第3話

翌年最初の誕生祭当日。

俺は思い付いた事を試すために、また森の中の古い神殿に来ていた。


何を思い付いたか?って。

五歳以上ならスキルを授かる可能性があるんじゃないか?って思い、儀式をしてみようと、ここに来た。


一応これが成功すれば、成人である十五歳まではスキルを授かる可能性があると思ってる。

理由は、神殿で行われる行事として、五歳でスキルの儀式と十五歳で成人の儀式の二つしか無いからだ。

これが証明されれば、十五歳以下でスキルの無い人はスキルを授かる可能性が出てくる。

かなり大事になるだろうし、成人するまでは公表する気は無いけど・・・


まあ案の定、結果は成功!

スキルを得る事ができたので孤児院にいる間はスキルを集めるつもりだが、単純計算で百四十以上のスキルが手に入る可能性に浮き足立つ。

神官にバレないように気を引き締めないと・・・



八の月の誕生祭の日。

一つ下の女の子、マレナがスキルを授からなかった。

俺が立てた仮説を検証できるチャンスだと思う。

だけど、五歳の子供は秘密を護れるだろうか?

たぶん無理だろう。

なら、十年の時間的余裕があるんだし、我慢してもらうのが一番かも?と頭の片隅にマレナが十四歳の最後の月にスキルの儀式をすると記憶して置く。


そんな事を考えていたら、ふと疑問が頭を過(よ)ぎる。

俺も六歳って年齢なら、もっと子供っぽくて普通だと思う。

だが現実は?

単純に考えても思考が大人っぽ過ぎないか?

そんな自己否定的な考えに頭を悩ませるが、的確な答えなど出ない。

二時間ほど悩んで、子供らしく悩みを遠くに投げ捨てた。




あれから三年が過ぎ、九歳になった。

今日は、俺が孤児院に来てから初めての不幸な出来事が起きた。

六歳の男の子、ギャムが孤児院を抜け出して遊んでいたところ、突然暴れ出した馬に背中を蹴られて亡くなってしまったのだ。

明日の朝に葬式を行うと神官が告げた事で、孤児院が泣き声の大合唱になってしまった。

かくいう俺も大泣きしてしまった。


葬式直前の早朝、年長の何人かが葬式の準備で神殿に呼ばれて来ていた。

俺は棺の中に花を飾る係りに指名された。

昨日の事があるので、またも泣きそうになりながら花を飾っている時、突然【ストッカー】が反応した。


『ギャムのスキルをストックしますか?』


その【ストッカー】の表示に硬直し、泣きそうだった事も忘れて呆然とする。

どういう事だ!

何故ギャムのスキルをストックできる?

【ストッカー】に熟練度みたいな何かがあって、一定値を越えた?

神殿だから?

ギャムが亡くなったから?

その両方?

他に考えられる理由は・・・?


思考の渦でグルグルしてると「エドガー、どうかしましたか?手が止まっていますよ」と背後から神官に声を掛けられた。

先ほどまで泣きそうだった俺は、そのままの顔で振り返る。

「また悲しんでいたのですか・・・ここ最近は病気や怪我で亡くなる子もいなかったから悲しむのも分かります。しかし、悲しんでばかりではダメなのです。残された者は強く生きていかなければならないのですよ」と背中を擦られる。

俺は声を出さずに頷くと棺に花を飾る作業に戻り【ストッカー】の問いに『はい』と答えた。

次の瞬間『ギャムの隠身スキルをストックしました』と応答があった。


ギャムの授かっていたスキルをストックできたようだ。

どうやって神殿から街に出ていたか疑問だったが、スキル名から考えて隠れる事に特化したスキルだったのだろう。

これで疑問も出てきたが、儀式以外にもスキルをストックできる事が分かったのは大きかった。

色々と考える事が増えた瞬間だった。




あの不幸な出来事から二年。

色々とできる事から調べてみたが、結果として二つに絞り込めた。

熟練度的な何か?か、死亡している?か、のどちらかだと思う。

たぶんスキルを持ったものが死んでいる事が一番の条件だろう。

神殿は無関係だった。


何故かと言えば、先週神官の指示で食料の買出しに出た時の事。

冒険者と呼ばれる人達が出入りするギルドの近くを通った時だ。

何やら大きな動物のようなものを運んでいる男に出会った。

初めて見るもので興味ありげに見ていたら、その男に声を掛けられたのだ。


「坊主、魔物に興味があるのか?怖くないなら見せてやるぞ」


何も深く考えずに頷くと、覆っていたカバーを少しだけ持ち上げて中を見せてくれたのだ。

それは体長2メートルを超える猪みたいな姿の魔物だった。

ただ猪と違うのは二本の牙が枝分かれしている事と、口に鋭い歯がびっしり生えている事、あと頭に小さな角が六本生えている事だった。

これが魔物か!という驚きでジッとそれを見詰めてしまった。


「怖がらないんだな?根性がある。何なら触ってみてもいいぞ」って言葉に返事も返さず、恐る恐る手を伸ばす。

枝分かれした牙の側面にチョットだけ触れた瞬間、またもや【ストッカー】が反応した。


『グレートファングのスキルをストックしますか?』


俺は迷わず『はい』と返答し、その魔物"グレートファング"のスキルをストックする事に成功したのだった。

俺は始めての魔物である事や、スキルをストックできた事で舞い上がり、声を掛けてくれた男に「ありがとう!」と言った。


「おおっ!そんなに喜んでくれたんなら良かった!坊主は冒険者に興味があるのか?」

その問いに少しだけ『魔物を斃してスキルがストックできるのは魅力だな!』と思いつつ「俺、孤児だからお金無いし・・・」と答えた。

その男は「ああーそりゃあ悪い事を聞いた。でも、最初は武器や防具なんて無いのが当たり前だ。簡単だけど安い仕事をやって稼ぐんだ。で、装備を揃えれば良い」とバツの悪そうな顔をしてアドバイスをくれた。


「坊主、歳は?」

「十一」

「あと四年か・・・もし冒険者になるなら世話してやるから、成人したら俺を訪ねて来い!俺の名前はデズットっていう」

「うん、分かった。でも、まだ冒険者になるか分からないよ?」

「構わないさ。なるって決めた時に声を掛ければ良いんだよ」


そんな面白い出会いをしたが、買い物を終わらせた俺は神殿に帰る。

帰って一番に、いや、買い物を渡した後だから二番目か。

やったのは手に入れたスキルの確認だった。

手に入れた直後はデズットとの話で全く見ていなかったのだ。


「スキルは・・・猛進?えっと、内容は・・・スキル発動状態で相手に突進すると激突するまでの間、強化されてダメージを受けない」って強くないか?

あっ!でも突進してる時だけだから、足が止まるとダメなのか?

そういえば、デズットの見せてくれた魔物は後ろ足が折れてたな。

突進を躱して、止まった所で脚を攻撃して走れなくしたのか!

なるほどな!理に適った方法だな!

それならスキルを使えなくなる。


そんな風に感心しながら、冒険者って職業に興味を持つのだった。

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