第16話

部屋の奥の扉はキッチンに繋がっていた。

そこでお湯を沸かしながら、さっきの人達の事を聞いてみた。


「彼等ですか?皆さん、ゼルシア様の教え子ですよ。ギルド長時代や副本部長時代に指導された方達が、ゼルシア様のためならって集まって来られたんです」

教え子か!それは確かに信頼度が高そうだ。

だけど、アイツは違うよな?


「ああー、グラブはマドック様というゼルシア様が副本部長を退任された後の後継の方の孫なんです。マドック様が副本部長の仕事の関係で来られないらしくて代理として来たんですが、何をどう思ったのかアノ態度で・・・」

親の七光りならぬ、祖父の七光りかよ!

くだらねぇ~ヤツだな。

そんなんじゃ、他の人があんな態度で接してたのもマジで自業自得じゃねぇか、あほくさっ!


冒険者っぽい人達は本部所属の高ランク冒険者2チームで、文官っぽい人達は本部の上級職員(上級って管理職って事らしい)だって。

素早い現場確保に冒険者、書類の精査と証拠集めに上級職員って事か。

良く考えてあるな、流石ゼルシア様だと感心した。


そんな話も一段落ついたところで、お茶の準備もできた。

部屋に運び込むと、まだ説教してるので「ゼルシア様、のど乾いたんじゃない?お茶入れたんだけど飲む?」と話をぶった切った。


元々かなり砕けた感じで話せって言われてたんで、要望通りに話したら、みんなの注目を浴びたよ。

「ああー悪いね、貰うわい」と気軽に答えるゼルシア様にみんなの注目が移ったな。


みんなが、何故俺が普通に接しているか不思議がっているのが分かる。

分かるが、それはこのさいどうでもいい事だと理解できているだろうか?

この場は、ゼルシア様の用意された場だ。

呼ばれた人も、ゼルシア様の手配である。

唯一違うのは、マドックの代理であるアイツだけだ。

文句を言えるのも、退席させれるのも、説教できるのも全てゼルシア様だけだ。

横からの口出しや手出しは、ゼルシア様の事を信頼していない事になってしまう。

故に説教されてた訳だけど・・・たぶん気付いてないな。

ゼルシア様の気分を入れ替えるためにもお茶を飲んで一息入れてもらうのがベストだったろう。


「ゼルシア様、みんなは心配してるんじゃないか?あとは、恩師を馬鹿にされたんで怒ってるとか?」

気持ちとしては、そんなとこだろう。


「・・・そういう見方もありかもね、だからって横から口出しはいただけんわい」

あらっ、分かってはいたみたいだ。

なら、それを一度許すと統率が取れなくなる可能性を危惧したのかな?

面倒な事を色々考えないといけないんだな、大変な事だ。


「それはそうだけど、そろそろ本題の方を話したら?時間が遅くなるんじゃないかな」

とまあ、提案してみたんだが、周囲の視線が、何か、痛い?

そんなに、俺が普通に接するのがダメなのか?

本人から許可が出てるんだが・・・


「うっとおしい!儂が許した、文句は!・・・うむ、良いわい」

あぁ~、一喝でみんなが飲み込んだみたいだ。

流石に本人が「良い」って言ってるのを「ダメ」とは言えないんだろうな。


「エドガーの時間も無駄にできんし、話を始めるわい」

やっと今日の予定が進むな。


ゼルシア様が簡単に、今回の経緯を説明し始めた。

と言っても、俺が話を持ち掛けたって事と、その内容の簡単な説明だけだけど。


あっ!また視線が痛い・・・何故みんな視線に力がこもってるんだ?

疑いの視線なら理解できるんだが、どういう事?


そんな疑問を持っていると「す、素晴らしい!神殿に一泡吹かせられます!」と文官っぽい男性が声を上げた。

一泡って、何か恨みでもあるの?って単純な疑問が浮かぶ。

だってそれ以外の状況で使わないだろ「一泡吹かせる」なんて。

そう思ったんだが、次々と同調する人が増えて、最後には全員が同じ感じになってた。


で、ゼルシア様に一番近い女性が「でも、そのエドガーって子の情報が正しければって条件が付くでしょう。ゼルシア様そこの所はどうなんですか?」と問う。


「問題無いわい。儂の眼を信じれんなら話は変わるが、そんな馬鹿者はおらんと信じとるわい」

何それ?ゼルシア様どんだけ俺に信頼を置いてんの?

ちょっと重いんですけど、その期待が・・・


「それでは話を始めましょう。エドガー、お願いできますね?」


リザベスさんの問いに頷いて、皆の顔を見渡した。

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