第78話
さて、何をどう恩を売るかってことだが、依頼を受ける時から気になっていた情報の不備のことである。
それを話すにしても、家族四人全員に共有するべき内容なのかどうかは侯爵が決めるべきだろう。
部外者の俺が決める事でも無いしな。
「当初から色々と気になることがあるのですが、色々と貴族間の政治が絡んでいるのではないかと疑いを持ってまして」
ここまで言えば侯爵も理解したようで、男性二人が残る形で話を進めることになった。
まあ実際は執事長もいるので男性三人である。
人払いが済んだところで聞いてみることにした。
まず、解呪薬のレシピをどこから手に入れたのか?である。
あのレシピは使う素材に間違いは無かったが、素材に対しての注意点が欠如していた。
鮮度が重要だったり、事前に準備が必要だったり、採取後に時間的余裕の無い物だったりと重要な情報が漏れていて絶対に解呪薬が作れないようになっていたのだ。
それが意味するのは、侯爵を亡き者にすると言うことだろう。
「あれは、隣領の伯爵から紹介された腕の良い薬師から提供されたものだ。まさか役に立たないレシピだとは思わなかったのだ」
これは呪いで倒れてしまった侯爵に代わって手配をした侯爵令息ジールドアの言葉だが、少し間違った認識をしていると感じた。
まず、使い物にならないレシピどうこうを信用していた事が問題なのだ。
何が言いたいかと言うと、何故一つの情報だけを信じたのか?二つ目、三つ目の情報を手に入れ、齟齬がないかの確認をするべきであったのだ。
それをしていれば、俺に会う前におかしいことに気付いていただろう。
さて、そのことも踏まえて考えると、その薬師を紹介した隣領の伯爵は一番怪しいと感じる。
だが、俺が思うにその伯爵の後ろにもう一人ぐらい別の貴族がいそうな気がするのだ。
何故か?って、伯爵が仕掛けて伯爵が犯人って、ちょっと直接過ぎると思わないか?
本当に伯爵が犯人だとしたら、間に一人下級貴族を挟むぐらいはすると思う。
ってか、その辺は貴族である侯爵家の方が、貴族間の政争とかで良く分かっていると思うんだ。
つまりAという黒幕が、伯爵を使って、侯爵の命を狙ってる、というのが最短のルート。
ただ、最短なんでAの他にBやCがいる可能性もある。
「うむ、確かに私が倒れればジールドアが後を引き継ぐが、まだ経験が足りていない。そうなれば、狡猾な者共に餌食にされてしまうだろう」
ふーん、素直に認めるのか。
割とマトモな思考をしてるじゃないか侯爵って、さっきの奥方に説教されてた姿を見てなければ感心したんだろうけど、アレを見た後だとなぁ。
でもねえ、俺の本当の予想は違うんだよなぁ。
もし、予想通りだとジールドア侯爵家令息には下位の貴族の婚約者がいたりするんだが、どうかな?
「何っ!何故知っている!」
ああーやっぱりか!
そんな気がしてたんだよな。
えー最初から説明すると、まず呪いが弱かったと分かったところで疑問が浮かんだ。
侯爵を亡き者にするなら、もっと強い呪いでもおかしくないはず。
呪いってのは特殊な術だから知らないかもしれないが、弱い呪いだろうが、強い呪いだろうが、術の手間はほぼ変わらない。
変わるのは術に使う素材だけと言っても良いだろう。
呪いで一番入手に困る素材は、ダントツで本人の血か髪の毛のどちらかを入手することだ。
血なら入手後二日以内、髪なら毛根が残ったものを使って術を行う必要がある。
以上の条件を考えると、侯爵を亡き者にしようとしていたのでは無いのではないかと思えるのだ。
ならば、何が目的か?
侯爵が呪いで倒れ、その呪いの解呪薬が失敗して呪いが解けない。
となれば、ジールドア侯爵家令息が後を引き継いだとして、侯爵の代わりに誰が手を貸すことになるだろう?
まず奥方、次が執事長、最後に、いるならば婚約者やその家族だと思う。
で、この中で侯爵に手を出すとすれば?
自ずと一つしか無いことに気付くだろう、そう婚約者とその家族だ。
侯爵がいない、息子が後を引き継ぐ、婚約者の家族だから手助けしようと協力を申し出る。
侯爵がいない間に、経験不足の息子を助ける振りをして実権を奪い取る。
ってシナリオが見えてくるんだが、どうだろうか?
「・・・証拠は無いんだね?」
「無いですね。ただの予想です」と答える。
俺の返事を聞いて執事長に顔を向けた。
「・・・調査を頼めるか?」
「
なるほど、執事長に投げたのか。
あの執事長なら、上手く調べそうだな。
俺が気になったのは以上なんで、俺からの話は終わりです。
後は報酬さえいただけたら、帰りますんで。
「分かった、報酬を用意させよう」と侯爵が片手を上げると執事長が動いた。
執事長が部屋を出たところで「ところで、薬の仲介ができると聞いた。どの程度の薬を仲介できる?」と聞いてきた。
程度かぁ、素直に答える方が良さそうだ。
「完全回復薬以下の薬であれば、仲介は可能かと。ただ、状況によっては無理な場合もあるとは思いますが・・・」
「ほうっ!それは凄い。ならば、もしお願いしたい場合は、ギルド経由かな?」
「そうですね。内容を伏せていただいて、指名依頼の相談とでもしていただければ。ただ、俺も冒険者であるために街を離れていることもありますので、直ぐに連絡がつかない場合もあると思います」
「それはそうだろう。おっ、用意ができたようだ」
執事長がトレイに乗せた金貨を持って来た。
これを受け取れば、この依頼も終了だな。
アンバーと美味いものでも食べ・・・「あの、一つお願いが?」
「何かな?」
「美味いものを食べるのが好きでして、どこか良い店を教えていただけないかと」
侯爵への願いは「旦那様、それならばメイド長に御聞きになるのがよろしいかと」と執事長によって逸らされたが、良いことも聞けた。
「そうか、彼女は料理長の奥方だったな!それは良い。どうだね、それで良いかな?」
「ええ、感謝します」
まだ侯爵の前だと言うのに、頭の中は美味い食事が占めていた。
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