第52話

・・・盗賊か?

何故ここに?

討伐隊から逃げて来たか?

視線は一つだが、他に仲間がいないとは思えない。

どうするべきか?

少しの間、休憩の振りをして考える。


考えている最中にふと思い付き、聴覚Ⅱスキルを使ってみるが一人分の息遣いしか聞き取れない。

つまり、スキルの有効範囲内に一人しかいない事になる。

視線の方向は次の村寄りだし、これは少し探ってみた方が良いかも?


「さてっ!何か獲物が捕れれば良いが」と声に出しながら、視線の方向とは違う場所に向かって森に入って行く。

釣られて俺の方に来れば返り討ちにしてやろうという考えだった。

が、視線の主は動かないみたいだ。

と言う事は、偵察役の斥候か?

森の中なら俺に出会っても逃げ切れると思ってるっぽい。


少し大きく回り込む感じで背後に向かう。

静かに木に登り、遠見スキルを使って視線の主を見てみる。

「・・・どう見ても盗賊っぽいな」


その時俺は、俺とは違う方向から盗賊っぽいやつに近付いて行く者に気付いた。

「仲間か?」と思い確認すると、随分小さい。

まるで子供のような体格だが、確実に音も無く近付いてる感じから子供では無いと判断する。

小柄な大人って線で対処を考える事にした。

まず、仲間なら近寄り方に違和感がある。

討伐隊の人間にしては、場所がおかしい。

なら、俺以外の冒険者ってのが一番可能性がありそうか。


となれば、早い者勝ちだな。

木の枝の上に立ち、槍を構える。

使うのは、遠見スキルと必中スキル。

狼やガーブラを斃した実績のある二つのスキルの同時使用だ。

視線を固定し、息を吸い、鋭く吐くのと同時に槍を投げた。

反動で枝から落ちるが、立体機動スキルを使い、一気に盗賊っぽいヤツの所に進む。

移動中に見えた様子だと、俺の槍は盗賊っぽいやつの右腕を近くに木に縫い付けているようだった。


ザザッ!ダンッ!

目的の場所に到着、目の前に飛び降りた。


「おいっ!お前盗賊だな!この先で騒ぎを起こしてるやつだろ?」

「クソッ!これを抜きやがれ!」

「正直に答えるんなら、治療もしてやるぞ。どうなんだ?盗賊だよな」

かなり決め付けで話を進める。


「・・・ああっ!そうだよっ!討伐隊が来るって聞いたんで逃げ出したんだ!」

・・・なんと、斥候じゃなくて逃亡した盗賊だったのか。


ガサッ!と背後で音がした。

さっきのもう一人の人物が来たのだろう。


「俺を襲わないでくれよ。俺は冒険者だ」と振り返りながら言えば、そこには初めて見る種族、書庫の本で絵姿を見た事のある、ハーフリングだった。


「冒険者か?スゲぇな、あんた。今まで先に獲物を捕られたことなんてなかったんだけどなぁ」


うわっ!このタイプかぁ!

あからさまに明るい性格を装ってるんじゃないか?

確か「斥候ってのは、まず疑うことが仕事なんだ。自分の危険を減らすためなら性格を偽るなんて序の口だろ。特に、場所を考えずに明るいヤツは要注意だ。俺の経験から、そう言うヤツは性格が悪いヤツが大半だ」だったか?

確かに、怪しさ爆発中!

この状況で、その明るさは浮いてる、完全に浮き上がってるぞっ!


こういう相手との会話の時は「指摘してやると案外簡単に元の性格に戻る」だったか?


「その胡散臭い、明るい性格アピールやめた方が良いぞ。場に合ってないからな」


俺の言葉を聞いた途端、それまでと表情が一変した。

「ふんっ!ただの人間が偉そうにっ!おいっ!そいつを寄越せっ!そいつらは俺達の縄張りを荒らしやがった!その始末をつけねぇといけねぇんだ」


縄張りを荒らした?ってコイツラも盗賊か?

いや、雰囲気が違うと思う。

犯罪者っぽい雰囲気は無いなあ。

じゃあ、縄張りって何?ってことになるんだが・・・


「少し話を聞かせてくれ。その内容によっちゃあ譲っても良いが?」

これでまた態度が変わるかもな。


「本当か?何が聞きたい?」

やっぱり、そうだ!

これが本来の話し方だろうな。

まあ、違和感あり過ぎだったしなぁ。

あの子供のような姿に、アノ喋り方って冗談か?って感じだった。


「本当だ。俺がコイツを捕まえたのは、俺に変な視線を向けてたからだ。そっちの理由が正当なら譲っても良いと思ってる」

俺はマジで、そう思ってる。

だって俺、被害なんて受けてないから、被害者がいるなら譲るぐらいはするさ。


「っと、話を聞く前にコイツを黙らせとこう」

どう黙らせるか?と考え『気絶させたいな』と思うとスキルの影響だろうか?頭に方法が浮かぶ。

その通りに、刺さっていた槍を抜きざまに、石突で顎の一点を狙って横から一撃を入れる。

うん、上手く気絶させられたな。

木からぶら下がってる蔦を何本か切り取って、手足の他に膝や口を縛り背中の方で一つにまとめる。

所謂いわゆるエビ反り状態にした。

この体勢から逃げ出すのは至難の業だろう。

勿論、まだ死なれては困るので腕の傷も治療した。



作業が終わって振り返るとハーフリングの彼は、恐ろしい者を見た様な顔をしていた。

「どうかしたか?」

俺の問いに「そこまでやるのか?」だって。


情報漏洩は防ぐべきだろ?って思いで告げる。

「コイツに聞かせる必要は無いだろ。もし仮に逃げられた時に悪用されるよりは良いし」

その言葉には納得できたようだった。


彼の名前は、ピルトック。

勿論、ハーフリングである。

彼は仲間達と一緒に山の中で暮らしているらしい。

その仲間の中にドワーフが何名かいて、彼らは洞窟を生活の場にしているそうだ。

ある日、その洞窟の奥から悪霊の叫び声が響いたとドワーフが騒ぎ出した。

本当に悪霊が出たのなら一大事であると調査する事になった。

調査の結果は悪霊では無かったが、もっと悪い結果になってしまった。

それが、盗賊団である。

どうやら、ドワーフの洞窟と盗賊達がアジトにした洞窟は何処かで細く繋がっているらしい。

そのため、盗賊達の馬鹿騒ぎが洞窟内で反響してドワーフたちの所に響いてきたようだった。

それは逆に、ドワーフたちの生活音、つまり鍛冶の音なども向こうに聞こえてしまう事になる。

そうなれば、盗賊が襲ってくるかもしれない。

そこで、まず盗賊のアジトが何処にあるのかの調査をする事になった。

その役目を引き受けたのがピルトックで、盗賊の仲間を見つけて尾行していたのが今だったらしい。


「・・・なるほど。それは緊急の内容だな。で、君らの住む場所は"隠れ里"って事で良いか?」

「・・・ああ」

「理由は聞かない。なら早めに片付ける必要があるが・・・辺境伯が討伐隊を出してるからなぁ」

「えっ!本当かソレ?」

「ああ、聞いたばかりだ。早ければ明日、遅くとも明後日には討伐隊が来るだろうな」


まず、大切なのは彼等の身の安全だろう。

そのためには洞窟の音の反響は処置しないと、いずれバレてしまうだろう。


「一つ聞きたい、俺がもし君達の隠れ里に行きたいと言ったら行けるか?」

「俺だけじゃあ判断できない。おさに聞かなきゃ」

そうだろうな。


「なら次に、洞窟の繋がってる場所は分かってるのか?」

「分かってる。洞窟の奥の方に、俺が這って入れるぐらいの穴があって、その奥の岩に亀裂が入ってる。その亀裂から音が聞こえてたそうだ」

彼が這って入れるぐらいって、狭いな。


「ドワーフはそこに入れそうか?」

「・・・腹がつかえて無理だと思う」

・・・あの腹だもんな、そりゃそうか。

ドワーフって酒が好きで、それこそ樽単位とかでのむからな。

そのついでに食うし、腹も出るわ!


「ハーフリングに土魔法スキルを持ったやつはいるか?」

「確か二人ぐらいいたと思うけど」

それは朗報だな。

前に本で読んだんだが、俺には特に関係が無かったんで、おおまかなことしか憶えてないと前置きをして、やる事を説明する。


要は、音を響かせない方法があれば良い。

まず、亀裂のひび割れを土魔法で塞ぐ。

それだけだと、まだ音が漏れる可能性があるので、次に這って入れる穴を枯れ草で埋める。

これが一番大事で、枯れ草のように柔らかい物は音を吸収し易いって書いてあったと思う。

その後、その穴を土魔法で塞げば音が漏れなくなるはずだと伝えた。


「それが本当なら、変な心配はいらなくなるけど・・・」

俺のお節介に対して、何か引け目があるのか悩んでいるようだった。


なので「別に対価が必要とか考えてないぞ。それでもって言うなら、そうだなぁ、もし俺が何かに困って助けが欲しい時に手助けしてくれないか?」とお願い(提案)した。


「それで良いのか。それなら約束する。里の皆は分からないけど、俺は絶対に手助けする!」

ああー、法外な金銭とかを要求されると思ってたのかな?

まあ俺としてはただのお節介だし、対価なんて無くても問題無い。


「時間は限られてるんだ。早く戻って試してみると良い。盗賊の声が聞こえなくなれば、逆にそっちの音も聞こえないはずだからな」

「分かった」っと走り出しかけて「助けが必要な時は、この奥に三つ並んだ岩がある。そこに用件を書いた白い布を置いてくれ。必ず俺が助けに行く」とだけ言って走り去った。



ピルトックって、結構せっかちだな。

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