第39話

レシピが盗まれた事に責任を感じたメルフィーは、凄く早く街を出た

彼女は街道沿いを進み、随分早くに森に入った。

ビクビクしながら森を進んだが、やはり途中で怖くなり引き返した。

街道に戻る頃には討伐隊が通り過ぎた後で、そこに駆けつけた俺と会う。

そこから無理をしないようにゆっくりと二人で帰って来た。



これがメルフィーと考えた筋書きだった。

彼女は嘘を吐く事に反対だったが、リザベスさんが怒った時の怖さを教え込む事で納得してもらった。

そして、今・・・


無事に街に戻ってくる事ができた俺達は、とんでもなく気が重かったがギルドに向かった。

ギルドの入口の中から、何か目に見えないモノが溢れ出してる気がする。

途轍もなく入りたくないって本能が訴えている。


だが、ここで逃げる訳にはいかないと分かっている。

冒険者ギルドのラスボス、リザベスさんが待ち構えているだろうから。

ああー、マジで帰りたい・・・怖い。


何とかギルドの入口脇で息を整え、意を決して足を進めた。


「随分遅かったわね、エ・ド・ガ・ー・君」


ひぇえ~、リザベスさんの背後に得体の知れない何かが見える気が・・・

死ぬ!俺、今日ここで死んじゃう!


ブッシュウルフや狼と戦ってもこんなに怖くなかった!

足が小刻みに震えるし、これが本当の恐怖だって分かる!


あぁ~、気が遠くなりそう・・・


「色々言いたい事はあるけど、二人とも無事な様子で安心したわ。メルフィーを無事に連れて来てくれて、ありがとう」

さっきまでの怖さは何処へやら、真剣な顔でお礼を言われてしまった。


「と言っても、一人で外に出るとか色々言いたい事があるから。二人とも来なさい」と冒険者が時々使う部屋に連行される。

そこで決めてた筋書き通りの事を答えたのだが、やっぱり一番怒られたのはメルフィーだった。

俺もそんな気がしてて、事前に彼女に覚悟しとくように言ってはあったけど、完全に涙目になってたな。


俺がメルフィーを探しに出てからの事も聞いたけど、リザベスさんが残ってた三人にベグドの事を隠さず伝えたって事に少し驚いた。

ギルドの信用問題があるから、最初から盗賊団の仲間だったとは言わないかも?と考えてたんだ。


結果として、説教だけで特にお咎めは無し。

明日一日は全員が臨時で休日、明後日から通常業務に戻る事になった。

俺だけは、五人体制だった作業を四人体制にするように言われたけど。


取敢えず心配だったんでメルフィーを家に送り、そのまま宿に。

宿でも女将さんとかに心配されてた。

何せ急に帰ってきて、武器を持って飛び出して行くんだから、何が起きたんだ?ってなったみたい。

そりゃそうだな、面目無い。


さて、おれが確認しなければいけない事が一つだけある。

時間が無かったし、メルフィーが一緒だったり、警戒しないといけなかったりで、できてなかったことがあるのだ。

狼二頭分のスキルは勿体無いとは思うがあきらめもつく。

どうしてもあきらめたくなかったのが、ガーブラのスキルだった。

槍を抜きに行った時に『ガーブラのスキルをストックしますか?』って、いつもの声が聞こえてたんだ。

内容も確認せずに『はい』とだけ答えてたから、スキルを確認しておきたい。


【ストッカー】を開いて確認すると、三つのスキルが新しく保存されてた。

・詐欺師スキル --- 人を欺き騙し易くなり、人に嘘を信じさせ易くするスキル。

・剣技スキル  --- 剣を使い易くするスキル。

・開錠スキル  --- 鍵が無く開錠し易くなるスキル。


うわー、流石は盗賊だ。

それらしいスキルを持ってるよ。

でも、一番育ってるスキルが詐欺師って?


・・・あっ!いつも逃げ出すのに、直ぐに仲間が集まるのって!

一般人だけじゃなくて、盗賊の仲間も騙してたのか!

って事は、凄い盗賊じゃなくて、凄い詐欺師だった訳だな!

戦わずに逃げるのは、戦闘スキルが育ってない剣技しか無かったからだな。

まあ、それにしても口八丁だけで盗賊団をまとめるってのも才能ちゃあ才能なんだろうな。


しかし、まあ使い難いスキルだって事は間違いないか。

これは"保存石"行きだな。


スキルは集めはダメだったけど、スキルの試験ができた事が、今回の一番の収穫だろう。

名前と効果しか分かってなかったから、使った感覚が分かって良かった。

特に、嗅覚!アレは気を付けよう。

マジで吐くかと思ったからな。

あんなに匂いに敏感になるとは予想もしてなかったし。

体臭とか汗とか防具の臭いとか、混ざると凶器だった。

今回一番ダメージ受けたのは、アノ臭いだな!


そうだっ!

たぶんデズットにはバレてないと思うけど、証拠を隠滅しとかないと。


思い付いた簡単な対処として、槍と靴の手入れを始めた。

槍は血糊が着いてるし、靴には森の土や枯葉がが着いてる。

これを綺麗にしとかないと、妙なところで無駄に鋭いデズットに勘繰られるかもしれないんだ。



そう思いついて、いつもより時間を掛けて手入れをしたのだった。

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