第50話

腕を見た目よりも強い力で掴まれて、引き摺られるようにギルドに連行された俺。

少し前まで使ってた部屋に連れて行かれる。

部屋に入る直前にサレスティアさんが「いつものヤツらが表で騒いでるから、武装を没収した上で地下牢に放り込んどいてね」と指示を出してた。

その会話から『いつものヤツら』なんだな、と納得。

確かにアレはいつもやってる気がしたな。


扉を閉め、開口一番彼女が「で、君のスキルは何?何で領主に追われてるの?私が目で追えないってどういう事?さあ、答えて!」と怒涛のような質問が出てきた。


でもなぁ、全部は話せないし・・・


「何処まで話しても良いのか?判断できないんで、詳しい事はリザベスさんに聞いて下さい」

俺のスキルは生産系の中級スキルだという事。

ただ、神殿の儀式ではスキルが生えなかったんでスキル無しとして登録されてたこと。

登録されてない生産スキル持ちを無理矢理抱え込もうとした領主から逃げてる事。

槍は"ドモルガー鍛冶店"で見てもらって適性のありそうな武器を教えてもらった事。

その時、早い段階で槍系のスキルが生えそうだと言われた事。

トリニードの冒険者であるデズットと森に戦闘の訓練に行ってた事。

ゼルシア様の紹介で"蒼き水面"と"灼熱の息吹"の人にも色々と教えてもらった事などを話した。


「生産スキル持ちなのに、槍系スキルが直ぐに生えそうって何?デズットは知ってるけど、何で戦闘スキル無しの君に戦闘訓練してるの?ゼルシア様って、元ギルド長でギルド本部の副本部長だった方?どうしてトリニードにいるの?何で知り合いなの?"蒼き水面"や"灼熱の息吹"ってこの国の最高峰の冒険者チームじゃないの!それを紹介されて、指導してもらった、何でよ?どういう事なの?」


説明すればするだけ、また怒涛のような質問が飛んでくるけど、話せる事は少ないんだよな・・・

「すいません。話せる事が少なくて説明できない事の方が多いんです。答えれるのは、生産系スキルなんで素材採取の練習をデズットに頼んでて、ついでに身を守れるようにって少しだけ戦闘の訓練をしてもらったんです。"蒼き水面"や"灼熱の息吹"に指導してもらったのは、領主から逃げるために冒険者としての知識を教えてもらった感じですよ」


「・・・どれだけ幸運な事か分かってる、それ?」

いやいや、俺が望んでやってもらった訳じゃ無いし。

どっちかって言うと、準備万端用意されてただけだしなぁ。


「・・・分かったわよ。言えない事が多いっていうのは。それで、リザベスに聞けば教えてくれそうなのかしら?」

どうだろうか?

その辺の判断も俺にはできないっぽい感じ。

何せ、どういう予定で動いてるか全く知らされてないから。


「可能性はゼロではないと思うけど・・・。ところで、サレスティアさんは新神教徒ですか?」


「何?突然。私達エルフやハーフエルフは今で言う旧神教徒よ。よく分からない新神教なんて信仰してないわよ。間違い無く胡散臭いでしょ」

良かった、なら大丈夫だと思う。


「極秘なんで、触りしか話せませんが。トリニードの新神教の神殿をギルドや領主が潰したんです、秘密裏に。その関係で色々と極秘事項があって・・・」


「・・・ホ、ホント?」と言う呟きに頷く。

「ってことは・・・」

彼女はブツブツ言っていたが「分かったわ、そう言うことなら、もう聞かないわ」と宣言した。


これにて終わりかと思えば、本命の聴取が残ってた。

他のインパクトが強過ぎて完全に忘れてたよ。


「・・・つまり、新人のあなたの槍を無理矢理寄越せと言ってきて、断ったら襲われたって事?」

「そう!その通り!」


「あいつら、本当に馬鹿なのね。今までは被害に遭った冒険者が口を噤んでしまって罪に問えなかったけど、これで終わりよ」

どういう事だ?

何で被害者の冒険者が口を噤むんだ?


「真ん中にいたのが、ルーニアの代官の準男爵家の四男なのよ。で、忖度してるわけね」

理由は分かったが、聞くたびに貴族に嫌気が差してくる。

今のところ二:一で悪いほうが多いからなぁ・・・


「あっ!それから、星を一つに上げるから」

「えっ!なんで?」


「あいつらアレでも二つ星だったのよ。それを三人まとめて瞬殺って、星無しじゃないでしょ?」

・・・あっそうですか?じゃあ、お願いします。


有無を言わさない感じだったし、あれしか言えなかったな。


そんな話も終わり、やっと解放された俺。

随分時間が経った事で腹が減ってきた。

昼飯食べてから買出しだな。



普通の食堂で、普通の定食食べ、普通の料金を払う。

うん、これが普通だ!

先輩冒険者に絡まれたり、ギルド職員に連行されたり、詰問されたりなんて特別はいらない。

どっか落ち着ける所で、普通に生産職として生活できればいいだけなんだけどなぁ。

あっ!でもスキルは気になるから、これからも集めたいかも?

そうすると、魔物との戦いも必要なのか・・・悩ましいな。

職業的には生産職で、時々趣味であるスキルを集めるために戦闘をする・・・って何か、逆っぽいぞ。

一般的に考えると、戦闘職の人が趣味で生産するってのが普通じゃないか?

ヤバっ、何か俺自身が普通じゃない感じがしてきた。

俺が普通じゃないのは、スキルだけでいいのにーーー!


自問自答して、ドツボに嵌ってる。

もう、ここまでにしよう。

立ち直れなくなると不味いし・・・



さて、なんだかんだとあったが無事に買い物も終了。

あとは行き先の選択だ。

このまま真っ直ぐ東に向かって辺境伯が治める領都であり関所でもあるスラージャルの街を目指すか、北に向かって、別の関所を通るかだ。

ちなみに北には二つの関所がある。

山間の関所と海岸に近い関所だ。

掛かる時間は、近い順に五日、八日、二十四日となる。

まあ、どう考えても一番近い五日だな。


食糧は十五日分ほどを準備してるから、三倍の日程でも問題無し。

帝国に入ってからの食糧事情が分からないからっていう考えで持って行く。

さてと、明日一日休息したら出発しようか。



そういえば、ギルドの書庫を見てないな。

明日は、書庫で帝国の情報が無いか調べて見るか。

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