第3話
担任の話を聞きながら時折感じる視線。俺をぼやかしながら彼女を、つまりは
目が合ってしまった。
「それでは今日の説明事項は終わります。本日お渡しした生徒個表などは来週中までに提出して下さいね。あ、最後に皆さんの写真を撮りますので、外に出ましょう。来て下さいました保護者の方々もどうぞ外の方へ」
担任の
「
「いや、来てない」
「あそうなん。忙しいとか?」
「そうだな。うち母子家庭且つ、母親がバリバリ働いてるタイプの家だから」
「なるほどなー。うち逆に父子家庭で、父さん来てねぇわ。同じく仕事で」
「普通に平日だもんな。休み取ってもらうほど別に来て欲しい事もねぇし」
「それなー。ま、写真くらいは撮ってこいって言われてるから俺らで撮っていい?」
「おー。良いけど」
「あの!」
間瀬はもう友達みたいに思ってくれてそうで普通に嬉しいな。なんて思っていたら、急に横から水野が現れて、心臓が跳ねた。急に美人が話しかけてくるの心臓に悪過ぎる。こんなの慣れる自信が無い。
「おぉ、水野さん、だよね? どしたん?」
「わ、私も写真撮りたいなと」
「えぇ!? 良いよ良いよ。じゃあ3人で撮るー?」
「え?」
「ん?」
間瀬が若干浮き足立ちながらも水野とやり取りしてるが、水野の反応が一瞬おかしい。つまり文脈から察するにこういうことか。
「俺らとの写真はいらんだろ。写真係任されたんじゃねぇの?」
「あ、あぁなるほど! ならそう言ってくれよー。舞い上がっちゃったじゃん」
はっずかしーと叫びながら笑う間瀬に、こちらも何と無く笑っていたが、水野がハッキリと告げる。
「さ、3人で撮ろう。ダメかな?」
最初会って泣いてた時死ぬほど愛想悪かったのに、そう尋ねる水野が妙にしおらしい感じで、ギャップ萌えってやつ。
「めちゃくちゃ気ぃ遣ってくれてるー。何水野さんめっちゃいい人。惚れてもいい?」
「それは遠慮しておく」
「秒でフラれたー! きちぃー!」
「勝算無かったろ。それで上手くいくの佐○健とかだぞ?」
「道家、男には行かなきゃいけない時があんだよ」
「絶対今じゃなかったけどな」
「ふふっ」
俺たちのやり取りに吹き出してしまったらしい水野。おい、笑われてんぞ。
「君たち同じ中学なのか?」
「違うよ。女子を舐め回すように見つめている道家が面白かったから絶対こいつ面白いと思って。仲良くなろうと思ってさー」
「え……」
「いや、ちげーから」
明らかに素で引いている表情の水野。そらそうよ。
「だから、水野を探してたんだよ。落とし物拾ってたから」
「あ、あぁ! なるほど!」
納得行った表情がぱぁっと華やいでるの
「なるほどーって、何? さっき一緒に入ってきた時も思ったけど、2人知り合い?」
「いや、落とし物を返した相手、返された相手ってだけだが」
そう言って水野の方を向くと何故か、泣いてた時ほどでは無いにせよ不機嫌そうな表情に心が冷える。
「え、もしかして知り合いとすら思われてなかったのか?」
普通にショックだななんて思って尋ねると、つーんと不貞腐れた表情のまま彼女は口にする。
「何言ってる。同じものを好きな、言わば同志だろう? 私達」
「同志!?」
北朝鮮の女子以外の女子から言われる事ないであろうワード過ぎて間瀬は目をかっ
「同志って思ったより評価が高いな……どうも」
「いえ」
お互いに顔を逸らす。何じゃこの空気。そんな空気感じてか知らずか、間瀬はずけずけと聞いてくる。
「いいなー同志、俺も同志欲しい。え、2人とも何が好きなの?」
「映画。昔の洋画」
「なんてやつ?」
「Distance from the enemy」
「全然知らんわ」
「でしょうね」
あまりの淡白な反応に笑ってしまうが、間瀬がしたのがこの作品名聞いた時の普通の反応だよ。だから水野のキーホルダー見た時は嬉しかったし、あのイタいオタク的問いかけにしっかり反応してくれたのも、死ぬほど嬉しかった。もしかしたらこれだけ急に接近してきて同志とまで言ってくれたのも、水野も同じ気持ちだったのかもしれないな。
下駄箱まで到着すると、玄関口のすぐ外まで他クラスのやつらとか保護者がごった返していて、多分クラスの写真の順番待ちをしているようだ。
「あ、
「お、
凄いなこいつ、今女子4人組くらいに断ってからこっち来なかった? もう写真撮るの終わったのに待っててくれたんだな。
「もう、友達できたんか?」
「まぁねー。そっちは……ふぉう!?」
言葉の途中で、初めて俺の両端2人に視線がいったのか、驚嘆めいた変な声を出した。可愛いかよ。
「本当にあの子と仲良くなってるー! 私、
「あ、あぁ」
面食らっている水野。俺は帆奈美の肩をどうどうと叩き、ちょっと距離を取らせる。
「ごめん、こいつ人との距離感バグってんだ」
「言い方ひでぇー。でも仲良くなりたい人にだけだよ?」
「それでももうちょい手心というものをだな」
「てごころって
「ちげぇよ」
相変わらず熟語を知らん奴、説明してやるか……と思ったら間瀬も水野も静かになって俺たちを見ている。
「どうした?」
「あのさー、もしかして2人ってぇ」
「付き合ってるのか?」
「スパッと聞くぅ!」
水野に割って入られて驚く間瀬、俺も若干その聞き方には狼狽えたが、帆奈美が直ぐに反応し息を吸った。あ、心の準備必要なやつ。
「ぜーんぜん! 幼馴染なんだ。幼稚園からの」
あ、ダメだ。今俺頭思いっきりハンマーでぶん殴られた気分。帆奈美は俺のことを何とも思っていない事実をしっかりと突きつけられるこの瞬間が堪らなく心臓に悪い。
「幼馴染で高校まで一緒って地味にすごない?」
「ねー。私の事好き過ぎでしょ」
「……そっすね」
「あー、面倒臭がってる。けど家族ぐるみでクッソ仲はいいからね」
肩に腕を回してきながらピースサインの帆奈美。フワッとコロンの香りが鼻をくすぐってなお心臓に悪い。
「ぽいぽい」
「幼馴染か……憧れるなそういうの」
うんうん頷く間瀬、静かに呟く水野。よくそういうの社交辞令的に言われるが、都度反論させてもらうぞ。
「水野さん、お互いの弱みと黒歴史を知ってて握りあってる仲=幼馴染だから。そんないいもんじゃないよ」
「未だかつて聞いた事ない幼馴染の感覚!? そんな夢ない事ある?」
間瀬がまた驚くが、帆奈美が腕を組み、感じ入るように口を開く。
「お互いの弱みでお互いを牽制してるとこあるからね」
「君たちの関係は政治家か何かか?」
「政治家っくっく、政治家系幼馴染とかウケるわー」
水野の聞いたことない形容のされ方に帆奈美も笑い、俺もふっと笑う。色恋の発生しない悪友のような幼馴染に、いつも通り見えた、思われたのではないだろうか。
俺は帆奈美の事が中学生の時からいつの間にか好きだったけど、そこからはずっとこんな感じ。幼馴染としての価値観が、恋愛じゃなく友に比率を置く関係。
けれど心機一転高校生活とはいえ、そんないきなり恋愛じみた関係になれるとなんて思ってなかったし。グサッとくるこの心の
「E組の皆さん、写真を撮りますよー」
「あ、呼ばれてるよ三人共、和也くん、終わったら後で合流ね。校門にいるから」
「分かった。後でな」
「っしゃー行こまい行こまい!」
テンション高い間瀬が俺と水野の肩を、外の撮影の場まで押していく。並んだ桜の木を背景に撮るようで、男女で別れ、あいうえお順、つまりは出席番号順で並ぶのだが、自分の位置についたときに、おっと思わず声を漏らした。
「ここでも隣」
「みたいだな」
俺と水野は丁度、中腹の男女の折り返し地点で隣同士になった。ここまでくると――――。
「すごい偶然だ」
「……確かに」
水野がさもおかしそうに笑って言った偶然という言葉と共に、あわや出かけたを言葉を飲み込む。自分が一番馬鹿馬鹿しいと感じているはずのその言葉を。
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