第1話
それはもう落ち込んでいる。もう相当に。8クラスもあれば一緒のクラスになる確率は低いだろうけど。それでも
俺は
つまり1年は同じクラス内で起きた出来事の共有が出来ない。こと恋愛事情に関してこれは大きな損失だ。幼稚園、小学校、中学校と辿ってきた中で、こいつのデメリットはよく知ってる。
お互いに違う友人との交流。
休み時間しか会えない。
クラス対抗行事=敵の図式。
そして何より……この1年このクラスに興味が無くなり、クソつまらん生活を送る事になる。
実際体育館で行われる入学式の流れを担任の教師(何か
自分の机に右頬を預けつつ、はぁーっと声にならないようため息を吐いた。自動的に左へ流れる視線。だが左隣の席には誰も座っていない。
登校初日から休むとか中々だなこいつ。結構今日次第で人間関係決まるとこあるぞ。
だから流石に担任が来るまでに帆奈美のクラスに行ったりする事は無かった。この先クラスでは居場所無い奴って帆奈美に思われたりしたく無いしな。
そんな不平不満で脳内をぐるぐるとさせていると、左太ももあたりに振動を感じる。帆奈美からのLINE?
『あの子いた? こっちのクラスにはおらんかったわ』
あの子? あ、完全に忘れてた。こいつの持ち主か。膨らんだスラックス右ポッケに手を当てつつ、クラスをうっすらと見回してみるが多分いない。
やっぱり職員室持ってった方がよかったな。歩いて行ってたから自転車の鍵ってこたねーだろうし、普通に考えたら家の鍵だろ?
となるとこのまま入学式終わったら書類もらったり、説明とか受けて解散。何もなければ帰宅OK。そのタイミングでようやく自由な時間を得られるわけで。
やっと職員室に落とし物として鍵を届けに行った頃には、あの子も帰ってるだろうし、今日鍵を回収してもらえる確率が限りなく0に。わーしかも、家に誰もいないんだったら最悪過ぎるな。帰れない絶望の中登校ルートを散策するハメに。それは可哀想過ぎる。
とはいえ今職員室に行ったら何となく顰蹙買って空気読めない奴認定されそうな気がするし、自意識過剰かもしれんけど。
『うちのクラスでも無さそう。もろもろ終わったら職員室行ってくるわ』
前の席の奴に隠れながら、携帯で返信すると再度スラックスの左ポッケにしまう。こういう時返信が来るか左太ももに意識がぞわぞわっと集中してしまう。別に返信が来たわけじゃ無いのに、振動を感じた気がしたりするのは何故なんだろうな。
「それではみなさん、シューズを履き替えてください。これから体育館まで移動します」
担任の言葉に皆がぎこちなく、周りを見ながら持っているシューズに履き替え、履いていた学年の色違いスリッパをシューズを入れていた袋に入れ替えていった。
すると最中に間違いなく携帯の振動を感じる。
『それじゃ気づかず帰っちゃうかもしれないじゃん。家の鍵かもだし、体育館で確認しよ?』
いや、帆奈美は顔見てるかもしれんけど、俺は貞子かっつー長い髪の毛しか見てないから。確認のしようがねーよ。
と、返そうにも流石に移動しようってんで、携帯に文字打つのは担任にバレずは無理。
俺は反論せずにそのまま廊下へと出ていく。
このタイミングで隣の教室の女子もある程度視野に入れたが、黒髪ロングの女子なんて普通に何人かいるので全くピンとこない。
あの帆奈美が綺麗って言うぐらいだから、多分この子じゃねーなくらいの判断しか出来ない。
ふむと悩み考えていると、肩をトントンと叩かれる。俺の後ろの席の奴だ。色素の薄いブラウンめいた髪をワックスで整えてて、一目からして目立ちたいタイプの人間と判断。
そいつがクラスのみんなが整列していく中で俺に話しかけてくる。
「早々に女子の品定めでもしてんの?」
「え、いや別にそういうんじゃ。つかもしかしてそう見える?」
「いや、俺後ろの席だけどじっくりみんなを観察してるなぁって思ってたら、次は隣のクラスの奴らをじっくり見始めたからさ」
「じっくり見てるように見えてたか……」
渾身の小っ恥ずかしさ。嘘でしょ。しっかり遠目な感じを
「無意識で女子見てるとかやべー奴?」
「違うよ。人探し。ちょっと見つけなきゃいけない子がいて」
「ストーキングするため?」
「いやしつけーっての」
イラっとしたが流石に入学初日で喧嘩するような人間だと思われたく無いので、我慢してスルーする。悪気があるというより悪ノリな感じだし。すると、声を出さないようにではあるが屈託のない顔で笑い始めたそいつは、両手を合わせて謝る。
「わりわりっ、ちょっと面白かったからさ。ノリで言ってみた。俺、
みちいえって……あぁそうか。前の席順表でそういや苗字が出てたからか。
「道家って書いてどうけって読むんだ。俺、
「あ、武士みたいな名前だなと思ったけど違うのね」
「みちいえの後、ませになるわけなくね? 席と今のこの並びは出席番号順だろ?」
「あ、確かに」
「そこ、静かに向かいますよ」
すでに列は体育館に向かい始めていたが、ヒソヒソ話に近い音量でも気になったのか、担任に制される。
「すみません先生ー、っち、うっせーなあのオバハン」
「ひでぇな」
しっかり最後のボリュームは落としていたが、聞こえてるんじゃないだろうか。でも安心した。わりかしノリ良くて面白そうな奴が後ろの席で。
目立ちたがりの奴に乗っかるのが生きていく上で割と好きなポジショニングの俺にはありがたい。俺は相変わらずその辺の友人運の引きがいい。一番大事なクラスの引きは死んだけど。
体育館に着くと、クラス別にパイプ椅子がずらっと並んでいる。自分より前に着いているクラスの人間が着席し始めていて、それに倣い座り始めるのだが、俺だけは何となく他のクラスの人間を見る。すると、離れた距離で確かにその時目が合った。
『い、た?』
声には出さずに口の動きで問いかけてきたのは帆奈美だ。俺は手でばってんを作り、諦めて席に座ったが、その瞬間ガシッと肩を掴まれて変な声が出た。
「今の子誰? まさか彼女?」
「違うが誰かは教えない」
「結構可愛いくさくね? 俺の知り合いの中でも結構上位、いや1位では?」
「知らんし、誰かは教えない」
「付き合ってないなら教えてくれよぉ、まぁ付き合ってても教えて欲しいけどぉ」
「うっぜ」
ぐわんぐわんと肩を掴んで揺らしてくるのを跳ね除けてやる。さっきから担任の視線痛いから。絶対目をつけられたから俺たち。
そうしてる中、全員の着席も終わり、体育館の扉が閉まり、入学式が執り行われる。
こう立ったり座ったり、校長やら生徒会長やらが何かの話を真面目にする事に意味があるのかなんて、冷めた目で見つめていた。
「新入生代表挨拶、新入生代表、
いい加減飽きていた俺は携帯を見ようかとポケットに手を突っ込もうとしたその時、後ろの
「何あれ、クソ美人やん。俺史上ぶっちぎり1位なんだが?」
は? こいつさっき帆奈美の事1位っつってたじゃねぇか、そんなわけねぇだろふざけてんのかと、視線を壇上に移すと、一瞬で気だるさが消えた。
目を奪うとはうまく言ったもんだ。確かに美人を絵に描いたような黒髪の女性がそこに立っている。
その瞬間、また携帯が振動したので、開いて俺は首をぎこちなく携帯に向けた。
『見つけたね!』
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