・・・
まあその結果、多くの経験を積めたってことかもな。
何となく、これで正解だという気がして、それ以上は考えないことにした。
そのまま採取を続けた結果、やっと夕方近くに森を出る事ができた。
森を出た所には案の定、監視を請け負った冒険者がいたが通行許可証で問題無し。
そのまま街に向かう。
街に入って、直ぐにギルドに向かいスロー・モンキーの討伐証明である尻尾を売却する。
受付が百本以上ある尻尾に、引き攣った笑顔をしてた。
まあ色々質問はされたよ。
通行許可証を持ってなかったら不味いぐらいの勢いだったな。
買い取りは金額は、現在の状況から通常よりも高く買い取ってくれた。
「エドガーさん、スロー・モンキー百七体の討伐金として金貨一枚と銀貨七枚です。確認してください」
確かに金貨と銀貨が七枚ある。
金を受け取って、礼を言いギルドを出る。
後は適当な宿屋を見つけて、伯爵邸に顔を出そうかな。
大通りを歩きながら宿屋を探していると、一軒の宿屋の前に犬が座っていた。
それは丁度、大通りと大通りが交差するロータリーに面した大きな宿屋だった。
宿屋の看板には"緑鳥の羽ばたき亭"と名前が入っている。
こういう大きな宿屋は宿泊代が高いのが相場だが、思ったよりも金が稼げたこともあって即決で宿に入る。
二晩の宿泊を決めて、そのまま外出し伯爵邸に向かって歩き出す。
伯爵邸の門衛に依頼書と通行許可証を見せると、直ぐに執事長が出てきた。
「予定では明日の夕方だと聞いていましたが、例の物は手に入ったのでしょうか?」
「問題無く手に入ったし、早かったのは薬師に手持ちがあったからです」
言われると思っていたから、事前に決めておいた話をする。
「なるほど。で、お持ちなのですね?」
「持ってきてありますよ。遅い時間に悪いかとも思ったんですが、伯爵様も早い方が良いと判断したので」
「一日でも早いのは、こちらとしても助かります」
そんな会話を案内されながらしていたら、目的の部屋に到着した。
最初に訪ねた時と同じ部屋だな。
簡単な挨拶だけすまして、目的の上級の回復薬を渡す。
すぐさま執事長が、侯爵邸でも見た薬種鑑定の魔道具で判定をしていた。
「旦那様、三本とも間違い無く上級の回復薬でございました」
「そうか!これで交渉ができるな。エドガー礼を言う」
執事の言葉で、明らかに伯爵の表情が柔らかくなったな。
心配だったのだろう。
「その交渉の結果は、何時頃分かるんですか?」
「そうだな、既に上級の冒険者に打診はしてある。そろそろ帝都から来る頃だとは思うが、その冒険者達が到着せんと交渉もできんのだ。で、それを聞くと言うことは追加の回復薬の手配か?」
そうか、交渉は始めてるんだな。
「そうです。素材の採取などもあるので」
「打診している内容としては、先に三本。成功報酬として一人一本の計九本だ」
八本しか用意してない、後一本だったか!惜しいな。
「そうですか。やはり素材を集めなければ足りませんね。明日一日は採取のための準備で街に滞在します。宿は"緑鳥の羽ばたき亭"ですので、明日中に交渉の結果が分かるようでしたら連絡をお願いします」
「分かった、決まれば連絡しよう。で、決まらなかったら、どうすれば良い?」
うん、それは聞かないと不味いよな。
「四日ほど採取に出ますので、戻り次第こちらに伺います」
「そうか。ならば戻るのを待とう」
まあ、素材は今日集めたから、やるのは別のことなんだけど。
ここで俺の頭にはあることが閃いていた。
凄く自分勝手なことだったんだが、伯爵にもメリットがあったんだよ。
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