第15話

扉の先は広間になっていた。

正面に二階への階段があるが、余裕で五人ほどが並べる幅がある。

たかが階段に何でこんな無駄な広さが必要なのか分からないが、これって貴族の屋敷とかじゃないか?

ゼルシア様の前職を考えるなら、有りっちゃあ有りだとは思うが・・・


そんな他愛も無い事を考えていると、左側の扉が開いてリザベスさんが出てきた。

「エドガー、来たのね。こっちよ、他の人は揃ってるわ」と呼ばれた。


そこには十数名の男女が集まっていた。

十名ほどは冒険者っぽい格好をしていて、残り数名は事務方っぽい人達だった。


一番奥に座っていたゼルシア様の左横に案内され「彼がエドガーだわい。孤児院出身で、今回の情報提供者だわい」と紹介された。


「おいおい、ゼルシアの婆さん。こんな餓鬼の話を真に受けたってのか?」

縦長の部屋に置かれた縦長のテーブル、入って来た扉の真向かいのテーブルを挟んだ場所に座る若い男が、ゼルシアに対して随分な暴言を吐いた。


それに対して「若造!無駄口を閉じてな!儂はお前を呼んだ憶えは無いんだわい!爺が替わりに寄越したから、ここにいられるだけだわい」とゼルシア様が一喝した。

大きくも無い声での一喝だったが、その圧は凄まじく、俺に対して言われた訳でもないのに俺の背中にも嫌な汗が滲む。

もし仮に正面からやられたら・・・と考えなくていい事を考えそうになって、それを振り払った。


「ゼルシア様。マドックの爺さんの代わりとはいえ、やつはこの場に相応しくない。お引取り願おうや」

「ビンスの言う通りだわ。あんなのいなくても問題無いんだし帰ってもらったら?」

ゼルシア様の前方、左右に座る男女から言葉での追撃が飛ぶ。


「元々グラブを一緒に行動させる心算など無いわい!マドックの爺に話を持って帰らせるためだわい」


あの暴言な若造はグラブで、マドック爺さんの代理な訳か。

まあ、俺はマドック爺さんが誰かも知らないけど・・・

で、ゼルシア様は話の内容をアイツにも聞かせて伝言役をさせるつもりだという事だな。

ここにいる人達の中でアイツ一人だけ浮いてるのは、それでかな。

他の人達は雰囲気的に歴戦の冒険者だったり、やり手の文官っぽいから。

アイツだけ何となく餓鬼臭い、まあ俺もこの中じゃあ餓鬼だけどな。

ついでに言うと、ゼルシア様の一喝で反応したのって俺を除けばアイツだけだ。

椅子が「ガタッ!」って鳴ってた。


そんな事を考えている間もアイツと他の人達の言い合いが継続していた。

と、ゼルシア様の右隣にいたはずのリザベスさんが、何故か俺を連れて壁際に離れる。

小さな声で考えていた事と同じ説明をされ、追加で「たぶん場が荒れるから離れていた方が良いわ」と言われる。

『場が荒れる?』と脳内で首を傾げると同時に、さっきのゼルシア様の圧より数段凄い圧が部屋に満ちた。

普通に立っているのも難しい状態で、何とか壁に凭れ掛かって耐えるしかできない。

例えるなら、部屋の中で暴風が吹き荒れ、壁に押し付けられるような感じだった。


チラッと隣のリザベスさんを見ると普通に・・・かなり手足に力が入ってるが・・・立っていた。

テーブルの方は・・・全員がアイツを見ていた。

当人はガタガタと震え、今にも白目をむいて気絶するんじゃないだろうか?と感じた。


「止めるんだわい!」とゼルシア様の一言で、圧が一気に霧散する。

「協力者まで巻き込んで、反省するんだわい!」と更に一言。


ほとんど正気を失っているアイツ以外がサッと眼を伏せた。

俺の方は、まだ力み過ぎていたせいか身体の力が上手く入らず壁に凭れたまま。

リザベスさんは隣で深呼吸を数回繰り返していた。


その間もゼルシア様は集まっていた人達に説教を続けていて、グラブは完全に放置。

というか、グラブは気絶してるみたいだった。

アイツにとっては自業自得だと思うが、とばっちりがリザベスさんや俺にまで来てるし説教はしかたないのかな?


どうやらリザベスさんは、この説教が長くなると思ったようで、俺に「一緒にお茶を入れに行きましょう」と誘ってきた。

流石に俺もただ立っているだけなのに飽きていたので、快諾して部屋をソッと出たのだった。

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