俺、戦闘もできる生産職です。~枠外スキル【ストッカー】でスキル集め~

煙管

第1話 Prologue

朝日に照らされた森のかなり奥の洞窟、一本の槍を持って一人の男が出てきた。


「ふー、目的の素材も手に入れらたな。家に帰って一休みしたいところだが・・・ここから家まで、まだ二日は掛かるんだよな・・・とほほ」


グレーの革コートの下に革のジャケットとズボン、膝下まであるブーツ。

両手に革の指貫グローブと腰のベルトに二本のナイフとポーチ。

一般的な冒険者が見れば「随分と軽装な姿だな!こんな森の奥に来るなんて自殺志願者か?」と言う可能性が大。


だが、見る者が見れば「そんな一級品の装備を持ってるなんて、高ランクの冒険者か?」と聞かれるレベルの出で立ちなのである。


歩き始めた彼の横の木陰から飛び出した魔物と呼ばれる存在。

蜘蛛の頭部に蛇が融合したような姿の"スパイダースネーク"を槍の一閃で屠り、足を止める事無く進む。

ただ一言「ストレージ」と呟いただけで魔物の姿が消えた。


そんな彼が通り過ぎたあと、森は急に騒がしくなる。

まるで彼が怖くて生き物や魔物達が息を潜めていたかのような変貌だった。



二日後。


「やあ!おかえり!無事でなによりだ!」と声を掛ける門衛に手を挙げて答える男の姿があった。

「順調だったし目的も達成したんだが、帰り道が面倒で・・・」と気の抜けた返事をする。


「エドガーぐらいだろ、そんなこと言えるのは」と別の門衛が突っ込む。

「おうっ!ベン帰ったぞ」と突っ込みに返事をしながら、その背中を叩いた。

「痛っーーーて!お前は力加減できねーのか!」と仰け反りながら文句を言う彼を背後に歩き去って行った。


その後ろ姿を涙目で見送っていると、もう一人の門衛が「ベンさん、彼の方が年上なのに仲良いですね。長いんですか?」と聞いてきた。

「ああー、かれこれ十年近いな。俺が門衛になってからの付き合いだ」

「なるほど!十年来の友人ですか「違う!とても友人なんて言えるか!恩人だ!」っ!」と訂正してひと気の無い門を見張りながら話し出した。




あれは門衛になった二年目の初め、四十数年ぶりに氾濫の報告があった。


場所は隣街との間にある森。

一報があったのは別の街からで、既に隣町とは氾濫によって分断されていた。

森との距離が近い隣町は、既に氾濫の範囲に入って戦闘が始まっているらしかった。

この街も明日には氾濫の範囲に入るだろうとの事で、急遽冒険者を集めて防衛の準備に入ったのだ。


大慌てで準備をした翌日の昼頃、斥候に出ていた冒険者が戻り「二時間で魔物が街に到達する」と知らせてきた。

俺は、初めての氾濫に初めての魔物との戦闘を前にガチガチに緊張していた。

連絡通り魔物の氾濫が街に到達し戦闘になった。


陽が傾きだした頃、遠くで大きな火の手が上がり、直後に爆音。

目を向ければ、吹き飛ばされる魔物の姿がはっきりと見えた。


「魔物の群れの中に馬車が三台!こちらに向かってきています!」

そんな報告に色々な疑問が頭に浮かんだ。


その報告に隊長は「スーダ村からの避難民かもしれん!ついてたな!あの規模の火魔法はエドガーぐらいだろう。あいつなら避難民を護れる!到着したら直ぐに門の中に避難民を誘導しろ!」と叫んだ。

それを聞いた先輩達は「エドガーが戻ってくるぞー!それまで持ち堪えれば俺達の勝ちだー!」と大きく反応した。


俺は『エドガーって、時々門を通るエドガーさん?ゴツクも無いし冒険者でも無い、ただの生産職だって言ってたエドガーさん?』と隊長や先輩達の反応を不思議に思っていた。


でも十数分後、俺からも目視できる距離に近付いた馬車を見た時、俺の知っていたエドガーと隊長や先輩達が言うエドガーが同一人物で、ただの生産職では無い事を理解するしかなかったんだ。


俺の知っていたエドガーと言う人物は、門を通る時に手ぶらで軽装の生産職だったが、そこにいたのは槍を一閃するだけで数体の魔物を屠る実力者だった。

槍での攻撃の隙間に火魔法を使い、三台の馬車を護りながら魔物の群れの中を進む姿は、昔親に聞いた古い英雄譚のシーンを思い出させた。


だけどな、それが俺の隙になったんだ。

「おいっ!」って注意を受けたんだが、両側から魔物に挟み撃ちにあって・・・片側は防いだが、反対側の攻撃は俺の脚に直撃した。

その一撃で骨が折れた俺は・・・自分を守る事もできず、そこで死ぬはずだった。


エドガーは馬車を護り抜き門の中に避難させた、その足で間一髪の俺を救ってくれたんだ。


俺は救護所に運ばれたから、あとの事は聞いただけだが。

エドガーが大規模の魔法を使って朝まで戦い抜き、無事に街は護られたんだ。


あいつは間違っても高ランク冒険者・・・では無く、ただの生産職だ。

ただ、あいつは一般的な生産職とは違っていて・・・材料や素材から自分で調達するんだ。

あいつ曰く「俺、戦闘もできる生産職です」って・・・あいつらしいんだ。



「そんなことが・・・」

「お前は四年前に、この街に来たんだから知らなくても仕方無い。だがな、この街の住人の半分はエドガーのことを知ってる。あいつは優しいやつだから普通に接していれば文句なんて言わないだろうが、街の住人の中には良く思わない人もいるかもしれない。気を付けるんだぞ」

「分かりました」と返事をした後輩の肩を軽く叩いて彼は職務に戻っていった。



これは、そんなエドガーという男の物語である。

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