運命の君、約束の人
TOMOHIRO
1章 運命なんてありゃしない
1.入学式にて
プロローグ
本のいい所。閉じるだけで物語がそこで終わること。
今読んでる恋愛小説だって、これ以降を読まなければハッピーエンドで終了だ。
映画は退席しなきゃいけないし、ドラマはSNSでめちゃくちゃネタバレで賑わうし。
一つ伸びをして本を閉じたのは、読む気が失せたから。
本に限らず映画やドラマなどで運命という言葉に踊らされてる恋愛ものを見ると、あぁ、創作でしかありえないなぁと渇いた笑いが出る人間だった。ここ最近ちゃんと一貫して読んだり、見れたことはあまりない。結末が大体読めるせいで冷めてしまう。
運命の前に迫り来る障害、例えば恋敵、親族、境遇、仕事、病気、距離、etc.etc。
それを愛の力で解決する。この時の愛と言えば、友、奇跡、超能力、障害だったはずの恋敵、etc.etc。
起きるハッピーエンドは普通に考えれば感動するものなのだろうが、俺にとっては物語としての予定調和に見える。
これだけタラタラと文句を連ねておいてなんだけど、一つ断っておくと別にラブロマンスが嫌いなわけじゃない。恋愛を運命だからで雑に片付けてしまう、リアリティから逸脱した話に、せせら笑ってしまう性格の悪いひねた一男子高校生ってだけ。と解釈して欲しい。
恋愛は順序を踏んでなるべくしてなるものだ。まぁ、付き合った事ないけど。
でもそうじゃなきゃ二人での経験や思い出の積み重ねやらが無意味って事になる。
そんなのは受け入れられない。受け入れたくない。
「
誰に向けてか分からない長い自分語り的独白の後、大きめの声が右耳に刺さる。本を閉じ、片耳だけ付けていたイヤホンを外す。笑みと驚嘆が入り混じった表情で、こちらに手を振り近づいてくるのは旧友というか、顔なじみというか、幼馴染というか、好きな子というか、
「ナチュラルに失礼だな」
失笑すると、言われた当人の目が細くなる。
「いつも遅れて来るのはどこの誰?」
「……え、俺?」
「いや何故その顔が出来るのか」
「心当たりが旅に出てる」
「心当たりは旅に出るものじゃねーから」
ケラケラ笑いながら隣を陣取る帆奈美。本を学生鞄にしまい、並んで二人歩き出す。
直接見れないので、ちらちらと横目でブレザー姿の帆奈美を確認するが、うん、似合ってるじゃん。って俺何様だよ。
そんな視線を
「高校の入学式って終わったら直ぐ帰れるのかな?」
軽い調子でそんなことを言われたのでホッとする。
「昼前には解散だろ。中学ん時と一緒だと思うが」
「ふーむ、中学校時代の記憶が、旅に出てるなぁ」
「パクられたんですが」
「パクりましたが」
帆奈美の不敵な笑み。
「直ぐ帰りたいのか?」
「そういうわけじゃなくて、何もないならお昼ごはんうちでどう?」
「え、いいよ、ほなママに申し訳ねぇし」
「そのほなママが呼んでるんだから大丈夫なんじゃん?」
「よし。じゃあ遠慮なく」
「即答で草」
ぷっとふきだした後に、徐々に笑いが大きくなる帆奈美。
「え、そんな笑うとこあったか?」
「だって申し訳ないと思ってる人間の返しスピードじゃねーから」
「マジな分析やめてもらっていいっすか……」
確かに口では断りつつ、おいしいご飯にあやかりたいと思っていた。相変わらず帆奈美には俺の性格の図々しさまで見透かされている。
それにしても笑い過ぎだろう。そんなおなか抱えながら、桜色の頬になってまで笑うことじゃないと思うのだが。
気恥ずかしいので、いい加減ツッコもうとした時に肩に軽い衝撃があった。
「すみません」
「いえ」
こっちを全く見ずに謝ってきたのは長い髪の女の子だった。そのまま早歩きでどんどん先へ進んでいく。どうやら見たところ、持ってる紙を読むことに夢中で、俺に気づかずにぶつかってきたらしい。あのままだとまた誰かとぶつかりそうなんだが……てゆうか制服同じだな。
小首をかしげていると、何故か隣りの帆奈美が目を煌々と輝かせていた。
「ねぇねぇ今の子めちゃくちゃ綺麗じゃなかった?」
「そうなのか? つーかあんな一瞬でよく見えたな」
「いやー、思わず見とれちゃったもんねこの私が」
「ほー、そりゃーちゃんと見ときゃよかった」
そこまで言うと急に肩をがしっと掴まれて、帆奈美が含みのある表情を浮かべる。
何か期待を持たせるような展開に心臓がぞわっとしたところで。
「無理だよ。和也くんじゃ」
「何が無理だというんだ何が」
はい、また笑われる俺。大体いつもこんな調子である。俺の何気ない失言、ミス、天然を披露すると、隣で大体帆奈美が笑っている。でもこの時間が何となく好きで。
帆奈美もそうであったらいいななんて思ったりしてて。
それは俺にとって意味のある積み重ねだと思いたいのだ。
笑いすぎて涙が出たのか目を擦る帆奈美、すると落ちた視線が、地面の何かを捉えたのか、屈んで何かを拾い上げる。
「これさっきの子の落とし物じゃない?」
見たところキーホルダーの付いた鍵のようだった。
「やっば、早く渡してあげないと」
「そうだな……いや、もう見えねーぞ。歩くの早すぎるな」
こいつが笑いすぎってのもあるけど口に出さんどこう。
そんなツッコミを心にしまっていると、帆奈美は何事か考えているようだった。
「うーん、そうだ。多分制服的に同じ学校だし、教室回って返してあげようよ」
「優しいかよ。いやー普通に落とし物って事にして職員室とかで良くないか? それに俺らのどっちかと同じクラスの可能性もあるし」
単純に面倒くさいという理由を後付けて誤魔化してみる。多分帆奈美はそれで納得する。
「あーそうかも。じゃあほいっ」
「っうぉ?」
帆奈美がほらなっと内心ドヤっていた俺の手を持ち上げてしっかりと鍵を握らせたのだ。
「いや、びっくりし過ぎでしょ。ほら、これ和也くんが持ってなよ」
「急に人の体温感じるとびっくりしちゃうタイプの人間だから……え、俺が持つの?」
「だってあの子の顔見たかったんしょ? 返す時にじっくり見なよ」
意地悪じみた顔で笑う幼馴染に余計なお世話だと独りごちつつ、握らされた鍵を見ると、付いているキーホルダーを注視した途端目が大きくなるのを感じた。
「Distance from the enemyのキーホルダーじゃん。え、映画好きなんかな?」
「なんかそれ聞いたことある。和也くんの好きな映画じゃなかった?」
「でも10年前の映画なのに……」
それは俺がこの世で一番好きな映画の、軍人の主人公が持っていたドッグタグをあつらえた映画のグッズのキーホルダーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます