第五章 エドガーのスキル集め

第100話

宿に戻ると、宿の前には二頭の馬がいた。

どうやら帰って来るのと、届けに来たのが鉢合わせたようだ。


「女将さん!これって俺宛かな?」


「エドガーニャ!前もって連絡して欲しいニャ!驚くじゃニャいか!」

ホントに驚いたのだろう、凄い剣幕で怒られた。


思わずペコペコ謝って、依頼で宿を出ると告げた。

「今ニャ?突然だニャー」と残念がられはしたが、俺の「また来るよ」と言う言葉で納得はしてくれたみたいだった。



特に必要無かった馬だが、荷物を載せるには少し便利だった。

肩が軽いのは動き易かったのだ。


マジで収納スキル集めれば、もっと便利になるよな?

荷背負いじゃなくて普通の鞄とかでも、拡大できる倍率が上がれば問題無いし。

元々重さは木枠と袋の重さだけだけど、木枠が結構重量あったからなぁ。


と言うことで、更に収納スキルを集めることに前向きになったのだった。



ここから伯爵領の領都に向かうには、いくつかの道がある。

通常であれば、一直線に南東の領都に向かうのが最短だ。

ところが現在の状況を考えると、分岐路で南下して隣の子爵領に入り、そこから帝都方面に抜けて伯爵家の領都に向かわなければならない。

本来俺が歩けば六日から七日で到着できる距離が、大きく迂回することで二倍以上の距離になるのだ。

とまあ、それは通常の人であればである。


俺は分岐路の村で馬を売り、森を突っ切って領都に向かうつもりである。

そうすると、必ず途中でスロー・モンキーに出会うはずなので収納スキルの糧になってもらうのだ!


って勝手に収納スキル扱いにしてるけど、じっさいは未確定なんだよな。

違ってたとしても、何か近いスキルでありますように・・・



普通に歩くより馬の方が速い。

たぶん二倍ぐらいの距離が稼げた。

何で分かるか?って、目の前に分岐路の村が見えてるからだ。

俺が歩いてれば、明日到着予定だった。


分岐路の村だから、もうちょっと大きいと思ってたんだが、期待外れで小さかったから予定が狂ったな。

たぶん、ここでは馬は売れないだろう。


こうなると、もう一つ先の町まで行かないと行けない。

まあ時間的には余り変わらないはずなので問題は無いだろう。


もう一つ期待が外れたのが宿が無いことだった。

が、まあ馬が一緒なので森には入らず、街道沿いの野営場所を探して野営だな。



スロー・モンキーがいるので樹上での野営は忘れて普通に地面で寝よう。

まあ、アンバーがいるしそうそう魔物は寄って来れないはずだ。

何故か?って、遠吠えスキルでアンバーがここにいることを主張してたから。

馬鹿で血の気の多い魔物ぐらいしか襲って来ないだろうな。


と言う事で、睡眠は充分に取れた。

早目に寝たので、早目に目が覚めたのだ。


朝食を食べながら、地図で確認をしてみた。

このまま街道沿いに進めば、半日ほどで分岐路の町がある。

この町は宿場町みたいなので、馬を売ることもできそうである。


この町から東に向かう街道と、南に向かう街道があり、南に向かえば目的の伯爵家の領都トルナーバだ。


問題は街道の途中から両側に森が広がっていて、そこから先にスロー・モンキーが出没するということだった。

俺としては目撃されるリスクが減るので、通行する人間がいないのは大歓迎。

ついでに、目的のスキルを手に入れられる可能性もあって更にオトクかな。


ってことで、南の街道を通ろうかな。

まずは、分岐路の宿場町を目指そう。



道中は、何も無い。

魔物も出ないし、人通りもほとんど無い。

かなり寂しい感じ。

この状況もスロー・モンキーの影響なのだろうか?


確か東に向かえば海に出れるはずだから、それなりに交通量があっても良さそうなんだけど?


まあ、その疑問は宿場町に着いたら解決したんだけど。

到着した宿場町が、余りに閑散としてたから聞いてみたんだ。


その答えってのが、東向きの街道は元々通る人が少なかったんだって。

途中に山があって、結構な高低差があるために、急ぎとかでないと通りたくないということらしい。

問題になってるスロー・モンキーも、元は山の麓の森にいたのが、何故かこっちに移動してきたんだとか。

あと、十日ほど前にも東へ行った商人がいたらしいが、六日後に馬車も無い状態で戻って来て「通るんじゃなかった」とぼやいていたらしい。

峠で脱輪して、危うく谷底に落ちるところだったのだと言う。

馬車や馬は犠牲になったが、自分だけは何とか助かったらしいのだ。


丁度そんな話が出たので、馬を売りたいんだがどこで買ってくれるか聞いてみた。

町の東側に馬房を持ってる商店があって、そこが馬の売買をしてくれるって。

今は馬も入って来ないから、買い取りの相場があがってるらしい。


色々聞きたいことも聞けたし、早速その商店に向かった。

非常に目立つ外見の商店で、店の半分が馬房という変わった造りだった。


店に入り、馬を売りたいと言う俺の申し出に「何故ここで?」と言う質問が返ってくるとは思ってなかった。

確かに状況的に言って不自然かも知れないか?


トルナーバに行きたいが、馬が一緒では魔物を突破できないからだ。

「まともな人間なら、そんな無謀なことはしないぞ。あきらめて迂回した方が良い」


言われることは分かるが、俺は急いでるんだ。

悠長に時間を掛けている余裕は無い。

「そりゃあ買い取れって言われりゃあ買い取るが、後で返すことはできないぞ」


それで構わんさ、いくらだ?

「若くは無いが健康そうだ。怪我も無い。二頭で金貨二枚ってところだな」


この辺では相場が上がってるって聞いたんだが?

「ちっ、ちゃっかりしてんな、調べてきたのかよ。二頭で金貨三枚、これが限界だ」


じゃあ、それで。

「ほらよ、金貨三枚だ」


確かに金を受け取って店を後にする。

勿論向かうのは南側の街道である。


っと、その前に食事をしとこう!

魔物の群れの中で食事なんてしてられないだろうからな。



街道をアンバーの背に乗って進んで来たが、少し先から両側が森になっている。

一端止まって、その森の様子を観察してみた。


『アンバー何か感じるか?』

『いっぱいいるよ。こっちの様子を見てるんじゃないかな?』

『お互いに様子見してる訳か。一体だけ斃してこれるか?』

『できるけど、一体だけなの?』

『ちょっと、先に調べたいことがあるんだ』

『ふーん、良いよ。行ってくる』


凄い勢いで走り去ったアンバーを見送り、その間に自分の考えをまとめる。


スロー・モンキーは群れになってるらしいし、森の中で戦うとスキルを集めてる余裕が無いかもしれない。

折角スキルを集めようとしてるのに、それは勿体無いと思う。

仮に、俺が求めてる収納スキルで無かったら、そんな勿体無さを感じずにすむだろう。

ってことで、一体だけ持ってきてもらうのだが、収納じゃ無かったら何のスキルを持ってるんだろうか?


早っ!もうアンバーが戻って来てる。


『これで良い?』


その咥えられてた魔物は、図解で見たスロー・モンキーとそっくりだった。

体長が膝下くらいまでで、細身の体に長い尻尾、大きな目に腹に小さな袋、体毛は緑で森では見つけ辛そうだ。


だいたいの観察が終わったところで、目的のスキル検証をする。

そっと触れてみると『スロー・モンキーのスキルをストックしますか?』といつもの声が聞こえた。

空かさず『はい』と答える。


『スロー・モンキーの投石スキルと収集スキルをストックしました』


えっ!収納じゃないの?

可能性は考えてたけど、ホントに違うスキルだとは!参った!


まあでも、違うと言っても、似たスキルって可能性は残ってる。

調べてみなきゃ分からない!


・収集スキル 少しだけ多く収集物が入れられる(小容量限定)


がぁー、ハズレスキルじゃないか!

それも最後の(小容量限定)って何だよ!

初めて見たぞ「限定」なんて!


はぁー、落ち着け自分。

ハズレスキルだって、成長させれば凄そうな感じだったじゃないか!

収集も成長すれば凄くなるかも知れないだろ!

そう自分に言い聞かせる。



それにしても、検証するためにはそれなりの数のスロー・モンキーを集めなきゃな。

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