第8話

 あのいっときの感情のせいで、突き放すような終わり方をしてしまった手前、同じ部活に入ろうとするのおかしいし、意味分からんよなぁ。

 部活動紹介の翌日。また帆奈美ほなみと一緒に登校出来てない俺は、いよいよ焦っていた。

 マジで高校で帆奈美との接点が無い状況になりつつある。

 ヤバくない? 早まり過ぎた感半端なくない?


「実力テスト返しますよー」


 たまき先生の呼び声にクラス皆んなの表情はそれぞれ。

 後ろからなんかうへぇ、という呻き声が聞こえてきたが、何となく、でしょうね。って思う俺。


道家どうけくん」


 テストを取りに行くと、何でか環先生が優しく微笑んでこちらを見ている。


「よく頑張りましたね」

「え、はぁ」


 頑張ってないんだが……とか言える空気じゃない慈母のような笑み。

 もらったテスト用紙と共に成績表と名のついた小さな折りたたみの用紙。

 開いてみると、クラス順位と学年順位が書かれていた。

 1位だわ。学年で。

 自信なかった問題が2つだけだったし、順当……と思いつつ、嬉しいものは嬉しいな。高校受験で俺史上1番勉強した事実は損なわれていないんだな。

 席に座りながら間違ったであろう箇所を確認してると、テストを受け取り戻ってきた大空かなたに捕捉された。


「えぇ!? 数学100点!? かずやんやっば!」

「声でか」

「何なん、頭良さげと思っとったけど、ガチで良いパティーンじゃん」

「ま、5教科のテストならな。副教科が来てたらまた違うよ」

「あぁ、美術とか音楽とか?」

「おぉ、その辺内申どう足掻いても3だった」

「俺その辺は4か5だったべ」

「超リスペクトだわ」

「その顔ぜってぇ嘘じゃん」


 ちぃ、バレたか。俺は副教科の存在を舐めきっていたので、技術、家庭科、音楽、保体、美術は課題を出されても出さなかったり、作る作品やらも適当だったのが災いし、俺の総内申点は38。こんな性格なので先生に嫌われまくったのも原因とは帆奈美談。うっせぇほっとけ。と脳内ツッコミぶちかましてたら、教室にドカンと轟くような声がぶち込まれる。


「私が、クラスで2位!? 馬鹿なっ!」


 いや、軍師キャラが戦況ひっくり返された時の驚き方。表情も今にも歯軋りしそうな勢い。

 そんな水野みずのがちょっと怖いので俺が1位なのはバレない方が良さそう。

 視線をしらーっと外へと泳がせつつ、テストを揃えて机の中にしまうと、キッと睨むような威嚇の目がこちらを捉えた。


「君、まさか1位なのか!?」

「ううん、全然」

「絶対準備していた即答……怪しい」

「怪しくないよー。クラスで15位だよー」

「数学100点でか?」

「そうだよー。他がー、60点くらいなんだよー」

「…………」


 怖い。めちゃくちゃ俺の机を睨んでいらっしゃる。入学生代表で最後ミスった時も思ったし、実力テスト前に勉強してたのを見てた時も思ったけど、本当意識高過ぎて心配になるな。


「てか1位取るつもりだったのか。凄いな」

「……奴だな」


 話しかけたのに、話聞いてねぇなこの人。


「奴?」


 尋ねると、水野はどこかイライラした表情で語り始める。


「……入学生代表の話が来た時に、うっかりその話をした先生が漏らしたんだよ。入試テスト1位の人には断られちゃってねと。つまり、施された入試挨拶だという事だ」


 施された入試挨拶ってなんだよ。そんな考えになるのお前しかいねーよ。


「単純にめんどかったし、人前に出て喋るのが苦手なだけだぞ」


 口に出すと、あの怖いまなこが俺を捕まえる。


「やはり……」

「あ、いや、普通の奴はそういうの面倒くさくて断るんじゃねーかな。全員が全員ああいうのをやりたいと思うわけじゃないだろ」

「入学者の代表だぞ? 誇らしく光栄じゃないか?」

「そんなに熱を持って言われましても……。確かに凄い事だし、実際水野はかっこよく挨拶してたから、そいつより水野がやって良かったんだよ」

「……うん」


 俺、結構普通に褒めてこの場を終わらせようとしたのに、唇噛み締めてから外見たよこの人。全然納得してなさそう。

 様子から察するに、それでもなお悔しいという事らしい。良くないなー。そいつ。誰だか分からんけど。

 でも何事も本気になれるのは才能だ。何かを前にそもそもチャレンジしたり、諦めない精神みたいなものを俺は持ち合わせていない。

 故に、水野凪桜みずのなぎさの悔しがり方にすら、畏敬の念を覚えたのかもしれない。


「なんか羨ましいわ。水野が」


 肩肘ついて、そんな事を言ってみると、こめかみをピクピクと反応させつつ、外から俺へと視線が伸びる。


「……今私が悔しがってるのにか?」


 怒りで引き攣った感じが、まさに今俺が思う通りな人間って気がして、思わずニヤける。


「うん、なんか、自分の感情に正直に真っ当に真っ直ぐ生きてる感じが眩しい」

「眩しい?」

「そういう奴が頑張ってるだけでエネルギーくれる感じするんよなぁ」


 感じ入るように言ってみたが、冷ややかそうな声が返ってくる。


「そうは見えないが?」

「ハハっ、申し訳ないね。けど貰ったエネルギーを何とかしたいとは思い始めたところだから」

「……なら、一つ頼みがあるんだが」

「頼み? 何だろ」

「頑張ろうとする部活動が決まってなかったら、1度仮入部してくれないか?」

「人数足りてないのか? 何部?」

「その、天文部なんだが」


 ……あれ、これなんか最近聞いた事無かったか?

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