第6話
朝会が終わり、1限目の授業までの10分間各々席を立ったり、落ち着かずきょろきょろとしたり、新しく出来た友人のもとへ席を立ったり。
昨日説明があったが、今日は実力テストをやるそうで。中学受験のおさらい的な問題を5教科こなさなければならない。
とはいえ、実力テストをやるからと言って勉強をしてくる人間はそうはいないんじゃないかと思う。
思っていたのだが。
「対頂角は等しいから、ここが40°、で錯角が85°になって……」
隣でぶつぶつと口にしながらめっちゃ高校受験数学を解いてる天然記念物がいる。というか
クラスの他の人間が、友達作ろうと世間話や、共通の話題を掘り起こしたり、連絡先の交換してる中、会話の余地がない事を平気でしてる。
実際、何人かは水野に話しかけようとして、ごめん勉強中なんだ。と本当に申し訳なさそうな顔で謝って一蹴してる。
空気は読むものじゃなくて吸って吐くものだと悟ってる系か、1人大好きっ子なのか。
かく言う俺は後ろのやつのおかげで着実に交友関係が広がっていく。
「
「強いよー。だから受験頑張って入ったんだもん。ま、もっと頭良かったら天蘭高校行ったけどね」
「天蘭って偏差値エグいもんねー、うちのクラスのガリ勉くんが受かってたわ」
「あたし、第一志望だった時代ある」
「
「美雪山」
「陸上強いとこだ」
「お、
「いや、陸上部じゃないのにリレーメンバーで呼ばれてた」
「何それどゆこと?」
「脚速いんだ?」
「ハードル上げたく無いんでそこそこって言っとこ」
「陸上だけに? かずやんマジセンスゥ!」
「うわ、うるさいなこいつ」
「
思った通り、間瀬は男子でも女子でも話をぶん回すタイプの人間だったので、相槌とツッコミ入れてるだけで周りとの会話を成立させてくれる。あとやっぱり、お前も俺をかずやんと呼ぶ側の人間か。
あ、やべっ、ちょっと声のボリューム落とさないと水野が集中出来ないんじゃ……と思ったが、しっかりイヤホン着けてるわ。もう外界との意識を絶っとる。
「かずやんは部活どうすんの?」
「どうすっかなぁ。学校来るのに荷物増やしたくないんよな」
「いやそんな変わらんやろ」
「そうか? 最低でもスポーツウェア入れないとだろ?」
「非力すぎるだろ!」
「いや重いとかじゃなく、荷物が
「スポーツウェアが重いとか」
「道家弱過ぎて草」
やべぇ、ノリで非力キャラにされそう。別にいいけど。寧ろそれでいくか。無駄に重いものとか持たされないで済みそう。机に突っ伏してボソッと呟いてみる。
「あー、重力でだるい」
「遂に重力にまで負けとる」
幾らかの笑いを引き起こせたらしいので、満足してそのまま水野の方を向いた。
相変わらずブツブツ言いながら問題を解いているが、急に本を閉じた。
「よしっ、終わり」
「お疲れさん」
「……朝からそんな体勢で。だらしがないな」
「まさかの説教……いや、色々あって」
そう言いつつ、背すじピーンと伸ばしてしまうほどに、水野の落胆した瞳は効く。多分マゾい属性持ちなら高揚しててもおかしくない。
「皆勉強しないのか?」
「成績に反映されるでもない実力テストなんだから、付け焼き刃なんぞ要らんよ」
ふっと鼻で笑うと、水野は一瞬虚空を見つめたようにして考えた後、口の端を歪める。
「さっきまでの私の勉強が付け焼き刃だと?」
「いやいや、水野はちゃんとそれまでに何度も積み重ねて勉強した跡がある。問題集のページに付箋と折った跡と書き込み量が、勉強してきた奴なんだって分かるから。俺がやるんとは違って、付け焼き刃じゃないだろ」
「……よく見てるな」
何でジッと見てくるんだろう。あれか。何故問題集をじっくり嘗め回すように見てたんだキモッって思われたんだろうか。冷静に考えたら、いや、冷静に考えなくても確かにキモイな。俺水野の事見過ぎでは? いや、目を引くんだよなこいつ。腹立つほどに。
「道家は勉強得意なのか?」
「苦手と思ったことはない」
「あまり聞いたことは無い返答だ。君偏屈だと言われやしないか?」
「おみゃーに言われたくねーです」
そんなやり取りをしていたら、始業のチャイム。実力テストの開始合図。テストは嫌いじゃない。学生が自力を発揮できる場とは一芸を極めた人間以外は、勉学と部活の二つが主となるだろう。
ただの学生なら数度しかない、自分の力を試す場という状況は、俺にとってはそこそこアツいので、ことその二つはいつものやる気の無さとは無縁になる。
問題の中身は、基本7割、応用3割のようなお手本のようなテスト用紙。受験で頑張った人間なら8割は取れる問題だろう。
そんなテストに俺のシャーペンが止まるはずも無かった。
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