第99話 閑話 便り
「おはようございます、リザベス副ギルド長」とメルフィーの元気な声がした。
「あら、おはよう。それと今まで通りさん付けで良いわよ」と私は答える。
「みんなの前では流石にダメですよ。個人的にはさん付けさせてもらいますけど」
そんな風に笑うメルフィーは、最近になってやっと見られるようになった姿だ。
少し前までは、この街からいなくなってしまった彼のことを「自分の責任だ」と言って落ち込んでいたから。
じっさいの所は、悪いのは領主であってメルフィーでは無かったのだが、それを知っているのはギルドの上層部と一部の人間だけであり、メルフィー達には伝えられていない。
というか、面倒事に巻き込みたくないので、伝えないようにしていた。
だから「自分の責任」と暗くなっているメルフィーを見るのが少し辛かったのだ。
でも、最近になって以前の明るさを取り戻してくれたことが、とても嬉しいと思っていた。
私はメルフィーと別れ、自分の仕事に向かうために自室に向かおうとしていたのだが、別の部屋から顔を出した人物に呼び止められることになった。
「リザベス、ちょっと来るんだわい」
声を掛けてきたのは、ゼルシア様。
現在、このトリニード冒険者ギルドで名誉顧問として、お馬鹿な領主との折衝をして下さっている。
合間に、裏でギルド長の教育もお願いしているが、それは内緒だ。
「どうかされましたか?」
「隣の帝国から儂宛に手紙が届いた。帝国貴族ナイフォード侯爵家からだわい」
「帝国?侯爵家?ゼルシア様を名指しですか?」
「そうだわい。流石に一人で読むのは怖くてね、付き合って欲しいんだわい」
「私を巻き込まないで欲しいのですが」
「儂とリザベスの仲じゃないか、頼むわい」
「はぁー、そう言われると断わり辛いです。仕方ありませんね、付き合いますよ」
ゼルシア様の部屋に入り、ソファーに向かい合わせで座る。
間のテーブルには、立派な封筒に帝国貴族だと分かる紫色の蝋封と、そこにしっかりと押印された印章が見える。
「ゼルシア様に心当たりはないんですか?」
「儂は王都におったことはあるが、帝国とは縁が無いわい。帝国貴族と知り合った記憶も無いわい」
そう言われてしまえば、私には他に言えることは無い。
ゼルシア様は、向かい側で睨み付けるように手紙を見ている。
そして、意を決したように手紙を手に取った。
蝋封を剥がし、中から手紙を取り出す。
見た感じ随分と枚数があるようだった。
手紙に目を向けたゼルシア様は突然「ぶわっはっはっはっはぁ」と豪快に笑い出した。
その姿に、私は驚く以外の行動が取れなかった。
「リザベス。エドガーは無事だわい。今は帝国におるようだわい」
ざっと目を通したのか手紙の一枚目を私に渡しながら、そう言った。
私は最初言われた意味が上手く理解できずに、受け取った手紙を見てから、やっと思考が追い着いてきた。
その手紙には、エドガーが帝国で無事に生活していることが短くだが書かれていた。
二人で読んだ手紙は最初の三枚がエドガーの書いた物で、残りの三枚がナイフォード侯爵が書いた物だった。
エドガーは、なんだかんだとありながらも帝国まで行き、そこで侯爵家の依頼を受けて知り合ったようだった。
その依頼の過程で新神教の起こした暴挙を知り、侯爵と私達を繋ごうと考えたようだった。
侯爵の手紙の方は、侯爵家の立ち位置、つまり新神教との関係性や今回のことに対する侯爵の怒り。
そして今後帝国内の新神教を廃絶したいという望みが書かれ、協力し合いたいと結ばれていた。
「ゼルシア様、新神教はとんでもないことをしでかしているようですね」
「リザベス、王国内も調べる必要がありそうだわい。しかし、この要望を受けるにしても、儂等だけで判断はできんわい」
「ええ、いつものメンバーを招集しましょう。その時に疑わしい問題が起きてないかの確認と調査の依頼もすれば良いかと思います」
「そうだねぇ、手配を頼むわい」
「ええ、お任せください。折角エドガーが作ってくれた機会です、有効活用しなくては!」
「しかし、エドガーもほとほと巻き込まれ易いと言うか、よう問題に巻き込まれるわい」
「本当ですよね。それを薬で解決してるし」
私の言葉に何か思い出したのかゼルシア様は目を見開いて「そう!その薬だわい!」と大きな声を出した。
私は意味が分からず、ゼルシア様の次の言葉を待つ。
「あのエドガーの小僧はっ!儂等に、まだ隠し事をしておったのだわい!」
「どう言う事ですか?」
妙に凄みのあるゼルシア様に聞いてみた。
「儂もエドガーのことがあったから、調薬スキルのことを調べてみたんだわい。調薬スキルは、調薬、製薬、そして錬金術師と成長していくらしいわい。そして解呪薬は、錬金術師スキルが無いと作れん薬だわい」
「えっ!それって・・・」
「この短期間で、製薬を通り越して錬金術師まで成長するなど考えられんわい。つまり、エドガーの坊主は元々錬金術師スキルを持っておったということだわい!」
「そんな!」
「分かる!後天的にスキルを得て、それが錬金術師スキルなど問題しか引き寄せんわい!そんなことは分かるわい!しかし、儂等にも秘密にするなど・・・信用されてなかったようで、我慢ならんわい」
勢いのあったゼルシア様の声が、最後の方は力無くなっていた。
本気で信用されてなかったのかもしれないという思いで悔しかったのだろう。
でも、私の考えは少し違っていた。
「ゼルシア様、信用はしていたはずです。でなければ、神殿の話はしなかったでしょう。エドガーは、私達を守ろうとしていたのではないかと思うんです。ただでさえ、新神教のことを任せ切りにしている中で、別の問題を持ち込むことの遠慮と、それが表に出た時に私達に及ぶかもしれない面倒事。そんなことから私達を守るために、黙っていたのではないでしょうか?」
「・・・そうかもしれないわい。しかし、そんなことでエドガーに心配されることが、信用されて無いと思えるんだわい!」
あら、突然元気になったわ。
それからもゼルシア様とエドガーのことを話していたら、仕事が滞っていて職員に呼び出されるまで話し続けてたわ。
色々と遅れてしまった仕事を片付けて、そろそろ夕方と言う時間帯。
私は、ある人を待っているの。
彼からの伝言を伝えるためなんだけど、なかなか戻ってこないわね。
「リザベス、珍しいな」
なかなか戻ってこないことに痺れを切らして手元の書類を読んでいたら、待ってた相手が帰ってきたみたい。
「あなたに連絡することがあって待ってたのよ、デズット」
「おうっ!悪いな待たせたみたいで。それで何だ?」
「エドガーから手紙が来たわ。今は帝国にいるって。元気みたいよ。それからデズットにお礼を言ってくれって、紹介してもらって買った槍に助けられてるって」
「・・・そっ、そうか、元気にやってんのか!そりゃあ、良かった!そうかっ、そうかっ、エドガーは元気か!」
「ちょっと、嬉しいのは分かるけど五月蝿いわよ。静かにしてよ」
「すまないっ!でも、そうか。礼を言ってたか・・・」
私は何も言わずにデズットの側を離れた。
今彼に言うことなんて何も無いもの。
もう一人、彼のことを伝えるべき相手がいるけど、仕事が終わるのを待たなきゃ。
メルフィーは彼の無事を知ったらなんて言うかしら?
跳んで喜ぶ?もしかしたら喜び過ぎて泣いちゃうかも?
でも、うれし涙なら泣いても良いかもね。
今日は驚いたわ。
彼が元気で本当に良かったわ。
また、いつか会えるかしら?
そうね、きっと会えるわね・・・
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