第53話

ピルトックが、あっと言う間にいなくなり、その場に残ったのは俺と気絶させた逃亡盗賊のみになった。

俺としては願ったり叶ったりの状況に、ニンマリしてしまう。


何故か?って、それはな盗賊のお宝を手に入れるためだ!

アジトから盗賊達が出払っていれば、残っている人数なんて少ないだろうっていう考え。

もし当てが外れても、コイツを領主軍に引き渡せば礼金ぐらいは貰えるはずだ。


足元に転がってる逃亡盗賊に蹴りを入れて叩き起こす。

「グオッ!ガハッガハッガハッ!」


あらら、良いとこに入ったか?

まあ気にしないんだけど。

「おい、アジトの場所を言え!」

まだ咳き込んでるが、そんなのは無視して問い質す。


「だっ、誰が言うか!」

ほう!逃亡盗賊の癖に肝が据わってるじゃないか!

と思ったが、その表情から違う事に気付いた。


・・・俺が若いから侮って下に見てるな・・・なら。

ちょいと脅し「そうか、じゃあいらねぇな。死んどけ!」と言って槍を構えた途端に顔色が変わった。


なんだよ、根性無いな。

「分かった、言う!言うから、命だけは!」


デズットが言ってたけど、本当だったな。

こういうヤツラが命乞いをする時のセリフって定型なのか?


「ここから南東の方向に洞窟がある。そこがアジトだ」

若干呆れ混じりに視線を向けると、勝手に喋り出すし・・・


「で、人質は?」

「おれが逃げる前は、商人が二人だけだった」

いるのかよ!


「居残りは何人だ?」

「普通なら三人だ」

俺一人じゃ難しいか?


「どんなヤツが残ってる?」

「見習いが二人と、人質の見張りにのヤツが残る」

か?

正面からやるには俺だと対人戦闘の経験が少な過ぎかな?


おっと、肝心な事を聞き忘れてた!

「討伐隊の事は誰が知ってる?」

「・・・俺だけだ。偵察に出た時に、先触れの騎士が話してるのを聞いた」

「で、逃げ出した。か?」

「そっ、そうだ!」


ふ~ん、それは好都合だ。

盗賊団は討伐隊の事を知らないってことになる。

なら、アジトが手薄のままってことだろ。

確かに対人戦に難があるが、身体能力の上がってるし槍聖スキルがあれば何とかなりそうだとも思う。

・・・あれ?俺ってこんなに戦闘狂だったか?

何で戦う事を考えてるんだ?と冷静に考えてみる。


俺は盗賊は嫌いだ。

それは間違いない。

盗賊が捕まってくれれば良いとは思うが、盗賊を斃してまでスキルを欲しいとも思ってない。

だって、俺がやりたいのは生産職であって戦闘職じゃない。

そりゃあ、素材採集とかで戦闘が必要な場合もあるから、全く戦えないのは困るけどな。

う~ん、身体能力が上がったりして身体が思った以上に動くからか多少気が大きくなってたんじゃないだろうか?

アホなことをする前に気付けて良かった。

もっと安全で、確実な方法があるはずだ。

確か・・・さっき立体機動スキルで移動してた時に視界に入ったはず。

縛り上げた盗賊の事などほったらかしで、探し物に集中してた。


「あった!コレとコレ!」

俺が見付けたのは麻酔薬の素材になる薬草と、麻痺罠などに使う薬草だった。

どっちも身体を麻痺させる効果があって、特にこの二つは気化しても効力がある強力な薬草なのだ。

それだけに採取も注意が必要で、下手をするとその場で痺れて動けなくなる。

そうなれば魔物などの食事になってしまうだろう。


まず、直接手に触れないように手袋をはめ、布を水で濡らして切ろうとしている根元部分を隠すように布で覆う。

その状態で隙間からナイフの先で切り取り、残った根元の部分は土をかけて埋めてしまうのだ。

二種類とも同じ方法で採取が可能なので、同様に素材を回収する。

合計八本が集まった。

「これだけあれば充分だな」


俺がやろうとしているのは、麻酔薬と麻痺薬を混合させて強力にした薬でアジトにいる盗賊を無効化しようって方法だ。

これなら、危なくないし、人質に危害も加えられないだろう。


さて、そうなると次は・・・別の意味での協力者が必要だな。


再度盗賊の口を塞ぎ、引き摺って村に向かう。

しかし、重い!

無駄に体力を使いたくないので適当な所であきらめて、近くの切り株に縛り付けて村へと急いだ。


泊まっていた宿屋に入って女将さんを呼ぶ。

「すまないが女将さん、人手が借りられないか?」

「何かでかい獲物でも捕れたのかい?」

「獲物と言うか、盗賊を捕まえたんだ」と説明をする。


開拓途中の場所で槍の練習をしていて怪しい人影を発見。

捕まえてみると盗賊だった。

今話題になってる盗賊かも?と聞き出せば、やっぱり!

領主様に情報を届けるにも、色々と情報を聞き出した情報が正しい事が前提になる。

だから情報の確認がしたいが、捕まえた盗賊を連れてはいけないし、放置して逃げられるのも困る。

俺が確認に行ってる間、盗賊を見張れる人間を雇いたい。

助けてくれるなら、女将さんと見張りの人、それぞれに一日銀貨二枚出そう。


「どうだろうか?」

「二人で銀貨四枚だよ、良いのかい?」

俺は俺で、領主様から褒章が貰えるはずだから問題無いだろう。


「そう言う事なら引き受けた!見張りは旦那と交代でやるよ。で、どの位掛かるんだい?」

距離的な事を考えて、たぶん今日を入れて二日、長くて三日だと思うんだが。


「そんなんで討伐隊に間に合うのかい?」

討伐隊は盗賊のアジトを知らないから、そこは大丈夫だろう。


取敢えず今日の分として銀貨四枚を渡し、盗賊を見張ってもらう事にした。

俺は盗賊を連れに行き、その足でアジトの確認に向かう。

途中にあるはずの小川で薬の調合も必要だし、スキル全開で先を急いだ。


小川には想定したよりも早く到着。

身体能力が上がった効果がここにも出ているようだった。


面倒な調合を進めて、素焼きの瓶に三本分が完成した。

それを持って移動を開始するが、既に陽が落ち始めている。

これじゃあ、盗賊団がアジトに戻ってきて・・・しまう・・・けど別に問題無いんじゃないか?

この薬で制圧できるだろ?

で、みんな縛り上げて放置。

あとで討伐隊に盗賊を渡してアジトの場所を教える。

行って見たら、盗賊は全員捕まってた。

あら不思議!


って絶対に俺が疑われるかも?

まあ、疑われても良いか、どうせ帝国に行くんだし。

結果が出る前に帝国に行っちゃえば、追い掛けて来ないだろ。


となれば、一休みして夜中に作戦決行かな。

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