第11話
机の上の入部届を見て、大きなため息が堪らず
気づけば仮入部期間も最終日。明日中に提出する事で、
「かずやん、どーするー? 俺やっぱりサッカー部かなぁ。ハンドボール部と迷ってっけどさぁ」
「ハンドボール部楽しかったけどなぁ。けど大空が目当てのマネージャー、あれ絶対部長と付き合ってるもんな?」
「そーなんよー。口にしないだけでさー。ありゃー、帰り際そのままヤッてんわ」
「それ以上はやめとけ」
部活帰りにぶーたれるならともかく、教室でしかもその位置関係で言ってしまうのは……。
「部長さんとマネージャーさんが何をやってるって?」
「おっほ
冷や汗まじりに答える大空。ほらな。やっぱり直ぐ隣の水野が反応してしまった。濁し方下手かよ。でもある意味間違ってないか? 子供出来るような事してる可能性≒将来設計と言っても差し支えないのでは無いだろうか? いや差し支えるべきだろそんなもん。とか思っていたら水野は感心したようにゆっくりと頷く。
「もうそこまでを見据えて話しているほどの交際をしてるのか。純愛だな」
「水野が純粋過ぎて時々不安になる」
「何? 何処がだ?」
「俺ぁこのままでいて欲しいね水野さんにゃー」
仏のような顔になって笑う大空はパシパシと俺の肩を叩いて、歓談してる女子の集団に飛び込んでいった。
ここまで
「それで、結局君は部活をどうするんだ?」
何処か責めるような目のまま、俺に問いかける水野。あからさまに俺が唸ってたのを、チラチラ見てたもんな。いや、別に水野に反応して欲しかったんじゃなく、答えが直ぐ様で無い問題は悩みながら声出る時があるだけなんで。
「うーん、でも俺いなくても何とかなりそうなんだろ?」
「確かに何故か急に何人か、入部申請が来たって話だったが」
「どーせほぼ男だろ」
「何故分かる」
「本当純粋な純子ちゃんだな水野は。分かるよ。んなもん」
なんせ1年の中でも異質立つほど美人の
あぁ、胸がムカムカして来た。告白されちったー! それで? と尋ねると溜めに溜められ、フっちったーとアホ
ただまぁそうなってくると、帆奈美が同じ部活の男子と夜までイチャイチャする可能性を俺は考えざるを得なくなり、脳が炙られるような感情で焼き切れそうになるので、必然的に天文部に入る以外の選択肢は無くなる。だが、やはりどうしても夜まで何もすることが無く、自分を試す場もない天文部というのはどーにもこーにも自分を説得出来ねぇ。とすると、悩みに悩んだ妥協案は一つ。
「兼部すっかなー。陸上部と天文部」
「兼部?」
怪訝そうな顔をする水野に対して、俺は考えを述べる。
「やっぱり夕方の時間ぼーっと時間潰すってのは俺の性に合わないし、天文部ある日って月・水・金の3日間だろ? しかも本格的な活動が夜からなら陸上部で練習やった後でも合流出来るし」
俺の考えに対して、水野の表情はみるみると理解を示した様子となる。因みに何故陸上部なのかというと、帆奈美が兼部する可能性のあるテニス部のコート周りが陸上部の練習場だからである。それ以外の理由は、まぁ、走るだけならそんなに苦じゃ無いだろうという理由である。
「ふむ、なるほど。一理あるな」
「だろ? 水野もそうしたら?」
軽い気持ちで言ったことに対し、水野は重く受け止めているようだった。
「いや、私はいい。流石に部室に部員が誰もいないのに正常な部活動と認められて良いかどうかという問題になりそうだから」
「あー……」
「それに、学校内で時間があるということは、その間あの環境で勉強が出来るって事だ。学年1位になれるよう頑張らないといけないしな」
諦観にも似た何かを魅せる声音と瞳。言われてみると、確かに帆奈美や水野が来ないのであれば、今入部しようとしている男子どもも部室には来ないだろうし、部室にあのヤン……
そうならないように、兄貴の作った空間を大事にしたいが為に、水野だけがあの虚無空間にいて、そこに群がる男子たち。
――おかしいな。それで良いじゃん無事解決って話のはずなのに。
何で心に靄のかかったような煩わしさと、しかもぞわっとする胸のざわめきまであるんだよ。そんな靄を取り払いたいのが行動に出てしまうのか、心に決めてしまった内容を、勢い良く両手でパンと手を叩いてから口にする。
「……ぐぁあ、もう、分かったよ! 兼部無しで天文部に入りゃいいんだろ?」
突然耳に入った内容に理解が追いついていないような顔をして、彼女は言う。
「誰も……頼んでないが?」
「はい、そうっすね! けど何か周りに知り合いのいない状況の水野が、黙々と勉強している様子が頭にチラついて可哀想だなって思っちまったんだよ」
言ってることが流石に独りよがりになってて、自分でもおかしいのは分かってるが、口を衝いて止まらない。相手の顔がどこか曇っても、俺はしゃべり続ける。
「ど、同情って事か? そんなものは」
「必要ない、必要ないんだけど、俺が、何となくその
再度区切るためにポンと手を叩いて締める。よく嚙まずにこんだけ言えたなと自分で感心すらするところだが、言われた本人はポカンと口を開け、俺を凝視している。啞然とした表情のまま、やっとのことで絞り出した言葉。
「君、熱を持って喋ったりするんだな」
一瞬で我に返り、顔が若干赤くなっている気がする。熱くなって喋ってる所に、クッソ冷静な返しをされると、こんな恥ずかしかったっけ? つーか熱くなるのがキャラじゃないのに何で熱くなったよ俺。
「……聞き流してくれると助かる」
「いいや、覚えておこう。成績からわかる通り記憶力はいいんだ私」
「お前なぁ」
不敵な表情からこぼれる笑み、なお恥ずかしさが増す。そんな俺の心理状態を知ってか知らずか、水野は続ける。
「それにしても、朏さんもいるのに、私が孤立しそうなことを勝手に心配って、ふふっ、何様なんだろうな君は」
喋ってる内容は気に入らないとでも言うような捉え方が出来るのに、その表情はどこか愉しそうで。より一層、自分の言ってしまった事実が、湯船に浸かったかのように身体を火照らせた。
「ぐっ、いやまぁな。確かにそうなんだけど、何となくさ」
水野の表情を直視できなくなってしまったので、手元の入部届を見ながら口にする。
「じゃあ、放課後一緒に行こう。天文部にな」
「……うす」
そのまま入部届を見ながら答えたが、いつもは大人のような声音を聞かせてくれる彼女が、子供のような無邪気さを帯びたような誘いの声だったのが、何だか無性に満たされたような気持ちになって。気づけば、さっきまであった心の靄は、忽然と消え去っていた。
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