第76話

流石は高級宿!

夕食が美味かった!


予想通り新鮮な魚料理はもちろん肉も野菜も山菜などもあり、見たことが無い料理法で調理されたものもあった。

いやー、期待以上と言って良いだろう。


アンバーなんて、ずっと「ウミャー『美味ーい!』」しか言ってなかったし。

俺も、「むむっ!」とか唸ってただけだった。


喋れよ!って、口に物入れたまま喋るのはマナー違反なんだぜ!

まあ、アンバーには通用しないんだが・・・


話が反れたが、料理はマジで美味かったよ。

ただ少しだけ心配なのは、アンバーの目的が旅よりになってそうな事なんだよな。

面白い物が見たいとか、綺麗な場所を見たいじゃなくて、各地の美味いもんを食べたいって感じになってきてるような・・・


まあ、それでも良いかとは思うけど。

俺も美味いもん食べたいしな。


さて、しっかり食べたし旅の疲れを癒すためにも寝るかね。

アンバーは・・・もう寝てるのね、そんな事だと思ったよ。



翌朝ーーー!

疲れもとれて、気分良く目覚めれなかった!


目覚めは、息苦しくて息ができずにもがいて目覚めたんだ。

理由?って、顔の上でアンバーが寝てたから。


猫吸いだったらまだしも、猫窒息するところだった!


アンバーを払い落として、ゼーゼー言いながら起き出したんだけど、アンバーはそのまま寝てるし、俺は死にそうだったしで目覚め最悪!

文句を言いたいところではあるけど、アンバーが故意にやった訳じゃないし、ちょっとモヤモヤしながら我慢した。


顔を洗い、服を着替え、アンバーを抱き上げて移動。

寝室から出ると、既に朝食の準備ができてた。


美味そうな匂いでアンバーも起床。

席について朝食を食べる。


新鮮な野菜のサラダに、温かいスープ、魚のムニエル、焼きたてのパン、贅沢な朝食だった。

俺としてはムニエルも良かったが、サラダにかけてあった粉チーズが美味かったな!

一般だと、塩、酢、油辺りで作ったソースを掛けて食べるのが多いから、粉チーズがこれほど合うとは知らなかったんだ。


満足いく朝食後は食後のお茶をもらい、マッタリした。


丁度お茶を飲み終わるのを見計らったように支配人がやって来た。

手には、手紙が一通。


たぶん連絡が来たんだろうな。

ってことは、ゆっくりするのもここまでか。

依頼を受けているんだし仕方無いことだと自分に言い聞かせ、手紙の封を切る。


意識的にしているんだろうが、封蝋に家紋は押してなかった。

こういう細かい所に気配りができている事が、それなりに政敵が存在する事を教えてくれるのだ。


さて、手紙の内容は・・・一言だけか「手に入っているなら、馬車に乗れ」ねぇ。

これはこれは、判断に困る指示だことで・・・頼んでみるかな?


「支配人、頼みがあるんだが?依頼人から直ぐに馬車に乗れと言われているが、流石にこの服装だと不味い気がするんだが?」と手紙を見せる。

内容的に一言だし、問題は無いと判断した。


「・・・どこに向かうかは書かれていないようですね。エドガー様としては、依頼人との関係を探られたくないと言うところですか?・・・ならば、私どもの制服をお貸しするのは、どうでしょう?」

その支配人の提案を判断するため少し考える。

・・・悪く無い提案に思える。

馬車が停まっているのは宿の前だし、そこから制服を着た男が乗り込むのに違和感は無い。


「良い案かも知れないな、お願いできますか?」

「勿論ですとも、昨夜の失礼のお詫びにもなりませんが」


気にしなくても良いと言ってあるのに、まだ気にしていたのか。


素早く準備された制服に着替えるが、一つ問題が発生。

荷物をそのまま持つのに違和感が出てしまうのだ。

今度から、もう少し綺麗な入れ物を用意しておくべきかもな、と考えた。


長く悩む時間も無いことから、そのまま抱えて行くことにする。

槍も入れたし薬も入ってるのだが、アンバーの行き場所が無い。

馬車に乗るまでの間と説得して、荷物と俺の間で我慢してもらった。

流石に肩に乗せていると目立ってしかたない。


準備ができたので、さっさと馬車に乗り込む。

勿論、御者と会話などしない。

本当に依頼人から派遣されているか?現時点では判断できないからだ。


二度目の馬車は、やはり乗り心地の良い物では無かった。

道がきれいな分、一度目よりは断然良いが、それでもお尻に響く振動で・・・痛いんだよな。


一度目は、両親が亡くなった時に村から孤児院に行く時に乗ったのだな。


カーテンの隙間から外の様子を確認しているが、方向からして向かうのは貴族街で間違いは無さそうだ。

乗る時に一瞬だけ、町外れの廃屋とかに連れて行かれたらどうしようか?と考えたのは内緒である。


徐々に速度が落ちている感じがする。

そろそろ到着するのかもな。

貴族の屋敷なら衛兵がいるだろうし、念のためアンバーに俺の足元、椅子の下に隠れてもらう。

アンバーを見られるのは、何かトラブルを招きそうな気がしたからだ。


心配を他所に門で衛兵に止められることも無く通り過ぎる。


さて、俺の予想が当たっているかどうか?

この街を指定された段階でほぼ確定しているが、予想通りならここは帝国の中でも七家しかない侯爵家の一つカロルスト・ド・ナイフォード侯爵の屋敷のはずだ。

あとは誰が薬を必要としているかだが・・・たぶん当主自身か奥方で間違い無いと思う。

依頼に来た男性は、侯爵家当主と言うには少し若過ぎだったと思うからだ。

どちらかと言えば、彼は侯爵家の後継である嫡男、ご子息の方が似合うだろう。


チラッとカーテンの隙間から見えたのは、玄関では無いだろうか?

案の定馬車が止まる感覚に、急いでアンバーを荷物との間に隠す。

ほぼ同時に、馬車の扉が開けられた。


「いらっしゃいませ。お客様」

馬車の外で頭を下げているのは、宿であった執事だった。


「馬車の手配感謝する。私は・・・」

「ご挨拶は後程、主人が待っておりますれば」

なるほど!執事の後ろで控えている使用人の中に、信用に足らない者がいるらしい。


「ご主人を待たせる訳にはいかないな。分かりました」

荷物を預かりましょうと言う申し出も丁重に断って執事の後ろをついて歩く。

玄関からそれなりに離れた所で、執事が小声で自己紹介を始めた。


彼は先代から仕えている執事長のセバントと言うらしい。

俺の態度は褒められたものでは無かったと思うが、彼にとっては恩ある侯爵家に配慮してくれていると感じたらしい、こそばゆくなるほどの感謝の言葉をもらってしまった。


大きな屋敷だと思ったが、なかなかの距離を歩いている。

随分奥に向かっていると感じたので「もしかしてプライベートゾーンまで行くのか?」と聞いてしまった。


「そうです。薬を必要とする方が、そちらにおりますので」と返ってきた答えで、必要とするのは当主か奥方のどちらかだと判断する。


帝国に来たばかりなので、貴族の婚姻関係や家族構成までは知らないが、通常見ず知らずの者をプライベートゾーンに招く事は無いはずだ。

他家からの奥方や子供なら、別の部屋に移す事さえありえるだろう。

そう考えれば、直接プライベートゾーンに入ると言う事は、当主か直系の奥方が薬を必要としているという事だ。


そうなると、益々疑問と言うか、疑惑が頭をぎる。


あの中途半端な薬の知識を誰が教えたか?


政争という言葉が脳裏に浮かぶが、俺の立場の安全確保のために少し手助けをしようと考えていた。


到着した部屋の扉は、今まで通り過ぎた部屋の扉より意匠が凝っている。

間違い無く、当主に関係する部屋だろう。


執事長が扉を開け、俺を招く。

一呼吸置いて一歩を踏み出した俺の目に入ったのは、依頼人の男性と女性が二人。

女性の内一人は奥方だと思うのだが、俺には二人が姉妹に見えてしまう。



あれ?

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