第54話

アジトは、山の麓の岸壁の下にあった。

岸壁に縦に入った亀裂の下側が崩れ、それが天然の洞窟になってるようだった。

アジトの前は木を切り倒して少し拓き、見通しを良くしながら、切った木による障害が作られてる。

その努力を、他の事に活かせば良かったのにと思うのは俺だけじゃ無いだろう。

ただ素直に、手は掛かってないが割と考えられた防衛方法だと感心はした。


風向きを考えて少しだけ移動し、顔に水で濡らした布を巻きつけると途端に息苦しくなる。

当たり前の事だが、これをしてないと俺まで倒れてしまうのだ。

薬の入った瓶を片手に、反対の手で火魔法スキルを使うと瓶が温まり始める。

俺の持ってる火魔法スキルは初歩の初歩で、小さな火種を出したり、片手鍋の水を温めたりしかできないが、要は使いようだと思ってる。

現に、こう言う時に役立ってる。


液体は温まれば蒸発するのが世の理、それは風に乗ってアジトの方に流れていくのだ。


暫く様子を見ていると、見張りの二人が膝を着くのが見えた。

薬が効いたのだろう。


事前に用意していた蔦を持って、そっと近寄ると完全に気を失っている。

手早く手足を縛り、口も塞いでおく。


洞窟は俺の都合が良い事に、入り口が狭く中が少し広いようだ。

これなら薬を使い易い。


さっきと同じ方法で、ドンドンと瓶を温める。

一本目が空になったので二本目を温める。

二本目も空になって、三本目も温める。

よしっ!三本全部が空になった。

これで、あとは少し時間をおけば、薬が効いてるはずだ。

唯一気掛かりなのは、洞窟の広さだ。

余りに奥行きが広いと薬が足りない可能性が出てくる。

調べた感じでは風の流れは無かったし、それほど広いとは思えなかった。

が、それは予想であって真実ではない。

慎重に中を調べていこう。


隠密スキルを使い、用心深く洞窟に入って行く。

入口から真っ直ぐに亀裂でできた通路を進むと、徐々に左にカーブしている。

その先から光が漏れている場所がある。

そっと陰から見てみると、奥に小さな池のある円形の広場のようになっていた。

『どうやってできた広場なんだろう?』

そんな場違いな考えは、広場に転がっている盗賊達の姿で吹っ飛んだ。


凡そ三十人程度が転がっている事から、結構大きな盗賊団だと分かる。

慎重に気絶しているのを確認していると、奥の池の近くで僅かに動く者がいた。

聞き取り難い小さな声で「クソッ!薬かよっ!」と言っている様子。

『アレに耐えられるとは』と思いかけたが、その後ろの池を見て『あれで効果が薄れたんだな』と納得した。

たぶん、池からの水蒸気が蒸発した薬と引っ付いて効果を下げたのだろう。


納得はしたが、それで良い訳では無い。

意識を保ってると言う事は、他の者より早く効果が切れる可能性がある。

薬が残っていれば、再度気絶させられたのだが無い物は、どうしようもない。

となれば、実力行使で気絶させるのが最良だろう。

幸い体の自由は利かないようなので、背後に回りつつ静かに近付く。

そして、槍の石突を向けて気絶させるように、突きを放った。


「ガッ!」と言う声を最後に動きが止まる。

上手く決まったようだった。


ここからは時間との勝負である。

洞窟の入口まで運んでいた蔦を大量に運び込み、全員を縛り上げるのだ。

手足は勿論、目も口も塞ぐ。

ついでに動けないように手足を背中側で繋いでおくのも忘れない。

中に何人か筋肉が凄いやつもいて、そいつらには三倍の蔦で縛っておいた。

体が細身のヤツは体が柔らかい可能性も考えて膝と肘も縛り、全てを背中で繋いでおく。

一人づつ縛りながら、隠しているナイフなどの武器も全部取り上げるのも忘れない。

表で見張りをしていた二人も運び込み、全てが終わった頃には薬が切れ始める者が出る頃だった。

動き出したヤツを順に槍で気絶させ、壁際に置いてあった盗品を確認する。


食糧、酒、金貨、武器、防具、貴金属、檻?

端に置いてあったのは、小型の動物などを入れるための檻だった。

中を見れば、猫らしき動物が気絶してるっぽい。

薬が効いてるんだろう。

何となく、ここに置いて行くのは可哀想になり金貨の袋一袋と檻を持って洞窟を出る用意をした。


最後に捕まってた商人二人のロープを解き「盗賊は全員捕縛した、二・三日内に辺境伯の討伐隊がやって来る。外は魔物がいる森なので、ここで大人しく盗賊を見張っていて欲しい」と書置きを残した。


金貨と檻を持って洞窟の外に出ると、東の空が明るくなり始めている。

徹夜仕事になってしまったようだ。

帰ろうかと西に目を向けると、来た時は暗くて分からなかったが拓かれた端の方に何人かの遺体が放置されているようだった。


つくづく盗賊とは最低なヤツラだな!


そんな憤りを覚えるが、今の俺にできる事は・・・スキルの有効活用ぐらいか・・・

俺の持つ【ストッカー】なら、遺体からスキルを得る事ができる。

だが、これって盗賊と変わらないのでは?と疑問に思ってしまった。


人を殺して金品を奪う盗賊。

人の遺体からスキルを貰う俺。


唯一違うのは、俺は貰うために人を殺してない事か、だがそれが重要なんだろうな。


四名の遺体に近寄り、それぞれに手を合わせてから体に触れる。

計六回スキルを得る。

四人の内、二人はスキルを二つ持っていた。

つまり、それだけ長い時間を掛けて努力してきたのだろう。

敬意を込め、スキルを貰った礼と罪悪感からの自己嫌悪を含めて、荷物から色々な忌避剤の基になる薬草を出して遺体の周りにばら撒いた。


これで少しの間、虫や動物、魔物に食い荒らされる心配は無いはずだ。

再度手を合わせてから、その場を離れる事にした。



盗賊のアジトからそれなりに離れた所で一息吐く。

檻の中の猫?らしき動物は、まだ寝ているようなので、その間にスキルの確認をする。


得られたスキルは六つ、目利き、売買、契約、商人、話術、収納Ⅱだった。


商人は売買の育ったスキルなので同系統であり、いかにも商人の持つスキルである。


契約は魔法の一種らしく、契約内容に強制力を持たせられるみたいだったが、どんな強制力があるのか細かい所は分からない。


目利きは、物の名前と贋物や品質の悪い物を見分けられるようになるらしい。


話術は、交渉が上手くなるようだ。

討伐隊との交渉に役立つかもな。


で、最後の収納Ⅱ!

これは、持ってる人間を探すのが困難なほどの希少なスキルだった。

手持ちの鞄などを対象に指定すれば、二十倍の容量の物が入れられるようになるらしい。

更に重量は鞄の重さだけで時間経過は二十分の一という破格の効果を持っているんだと!

商人にとっては、夢の様なスキルだった事だろう。


俺にとっても有用なスキルだと飛び上がりたくなるほどだった。

だって考えてもみろよ!

素材などの持てないからあきらめてた物が全部運べるようになるんだぞ。

それを売却すれば、その分の金が手に入るんだ。

野営のために水場を探さなくても、水を持って行く事もできる。

素晴らしいスキルだって事だ。


嬉しさと罪悪感をい交ぜにしながら、もう一度彼らの方に向かって手を合わせた。


さて、そろそろ移動を始めないと不味いんだがと猫?っぽい動物を見る。

まだ寝てる。


猫?っぽいと思ってるけど、魔物だったりすると困るかも?

・・・目利きってコイツにも効果があるのか?



ちょっと試しに・・・えっ!ええっ!

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