第7話
連休前最終日の部活。星座の知識を深めると称して、今、
今までは自分に対してのみ行なっていたが、どうやらというか、いよいよ、他人に行う決意が固まったらしい。シャーペンとメモを持って、
「よし! じゃ、やるよ! なぎぃ!」
「うん、よろしく」
「まず、ネイタルチャート……誕生日、生まれた時間、生まれた場所教えて!」
「5月4日。12時ごろ、長久手の東名海病院だ」
「ふむふむ、え!? 誕生日明後日じゃん!?」
「びっくりしたー……」
「あ、ごめんごめん
全然悪いと思ってなさそうな謝罪……。
それにしたって驚き過ぎだろ。耳キーン現象中なんだが。
「何で黙ってたのー? お祝いしなきゃじゃん!」
「黙ってたわけじゃ無いが。普通は近づいたら言うものかな?」
凪桜よ。なぜ俺に同意を求めて来る……。
「俺は今みたいに、誰かに聞かれる以外で自分の誕生日言う奴って、祝って欲しいんだろうなって気がして哀れに思う」
「和也くん性格悪過ぎる! そんなん普通思わないから! てか思ってても言わん!」
「え、マジ? 俺教室内で自分の誕生日より前の日が誕生日の奴を、意図的に祝ってやって、自分の誕生日を絶対に祝ってもらう流れを作ろうとしてる奴も哀れに思ってるけど」
「うっわ引くわ。誕生日に何か恨みでもあるんか?」
「ねーけど」
「素の性格の悪さだった」
「ほぼ毎年お前祝ってくれてるから、恨みなんか持つわけ無いだろ」
「おー。急に素直」
パチパチと手を叩いて何度もうなずく帆奈美。お前は俺のオカンかよ。
「単純にそういう奴らって画策に走って、逆に祝いたいって人の気持ちを蔑ろにしてんだろ」
「そんで急に説教。でもそれはあっかもねー」
納得しながら、メモに書いた日付に何事か書き始める。説教のつもりじゃなく自論を展開してたら説教臭くなる事あるよね。それです。
説教じゃねーけど的なニュアンスを伝えようか迷ったとき、帆奈美は椅子の上に立ち上がり、高らかに宣言した。
「って事で、5月4日は、なぎぃの誕生日を祝います!」
「危ないから降りろ」
「あ、勢い余った。ソーリーソーリー」
椅子から降りて、手のひらをピンと伸ばして、割り込み失礼みたいな手振りで謝る帆奈美。おっさんか。
「あの……占星術は」
そして、当初の目的を少し楽しみにしていたのか、凪桜が小声で問うのに対し、帆奈美はメモを俺と凪桜の間に見せつけるように突きつけた。
「なぎぃの誕生日会をする事をここに宣言します!」
「本人の予定聞いてからにしろよ」
「あそっか。なぎぃ5月4日の予定は!?」
お目目きらきらな相手に聞かれて、若干の狼狽えを見せる凪桜。
「え、ぅっと、夜は家族で食事をする予定があるが、それ以外は特に」
「うしっ! じゃあ3人でお祝いすんぜー! 何処行っかー」
「待て、俺の予定聞かれて無いんだが」
「無いでしょ?」
「せめて予定無いでしょって言ってもらっていいっすか……無いけどさ」
「聞くまでも無いじゃん。何の儀式これ」
「普通は確認すんだよ! 形骸的でも!」
「取り敢えず大須行くべ。動物園でもいーけど、なぎぃどっちがいい?」
「聞いちゃいねぇ」
俺の扱いが酷いのはいつもの事だが、今日は特に酷いな……。なんかしたっけかな俺。
何したか思い出そうとしていると、凪桜が頰を掻きながら、言いづらそうに進言する。
「お出かけも楽しいが、そろそろ中間テストの勉強しないと」
「なぎぃ真面目か。誕生日くらいハメを外さないと」
「オメーはいつも外し過ぎだけどな」
確かに中間テストは5月中旬から。ちゃんと勉強する奴はこれぐらいからやり始めるかも。先生が来てないのも、テスト関係で色々って言ってたし。
自分的には責めたつもりの声でツッコんだのだが、何故かふっと鼻で笑われる。
「和也くん、学生のうちしか学生料金で遊べねぇんだぜ?」
「それで納得させるつもりなのか?」
「確かに一理あるな……」
「説得されている!?」
凪桜が驚いてる。それは仕方ない。こう言われたらぐうの音も出ないもんな。流石だぜ帆奈美。
俺たちの勢いに流されたのか、小さなため息の後、考えるようにして唸る。
「ううん、じゃあボウリングというやつをやってみたいのだが」
若干後半照れくさそうに言ったの何でなん。
友達とボウリング行きたいのなんて普通では……はっ!? まさかこいつこの言動からして。
「やってみたいって、経験無いのか?」
「幼き頃に家族で行った事があるらしいのだが……友達とは」
ですよねー。こいつ怖いから今まで聞かなかったけど、中学でも友達いなかった説あるよな。何か自重気味に笑ってらっしゃるし。
しかし、遊びなら何でも食いつく女が見事フィッシングされた。
「いーじゃんいーじゃん! ボウリングならこっからだと千種のラウワン?」
「別に学校近くじゃなくて良いだろ。凪桜の家の近くの方がいいんじゃねーの?」
「千種なら丁度いい。家族で食事をするのは栄だからな。そこから地下鉄一本で行ける」
「うしっ! じゃあ5番出口前で集合ね?」
「展開はえぇ。ま、いいけど。ボウリング久々で楽しみだし」
最後に行ったのは卒業しての春休み中だったか。あん時はあまりいい思い出が無いが。
「じゃあ和也くんボコった記念プリクラ撮り行くかぁ」
「負ける事前提で話すんじゃねぇ」
「負け犬が何か言ってらぁ」
「くっそ腹立つ」
こないだ勝たせた事で調子に乗りまくっていらっしゃる。だが実際帆奈美は遊び関連は全方向強い。俺もそこそこ遊び関連はやれる自負があるが、男女のハンデを感じさせないくらい接戦な事が多い。
「因みに、2人はボウリングは?」
「そこそこやるよ。何なら私調子良いと180いくし」
「こないだだけだろ。アベレージで言えアベレージで」
「ちっちぇー男だ」
「ぐっふ、今のは効いた……」
好きな女子からの小さい男発言なんて速攻致死量到達もんなんだが。目がチカチカしやがる。
「そうか、じゃあ勝手が分からないから、
「ただの遊びのボウリングに手解き頼むって、なぎぃ真面目か」
あっひゃっひゃってル○ィみたいな笑い方させる天才か。
――本当真面目もそこまでいくと面白いよな。まんま言った意味なのだろう。今も本人は何で笑われてるのか分かってないし。
「…………」
気づけば帆奈美の笑いが止まっていて、視線がやけに冷たくこちらを向いている。
「どうした」
「いや、キモい顔してんのでね」
「え、ド直球いじめか? ここで泣けと?」
「違うし。ニヤついてんのがキモいって話」
さっきまでの大笑いは何処へやら、表情の温度差で風邪ひきそう。ここまで不機嫌になりやすい帆奈美というのは珍しくて、一抹の不安が胸をよぎった。
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