第一章 孤児 エドガー

第2話

数週間前、両親が亡くなった。

流行病はやりやまいだった。

辛うじて俺の症状は軽くて助かったが、村の被害は甚大だった。

村民の約六割が死亡。

村を維持する事は絶望的で、みんなちりじりに別の村や町に移住する事になった。

俺は身を寄せる親戚もいないし・・・さて、どうしたもんか?


俺は身の振り方に悩んでいたが、結局街に行くと言う家族に同伴されて孤児院に引き取られる事になったんだ。

まあ、所詮四歳のガキが一人で生きていくなんて無理だしな。




毎月の誕生祭、それは神殿でスキルを貰う五歳になった子供の儀式の日。

近くに神殿がありさえすれば、誰でもスキル付与の儀式に参加できる。

それこそ貴族からスラムの住人まで区別無く無料で・・・と言われてはいる。

じっさいは神殿の神官によって様々で、御布施と称して金を要求する事など当たり前になっている。

まあ、神官がいなくても神像と祭壇があれば誰でも儀式はできるのだが、その事実は知られていない。

と言うか、知られないように神殿が隠しているのだ。


何で俺がそれを知っているか?って。

二ヶ月ほど前に、掃除中に見つけた隠し通路を使って神官の部屋を立ち聞きしただけ。

他にも、神官って平気で孤児院の運転資金とかを着服してたんだぜ。

俺ら孤児は満足に食事も取れてないってのに、巫山戯た話だ。


そんなブラック経営な孤児院でも俺達のような孤児には必要な場所で、子供が一人で生きていく事なんてできないから孤児院を卒院できるまで我慢しているんだ。

ちなみに、孤児院の子供たちもスキル付与の儀式に参加できる。

ただ、有用なスキルを貰った子供は直ぐに引き取り手が現れていなくなるんだけど。

それも立ち聞きで聞いたところでは、違法な人身売買っぽい。


なので、俺は一年の最初の誕生月を最後の月だと誤魔化して儀式に参加してない。

だって、良いスキルを貰ってしまえば神官に売られるんだ、儀式に参加する方がおかしいだろ。

でも・・・スキルは欲しいんだよな。


だから、儀式で忙しい神殿の孤児院を朝から抜け出して、別の神殿に向かっている。

既に忘れられている神官もいない古い神殿。

そこは今の神殿の裏の森の中にある、旧神教の神殿だ。

現在の神殿は、正式には新神教と言う。

それと対になるように旧神教と呼ばれる昔の神殿があったのだ。

何時から変わったのか正確な記録は無いらしいが、神殿である事は変わらない。

その場所なら、神官に知られず個人的に儀式ができるかもと思い立っての行動だった。


さて、儀式と言っても特別な事は何も無い。

ただ神像の前でひざまずいてスキルが欲しいと祈るだけだ。

スキルが付与されれば、本人には分かるらしい。


そんな事を考えている内に旧神教の神殿に到着。

今年最初の儀式の日、神像の前で跪いて祈りを捧げるのだった。

スキルが欲しいと・・・




今年最初の儀式の日から六ヶ月が過ぎた。

俺は無事にスキルを得る事ができたのだが・・・スキルは農業。

一般人が得るスキルの中でも一番多いものだった。

ただ、その普通のスキルを得た事で分かった事がある。

俺には枠外スキルっていう、生まれながらに持っているスキルがあったらしい。


その名も【ストッカー】。

基本的に一人一つしか授からないスキルを複数保存できる、身の危険を感じるスキルだった。

このスキルは、使うと他人には見えない本が現れる。

その本を開くと丸い穴が六個開いている。

サイズが合えば共通通貨であるコインを入れられそうな感じの穴だ。

まあカネなんて持って無いから関係無いんだけど・・・

で、その穴にスキルを保管できるんだ。


最初は、一つしか授からないスキルを保管できてどうなるんだ?って思ったんだ。

でも、もしかしたらって翌月の儀式の日に、もう一度森の神殿で祈ったらスキルを貰えてしまったんだ。

それからは毎月森の神殿でスキルを貰ってる。

だから今は六つのスキルを【ストッカー】に保存している状態だ。

どれも普通のスキルで、農業が三つ、清掃が二つ、裁縫が一つ、料理が一つだ。

他に一般人が得易いスキルとしては、猟師、運搬、漁師、木工、加工、飼育、売買なんかがある。


そうそう【ストッカー】の六つ穴のページは五ページあって、全部で三十個のスキルが保存できる。

それ以外に三ページ、穴が四つ開いたページと見開きで穴が十個開いたページがある。

どうやらこの特殊なページはスキルを合成させたりできるみたいで、試しに四つ穴のページに農業を三つ入れたら、農業2っていう農業の上のスキルになると分かった。


そこから考えたのは、四つ穴のページは最大で三つのスキルを合成できるんだろうって事と、十個穴の方は最大で九個のスキルが合成できるんじゃないかなって事だ。

その辺はスキルが増えてから、また考えれば良いかなって思ってる。

少なくとも今年中集めれば十三個のスキルが手に入るんだから。


あれからも色々と調べれるだけ調べてみた。

儀式の日にスキルを得る事ができるのは一度だけだった。

【ストッカー】に保存してから、もう一度祈ってもダメだった。

毎月の誕生祭の日以外もダメだった。

結果として、月に一度しか機会が無いって事が分かった。


それと、スキルを得るには確率みたいなものがあるって事も分かった。

九回目に得たのが中級スキルだったからだ。

スキルには一般的なスキルである下級スキル、その上に中級スキル、更に上に上級スキル、その上に高級スキル、滅多に無い最上級スキル、神からの祝福とされる特級スキルがある。

一万人中九割が下級スキル、残り一割の内の九割が中級スキルだ。

残りの一割の内の九割が上級スキル、結果一万分の十が高級スキルと最上級スキルである。

大体は高級スキルで、最上級スキルなんて一人出るだけで騒ぎになる。

特級スキルは五千万人とかに一人いるかいないかってレベルで、出たとたんに王城に連行されるんだってよ。

それって拉致って言わないか?


それから、よく礼拝に来る宿屋の女将さんに聞いたのだが、儀式でスキルを授からない人も一定数いるみたい。

千人とか万人に一人ぐらいだけど、特に困ったり差別されたりは無いんだそうだ。

この街にも四・五人はいるんだって聞いた。

この時思ったんだが、それって誕生月を間違えてないだろうか?って。


この世界の暦は一週間が七日、一ヶ月が二十八日、一年が十三ヶ月だ。

例えば一日生まれと言われてた人が、前の月の終わりの二十八日生まれだったりすると誕生祭が一ヶ月ずれる事になる。

つまり現実では五歳になっていないのに儀式に出ている事になって、スキルが授からないって事になるんじゃないか?


そんな間違いでスキルを授からない人がいても問題無いのならと、俺はある計画を思いついたんだ。

神殿の儀式の前にスキルを得て置くって計画。

そうすれば、儀式で俺がスキルを得る事ができなくって、売られたりする心配も無くなるだろうって考えたんだ。




今年最後の誕生祭の当日。


スキルを先に得て置く作戦は、成功!

スキル無しって方の珍しさはあっても、身売りされずに生活できる環境になったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る