第51話

ギルドの書庫で帝国の情報集めを頑張ったぞ。


建国から448年で、現在第十五代帝王が統治してるのがトライデルフト帝国だ。

中央大陸で最大の国で、中央大陸の東側は全て帝国の領土だ。

首都は東の湾に面した海岸沿いで、ここから単純計算でも二ヶ月半ほど掛かる。

ドワーフが治める「酒と鋼の王国」の東大陸と接していて、各種金属製品が優先的に手にはいる事で、強い軍事力を誇っている。

南側は「メンバルト協議国」を間に挟む形で南大陸の「魔国」、海路を使って島国である「ラー海洋国」などとも交易などを行っている。


そうそう、所在地があやふやだった「酒と鋼の王国」「メンバルト協議国」「魔国」「ラー海洋国」などの、だいたいの位置関係が分かった事も収穫だった。


強い軍事力を誇っていても、農業や酪農も盛んで食糧事情は安定しているみたい。

多目に用意した食料の心配は不要だったかも?

取敢えず、国境を越えて十日ぐらいの所にある交易都市ラフターンを目指そうと思ってる。

資料では、色々な物資が集まる街なようで、帝国の北東部で最大の街らしい。

珍しい素材とかもあるかも?と、ちょっと期待してる。


そんな調べ物が終わったところで、帰る前にサレスティアさんに「明日の早朝に出発します」って伝えたら一通の手紙と情報を貰った。


まず手紙は、領都のギルドへの紹介状だった。

リザベスさんから頼まれてるからと、彼女の後輩に紹介状を書いてくれたのだ。

次に情報だが、これは注意が必要な内容だった。

この街を出て村を二つ経由して領都に行く事になるのだが、その二つの村の辺りで盗賊が出没するらしい。

二つの商隊が犠牲になっていて、今日には領主軍が討伐に動くという事だった。

街道の様子を見て、不味そうなら直ぐに逃げるように注意されたのだ。


う~ん、短期間で盗賊が二つ目って多くないか?

どうなってるんだろう?

それとも、俺が知らなかっただけで、この辺は元々盗賊が多い所だったとか?

それなら、俺の情報不足って事になるんだけど、そんな話聞いた事無いしなぁ。

まあだからって遠回りするのもなぁ。

いざとなれば、また森の中を移動するのもありか。


そんな心遣いに感謝し、丁重にお礼を言ってからギルドをあとにした。



早朝、まだ陽が出てないので薄暗い中、旅の準備を整えて食堂に行く。

朝食を食べるためだが、女将さんには早朝の朝食を前日に頼んどいた。

商人などは、俺と同じような時間に食べる人もいるらしくて、快く引き受けてくれたんだよな。


一人旅の最中は、基本的に全食が保存食になるから、朝から温かい物が食べれるだけで贅沢に感じる。

しっかり食べて、女将さんに礼を言い、宿をあとにする。


さて、また当分は旅の空だな。

そんな他愛も無い事を考えながら門へと歩を進めた。

門を出る時に、盗賊に注意するように言われてるのだろうか?

見ていると、何台かの馬車は出発日をずらすようで引き返していた。


俺は勿論出発するつもり。

門衛から盗賊の事を聞き、国境までの魔物の出現情報も聞けたので助かった。

書庫だけでは最新の情報は手に入らないんだよな。

ギルドで聞いておけば良かったと反省しながら門を潜った。


ここから領都までに村が二つ。

領都側から、一の村、二の村となっている。

村が番号呼びなのは何故か?よく分からないが、分かり易いから放置。

盗賊の目撃情報があったのが、その村と村の間らしい。

確かに領都からもルーニアからも離れた位置だ。

街道の両側に森があるし、隠れるにも逃げるにも便利。

特に、左手の森を抜けられれば、別の街道に出られる。

反対に右手側の森は、そのまま山に繋がっているので隠れ易そうではある。

う~ん、俺ならアジトは山側かな?

で、逃げるのは逆側に逃げれば、追っ手に偽の情報を与え易い。


まあ、まだそれほど警戒の必要な場所じゃないし、次の村への急ごうか。

盗賊が出るかもしれない場所で野宿はしたくないからなぁ。


そういえば、俺の歩く速度が上がってる。

何となく感覚で分かるのだが、全体的に身体能力が上がってる感じだ。

そんな効果のあるスキルあったか?

ちょっと記憶を遡ってみる。

・・・あっ!何か覚えが!

確か・・・下級職スキルマスターだ!

身体能力の上昇ってのがあったはず!


でも、何で今頃になって効果が反映されるんだろう?

スキルが生えた時に変わるもんじゃないのか?

よく思い出せ・・・あっ!まだ何かあったな!

正確なスキルの説明は「身体能力の上昇15%」だったはず。

その時は15%の意味が全く分からなくて、いい加減にしか憶えてなかったんだ。

そこまで考えてから、そういえば【ストッカー】で確認し直せば良かった事を思い出した。

俺って結構抜けてるのか?


つまり15%ってのに何か意味があって、今になって効果が出てきたか、効果を感じられるようになったか、のどちらかなのだろう。

う~ん、考えられるとすれば、この旅で結構動いてるから基礎体力が上がった事で、15%って内容が効果を発揮し始めたって感じかな?

それ以外に、思い当たる事も無いし。


まあ、悪い事じゃない、それは確かだな。

ただ、身体能力が上がったって事は、戦闘時の身体の動きに影響しそうだ。

戦って慣らさないと、いざって時に自分の力に振り回されるのは不味い。

村に着いたら、一泊の予定だったけど、二泊して一日は森で訓練した方が確実かもな。

そんな考えで、予定の変更をする。

まあ、まずは村に着かなきゃ意味は無いんだけど。


やっぱり、身体能力が上がってるのは確定みたいだ。

何故?って、村に到着したのがまだ陽が出てる内だったからだ。

予定では陽が傾いてきた頃に着くはずで、こんなに明るい内に着くなんて思ってなかった。


早いのは良い事だと割り切って、宿に向かう。

こういう村では村長の家が宿屋の代わりをしている事が多いが、ここは領都とルーニアを結ぶ街道の村だけあって普通に宿屋があった。


「いらっしゃい!泊まりかい?」

威勢の良い女将の声に、そうだと返事をする。


「一泊で良いかい?」という問いに「いや、二泊で」と予定変更した宿泊数を答えた。


「あんたも物好きだねぇ。こんな何にも無い村に二泊もしようなんて」

そんな女将の当然の質問への答えも用意していた。


「この先に盗賊が出るかもって聞いてね。領主軍の討伐隊が出たらしいし、一泊様子を見ようかと思ったんだ」

女将が知ってるかどうかは別に領主軍の話をした。


「旅の人にでも聞きんさったかい?うちの村にも昨日連絡が来たみたいだねぇ。安全を考えるの大事さねぇ」

そんな感じで、五部屋しかない部屋の一つを借りた。

料理も部屋もルーニアの宿とは比べ物にならないが、その分値段も安い。

ルーニアで一泊銀貨一枚が、この村なら大銅貨三枚、三分の一以下である。

一泊余分に泊まったとしても、ルーニアでの一泊分にもならないのだ経済的だろう?


夕食は大麦の平焼きを何枚かと野菜がふんだんに入ったスープだった。

この値段で、この量なら充分に腹は膨れる。

しかし高望みだとは思うが気分的には肉が欲しいなと感じた。



翌朝は大麦の粥で、これにも野菜が大量に入っていた。


「女将さん、この辺で槍を振り回しても邪魔にならない場所はないか?」と聞いてみる。

現状、俺の身分は冒険者なのだし、武器の稽古をするのは普通だろう。

ここでは、俺が追われているとか、神殿に隠し事があるとか知っている者もいないし、冒険者らしくしておくのが良いだろうしな。


「あんた冒険者だったね。なら街道の右側山に近い方はまだ開墾しかけで使ってねぇんだ。そこなら、邪魔も入んねぇだろ」

「そうか、助かった」と礼を言い、宿を出る。

向かうのは今聞いた場所だ。

森に入る気は無いが、何か獲物でもいれば仕留めて帰れば夕食が少し豪華になるかもしれない。


聞いた場所は確かに開墾を始めたばかりのようで、まだ所々に木の切り株が残っている。

少々足場は悪いが、毎回整った足場で戦える事など無いのだし、逆に考えれば良い訓練だろう。

何度か槍を振り、突きを繰り返し、自分の感覚とじっさいの動きの差を確認する。

何度か振り過ぎたり、突き位置がズレたりしたが、繰り返すうちに慣れてきた。


早めに気付けて良かったと思いながら、一息吐くために槍を肩に水を飲む。

その俺の背中に、森の方から視線を感じた。

ジトッとした嫌な視線だ。

とても村人が見てるようには思えない。


・・・盗賊か?

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