第40話

エドガーが去った森では、討伐隊の面々がデズットと合流していた。


「「デズット!ガーブラは?」」

ラズーレとエメラスからの開口一番の問いに、視線で答えた。

その場に来た全員が、少し離れた場所に倒れ伏す男に視線を向ける。


「やったか?」

誰かがボソリと呟く。

その言葉が全員の胸に沁み込むように浸透した。


「「「「「「ヨッシャー!ヤッター!デカシタ!」」」」」」

全員の叫びが森に木霊する。

その姿を何とも言えない表情で見ているデズットに気付く者はいなかった。


何人かが駆け寄り、男の人相を確認した事で更に高まる歓声。

しかしそれを遮る声が響く。


「静かに!・・・デズット、コイツは誰に斃された?」

スレップスの一言に、全員が一斉にデズットを見る。


「スレップス、どういう事だ?ガーブラはデズット以外の誰かにやられたって事か?」

隣にいたボトガルが問い質す。


「コイツがガーブラである事、死んでいる事に間違いはねぇ。だが、やったのはデズットじゃねぇ。致命傷は背後からの一突きだが、得物は槍だ」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」


問い質すような視線に、デズットが口を開く。

「確かに俺は斃してねぇ。声が聞こえて、ここに来た。その時点でコイツは死んでた。誰がやったかも分からねぇ」


一瞬の沈黙、その後は様々な質問が投げ掛けられる。

「声を聞いてから、どのくらいで到着した?」

「人影を見たりしなかったか?」

他にも「音はしなかったか?」「何か臭いが残ってなかったか?」「手掛かりになりそうな物は?」と矢継ぎ早に聞かれるデズット。


しかしどれにも答えられるのは「無い」「知らない」ぐらいであった。

一つだけ「ガーブラの先に狼の死体が二頭転がってるぐらいだ」という事だけだった。


結果、諸々の不審点はあるが、その場で判断できる事は無いため「討伐成功」として街に帰る事になったのだった。

一応、討伐隊の主力以外にはデズットがガーブラを斃した事になっている。

それは、状況的に仕方が無い判断だった。

まあ、デズット本人は納得できてなかったが。


補助担当の冒険者達によってアジトの中の調査も終わり、持って来た六台の荷車に盗賊達の遺体や戦利品を積み込み街へ帰る。

主力以外の者達の顔は明るく、誰一人欠けること無く街に帰れる事を喜んでいた。



そんな中、終始いつもと様子の違ったのはデズットだった。

何かを思い出そうとしているのか、ただ単に考え込んでいるのか周囲からは判断ができずにいた。


『あの刺し痕・・・何処かで見た覚えがある気が・・・』

本人は記憶を探っているようだが、それが成功するかは分からない。

ただ、日が沈み始めた街道を進むことで、着々と街に近付いているのは確かだった。


*** *** *** *** *** ***


冒険者ギルドに一人の男が飛び込んで来た。


「伝令!討伐成功!ガーブラの討伐成功!被害は軽微です」

それだけ叫んで膝を着き、肩で息をする男。

伝令として走り通しで来たのだろう彼に、誰も文句など言う訳も無い。


リザベスは足早に彼に近付き訊ねた。

「本当にガーブラを討ったのですね?討伐隊の帰還予定は?」


男は整わない息遣いのまま「はあ、はあ、ガーブラの、はあ、人相を確認、はあ、しました、はあ、既に、はあ、出発している、はあ、はずです、はあ、日暮れ、はあ、ごろには、はあ、到着するはずです、はあ・・・」と何とか言い切った。


「みなっ!聞きましたね!討伐成功です!誰か彼を椅子へ、それと水をお願い。討伐隊が帰還次第、打ち上げよっ!」

「「「「「「わぁっ!」」」」」」

リザベスの宣言で、ギルド中が歓声に包まれた。


それを聞いた男が一人、そそくさとギルドを出て行こうとしていた。

ゼルシアは、その男に気付かれないように後を付けて行く別の男を見送っていた。

『馬鹿だわい。冒険者が打ち上げを前にギルドを出て行く訳が無いんだわい』


ゼルシアとリザベスは、エドガーとメルフィーからの聞き取りで、街に盗賊の仲間が潜伏している事が分かっていた。

それと同時に、門以外からの出入りができる事も調べがついていた。

何せ、ベグドが門を通らずに街の外に出ているのだから間違いようが無い。


あとは単純で、討伐隊の話を聞いた盗賊団の仲間が、ギルドに様子を伺いに来る可能性がある事も予測できる。

となれば事前に、斥候職の何人かに指名依頼をして、警戒に当たらせるくらい朝飯前・・・いや、打ち上げ前?だろう。


「リザベス、いたようだわい。今追ってるわい」

「やはりいましたか。打ち上げ前に終わると良いんですが・・・」



こそこそ話す二人を他所に、ギルド内は既にお祭り騒ぎであった。

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