第八章 本当の終焉
警察に連行された後も取調室で岡田や霧神相手に黙秘を続け、なおも見苦しく抵抗を続けていた信奈だったが、その取り調べの間に警察が行った再捜査で押収された数々の物的証拠を前についに取り調べ三日目に犯行を自供。これに伴い、同日警視庁は蒲田の事件について岸辺和則にかけられていた容疑を撤回し、改めて高田信奈を吉木瑠衣子に対する殺人未遂罪と、岸辺和則に対する殺人罪で逮捕した事を発表。まさかの大どんでん返しにマスコミ各社は大パニックとなった。
事件を受け、検察は岸辺和則にかけられた二つの事件の容疑のうち蒲田の事件に対する書類送検を撤回し、高松の事件のみの書類送検に切り替える処置を実施。同時に、警察はマスコミに対する事件の説明で岸辺和則が吉木瑠衣子を助けようとして殺害された事も公表し、改めてマスコミや学者の主導により五年前の殺害事件の実像の検証が行われ、岸辺和則という男に対する評価が大きく変わりつつあった。
なお、彼女の動機となった坂出の事件の真相については、現段階で香川県警の追加捜査が終了していない事もあって、「犯人が坂出の事件の無罪判決に納得できなかった事により今回の犯行を起こした」という事実以外の事……すなわち坂出の事件について苅田が本当に無罪だった事はこの時点では公開されない事となった。というよりも、心象的にいくらクロであっても坂出の事件については苅田の無罪はすでに確定しており、『苅田が犯人でない事』はすでに公的に認められている事実である。従って、金木が真犯人である事が確定するまでは事件の情報を公開したくてもできなかったというのが真相ではあった。ただ、香川県警の懸命の捜査は継続しており、真の意味で苅田の無罪が立証される日もそう遠くないだろうというのが柳村警部の見解だった。
こうして、一見単純に見えながら、過去に起こったいくつもの事件を巻き込み、内部に様々な「逆転」を抱えていたこの事件は、今度こそ本当に幕を閉じる事になったのである。
「申し訳ありませんでした」
警視庁刑事部捜査一課第五係の係長席の前で、彩芽は岡田警部に頭を下げていた。岡田はそれを見ながら渋い表情で言う。
「その様子では、榊原に手ひどくやられたみたいだな」
「……」
「こちらの指示を無視した独断行動に、蒲田の事件における捜査ミス……色々言いたい事はあるが、まぁ、今回は君にとってもいい教訓になったんじゃないかね。それに、捜査ミスに関してはそれを見抜けなかった私にも責任はあるから君一人を責めるつもりはない。榊原に借りを作ってしまったのはいささか苦々しく思っているが、それは今に始まった事でもない」
「……」
「キャリアの君にとって刑事部は通過点なのかもしれないが、ここにいる以上、キャリアもノンキャリアも関係なく君は刑事だ。刑事である以上、私情で捜査をしてはいけない事くらい重々わかっていると思うが?」
「……もちろんです」
彩芽としてはそう答えるのが精一杯だった。
「まぁ、相手が榊原だったというのは同情するがね。……君の過去の事は聞いているが、あいつをその辺の探偵と同類視するのは大間違いだ。この際言っておくが、はっきり言ってあいつは『普通』じゃない。少なくとも、君が幼少期に被害を受けたインチキ探偵とは次元が違う存在……探偵の本分である『推理』や『論理』に特化し、真相を暴く事にすべてを賭けた、確かな信念を持つ『真の探偵』……もしくは『推理の怪物』だ。何しろ、現役時代は推理一筋で捜査一課のエースにまで上り詰め、もし警察を辞めていなかったら確実に史上最年少で捜査一課長になっていたはずだとまで言われる傑物だからな。だからこそ、捜査ミスの責任を取って警察を辞めた後もあいつを信頼する警察関係者はたくさんいる。なめてかかると痛い目を見るぞ」
「……肝に銘じておきます」
「それならいいがな」
そう言って小さくため息をつくと、岡田は鋭い視線を彩芽に向ける。
「上は独断行動について君の処分も検討していたが、今回は事情が事情だから不問にするように私から頼んでおいた。一課長もそれを認めてくれたよ。以後、このような事がないように」
「……はい」
「話は以上だ。戻りなさい」
そう言われて、彩芽は小さく頭を下げて踵を返し、自分のデスクに戻った。だが、その直前に彼女が小さくこう呟くのを聞いた者はいなかった。
「それでも私は……『探偵』という存在を許せない……許せないのよ……」
そう言いながらも、彼女の表情は苦悩で歪んでいた。今後、彼女が探偵に対してどのような態度をとるのか……それはもう、神のみぞ知る話であった。
同じ頃、都立立山高校の教室の一室で、瑞穂は友人二人と一緒に昼食の弁当を食べていた。相手は同じクラスに所属する、女子バスケ部部長の磯川さつきと、文芸部部長の西ノ森美穂の二人である。瑞穂を含めたこの三人は一年生の頃からの親友で、さつきや美穂たちも瑞穂が榊原の自称弟子として様々な事件に関わっている事は知っており、従って今回も先日の事件の話が必然的に話題となっていた。
「で、その瑠衣子ちゃん、だっけ? 結局、事件の時の記憶は戻ったの? ドラマとかだと、真相がわかった瞬間にすべての記憶を取り戻す、みたいな展開が多いけど」
さつきの質問に、瑞穂は首を振った。
「さすがにそこまで都合よくはいかないみたい。でも、真犯人がわかって自分が人を殺していない事はわかったから、気は楽になったって言ってた」
「ふーん」
「例の悪夢も、まったく見なくなったわけじゃないけど、見る頻度は減ったって。それに、真実がわかったからその悪夢を見ても怖くなくなったって言ってたよ。普段は忘れているかもしれないけど、その夢は自分を命懸けで助けてくれた人がいたっていう証明だからって。大分、前向きになれているみたいかな。もう少ししたら学校にも復帰すると思うよ」
「なら、よかったけど」
と、そこで美穂が遠慮がちに口を挟んだ。
「でも、今回もあの探偵さんはすごかったです。私、まさかあんなシンプルに見えた事件にそんなにたくさんの裏が隠されていたなんてまったく気づきませんでした」
「うん、それは私もそう思う。っていうか、いくら論理的に考えて答えがそれしかないからって、『指名手配されていた凶悪殺人犯が実は命懸けで人助けをしようとしていた』なんて結論、普通は信じられないと思うんだけど」
「はい。私だったらその結論に至っても、多分自分の間違いだと思って考え直してしまうと思います」
さつきの言葉に美穂も同意する。それに対し、瑞穂は苦笑気味に言った。
「まぁ、そこが先生らしいっていうか……今まで色々な犯人と対峙してきたからこそできる考え方なのかもしれないけどね。その辺は今回、私も学べてよかったと思ってる」
と、そんな話をしているところに、三人に近づいてくる人影があった。それは、瑞穂を介して榊原と瑠衣子を引き合わせた張本人……女子陸上部部長の福浦麻衣だった。
「や、瑞穂」
麻衣は軽く手を挙げながらそう呼びかけ、手近な椅子を引いてそこに座った。
「事件の顛末は瑠衣子から聞いた。遅くなったけど……今回はありがとね。あの探偵さんを紹介してくれて」
「いいって。困ったときはお互い様ってね」
瑞穂はそう言って笑った。それに対して、麻衣は少し呆れた様子ながらも真剣な表情で続ける。
「正直、私は瑠衣子の悪夢の正体さえわかればいいと思ってた。こんな事を言ったら瑞穂に悪いけど、最初にあの探偵さんに会った時には、こんなさえない風貌の人が本当に瑠衣子を助けられるのかなって心の底では少し疑ってたの。でもまさか、悪夢の正体どころか瑠衣子の無実まで証明しちゃうなんて……何ていうか、瑞穂が尊敬するのもわかった気がする。去年のミス研の事件の時に警察でもないあの人がとんでもない推理をして犯人を追い詰めたって話は噂程度に聞いていたけど、はっきり言って想像以上だった……」
「まぁ、大体先生に依頼した人はそう言うかなぁ」
瑞穂の言葉に、そのミス研の事件で実際に榊原の推理を直接聞く機会があったさつきと美穂も真顔で頷いている。
「で、聞きたいんだけど……あの人、一体何なの? いくら元刑事だからって、普通の人にここまでの事ができないのは私にもわかるわ。何であれだけの実力がある人が、のんきに探偵なんてやってるのよ。私には、ちょっと理解できない……」
その問いに、瑞穂はさつきたちと一瞬顔を見合わせた後、何となく極まりが悪そうにこう言った。
「えーっと、こう言ったらなんだけど、基本的には先生も私たちと同じ普通の人だと思うよ。私、普段から先生の事務所に出入りしてるけど、事件がないときは見た目通り本当にマイペースでのんびりした人だから。……ただ、先生は他の誰よりも探偵って仕事に譲れない信念を持っていて、だからこそ探偵にとって一番大切な推理と論理を徹底的に突き詰めているんだと思う。まぁ、私は先生のそういうところが凄いと思って勝手に弟子入りしたわけなんだけど……その事をよく知っている人は、先生の事を『真の探偵』って呼んでるみたい」
「真の……探偵……」
呟く麻衣に、瑞穂は少し嬉しそうに頷いた。
「ま、先生本人は『私は一介の私立探偵に過ぎない』っていうのが口癖だけどね。そういうところが私はますます尊敬してるんだけど」
「……何ていうか……探偵さんも探偵さんだけど、瑞穂も色々大物ね」
麻衣はそう言って首を振りながらため息をついた。瑞穂がキョトンとした表情を浮かべる。
「大物って……」
「せっかく中学までやってた陸上を辞めてミス研に入って、去年のあの事件があったのにそのままミス研の部長になって……何でそんな事ができるのかってずっと思ってたけど、今納得できた。瑞穂もあの探偵さんと同類の匂いがする」
「いや、いきなり納得されても……。中学の時の陸上は可もなく不可もなくって感じで、麻衣みたいに上位入賞とかはできなかったから、高校からは何か新しい事をしてみようと思って……」
「はいはい」
瑞穂の言葉を適当に流して、麻衣はひらひら手を振った。
「とにかく、今回はありがとね。また何かあったら相談するわ。それじゃ」
麻衣はそのまま去っていく。瑞穂は呆気にとられていたが、やがて後ろのさつきたちの方を振り返った。
「ねぇ、私ってそんなに先生に似てる?」
「さぁ~」
「えーっと……どうなんでしょう?」
さつきと美穂が微妙に目を逸らしながら答える。
「何で目を逸らすの?」
「別にぃ~」
「ちょっと、何なのその意味深な答え方は!」
美穂がおろおろする前で瑞穂とさつきがじゃれ合い始め、立山高校の昼休みは穏やかに過ぎて行ったのだった……。
そして同じ頃、多摩川河川敷の広場にあるベンチに、二人のスーツ姿の男が並んで座っていた。一人は私立探偵の榊原恵一。そして、もう一人は瑠衣子の父親……元裁判官の吉木啓吾弁護士だった。
「今回は娘が世話になったね」
五十歳前後と思しき吉木は、そう言って榊原に頭を下げた。
「いえ、私は仕事をしただけですから」
「まさか、指名手配犯の岸辺が今回ばかりは純粋な被害者で、娘に罪を着せた真犯人がいたとはね……。本来なら親の私がそれに気づかなければならなかったのに、見過ごしてしまうとは父親失格だな」
「……私も真相にたどり着けたのはいくつか偶然があったからです。単に運が良かっただけで、普通なら気付くのは無理だと思いますよ。何しろ、瑠衣子さん本人でさえ完全に欺かれていたわけですから」
「……そう言ってくれると気が楽になる」
そう言うと、吉木は懐から封筒を取り出して榊原の方へ差し出した。
「今回の依頼料だ。娘は自分がバイトしてでも払うと言っていたが、今回は私の昔の因縁にあの子を巻き込んだ形だからな。私が代わって支払うという事で説得した。……額を聞いた時は驚いたが、本当にこれだけでいいのかね?」
「必要経費と当面の生活費さえあれば充分です。確かに受け取りました」
榊原は中身を確認して、それをポケットにしまう。二人はしばし無言で目の前を流れる多摩川の流れを眺めていた。
「十二年前の判決……私はずっと悩み続けてきた」
不意に、吉木はそんな事をポツリと言った。榊原は黙って聞いている。
「本当に、あの無罪判決は本当に正しかったのか、とね。苅田が一年後に東京で別の殺人を犯したと聞いてからはなおさらだ。私の中では、あの事件で検察側の出した証拠は不十分だったと言わざるを得なかった。だから私は『推定無罪の原則』に基づいて彼を無罪にした。だが、裁判官の理屈では自分の判決が間違っていない事はわかっていても、心の奥底には『もしあの判決が間違っていたら』という考えが常に渦巻いていた。……あの事件がなくても、私はどのみち裁判官を辞めていたのかもしれないな」
「……」
「今回の事件は、人が人を裁く事の難しさから生じたものだったと私は思う。私の判決は正しかった。坂出の事件について、苅田は本当に無実だった。だが、正しい判決を下しても彼は世間から有罪という誤った視線にさらされ、ついに本物の犯罪者になってしまった。そしてその結果、高田信奈は私を恨み、今回の事件が起こってしまった。……正しい判決を下しても、それが本当の救済になるとは限らない。正しい判決でさえそうなのだから、判決を間違えたときはより悲惨だ。人を裁くというのはかくも難しい。だから、私はこの先の世の中が心配になってしまうんだよ。君は当然知っているね? 来年からこの国で何が始まるか、を」
「……裁判員制度、ですね」
来年……すなわち二〇〇九年から、司法制度改革の一環として市民が参加する裁判員裁判が始まる。榊原も当然それは知っていた。
「私は危惧しているんだよ。世の人々は、この人を裁く難しさに耐える事ができるのか? 人が人を公平に裁くというのは本職である私たち裁判官でも難しい。それは今回の岸辺和則を見てもそうだろう。命がけで娘を助けた彼に『指名手配犯』というレッテルがあるだけで、私を含めた大半の人間は、彼の事情など一切知る努力もせずに『冷酷な殺人鬼』と決めつけ、彼が真犯人という結論で納得してしまった。そしてその結果、私たちは真犯人を取り逃がしかけた。……私はね、裁判官という仕事を通じて、人間というものは表向きの評価だけで簡単に本質を見失ってしまう事を痛いほど知っているんだよ」
「……」
「それに、どんな判決を下したとしても、裁いた側には必ず不安が残る。『自分の下した判断は本当に正しかったのか?』とね。人を裁いた人間は、その不安を一生抱えて暮らす事を余儀なくされる。その重荷を、一般市民に背負わせていいものかと、私は心配になるんだがね」
そこで、吉木は榊原の方を見やった。
「君はどう思うね? 長年、多くの犯人を暴いて来た『探偵』の君は、人が人を裁く事……君の立場からすれば、『探偵が犯人の犯行を暴く事』という事になるが、それについてどう思っているのかね? 『自分の推理が間違っていたら』という不安を感じる事はないのかね?」
その問いに対し、榊原は目を閉じてしばし黙り込んだ。重苦しい沈黙がその場に漂う。
「……難しい質問です」
開口一番、榊原はそう言った。
「おそらく、その質問に対する答えはなかなか出ないでしょう。私は裁判員裁判に対してとやかく言える立場にいませんし、こればかりは今後実際に裁判員裁判を実施していく中で市民が人を裁くという事についてどう対峙していくか模索する事が続いていくのだと思います。ただ……」
「ただ?」
「探偵として、私がどのような気持ちで犯人に推理をぶつけているかを述べる事はできます」
「……ぜひ、聞きたいものだね」
吉木の言葉に、榊原は淡々と自身の考えを告げた。
「私の仕事は、裁判官同様に絶対にミスが許されない仕事です。ゆえに私は犯人と対決するまでに徹底的に情報を集め、しっかりした論理構築を組み立ててから対峙する事でミスのリスクをできるだけ下げるようにしています。だからこそ私は、常日頃から推理と論理を徹底的に突き詰める事を心がけ、いざ推理するときも探偵としてそれなりの覚悟を持って挑んでいるわけですがね。しかし、残念ながらそれでも『推理が間違えていたら』という不安が全くないと言えば嘘になります。なぜなら私は、犯罪者と対峙する中で、どんな人間でも必ずミスを犯す事を知っているからです。そうでなければ、探偵が相手のミスを起点にして犯人を追い詰める事などそもそもできないでしょう。そして犯罪者がミスをする以上、探偵だけが機械のようにミスをしないというのは不自然な話です」
榊原は真剣な表情で続けた。
「人間は誰でもミスを犯す。どんなに頭がいい人でもミスを犯さない人間はいません。もちろんミスをしないように最大限の努力はすべきですし、ミスをしたときに責任を取る覚悟がない者はそもそも犯人相手に推理などすべきではないと思いますが、だからこそ大切なのは、万が一にも推理ミスをした際にそのミスをちゃんと認めた上で見直し、その上でそのミス推理に固執する事なく修正してすぐに次の行動に移る事だと思っています。……噛み砕いていうなら、万が一推理ミスが発覚した場合、その時点でそれ以上今までの推理に必要以上に執着せずにすぐに自分のミスだと認め、それを踏まえた上で新たな推理を構築して正しい真犯人を突き止める、という事になりますか。例えば今までに世の中で起こった冤罪事件を見てみれば、捜査の中でそれまでの推理を否定する証拠がどれだけ出ても警察や裁判所が今までの筋書に固執して修正できず、それ故にどう見ても無実な人間をいつまでもズルズルと『犯人』とし続けている間に真犯人に逃げられてしまっている……という事が多いですからね」
「……」
「だから私は、一度関わった事件を解決したからと言って放り出すような事は絶対にしません。たとえ解決したとしても、自分のした推理は何らかの形で必ず記録し、後々に何か矛盾が発見された場合は即座に新たな推理を構築できるようにしています。それが、事件に関わって犯人を推理で追い詰める探偵として負わなくてはならない責務だと考えているからです。最悪なのはいつまでも自身のミス推理に固執して、冤罪を生み出した上に真犯人も逃がしたままにしてしまうという構図ですからね。私は『推理』を武器に犯人を追い詰める身として、自分のした『推理』に死ぬまで責任を持つべきだと思ってこの仕事をしているつもりですよ」
それは、探偵の本分である推理と論理に特化した『真の探偵』として榊原が持つ矜持のようなものだった。吉木はそれを聞いてしばらく黙っていたが、やがて深く頷いた
「……なるほどね。面白い見解だ」
「おそらくですが、実際に裁判員制度が始まれば、裁判員もおのずと自分の判断に対する責任を自覚して裁判に挑むと思っています。その先がどうなるかは未知数ですが……私は、多くの人がそれができると信じているつもりです。……あくまでも、素人の見解ですがね」
「……そうかね」
吉木は大きく息を吐いた。
「納得したよ。君がなぜ今回の事件を解決できたのか……それが理解できた気がする。確かに君は『名探偵』だよ」
そう言われて、榊原は少し苦い表情を浮かべた。
「私は一介の私立探偵です。それ以上でも、それ以下でもありません」
「そういう事にしておこう。では、また会いたいものだね」
そう言って、吉木は去っていった。残された榊原はしばらくその場で川の流れを見つめていたが、やがてゆっくり立ち上がって呟いた。
「さて……戻るとしようか。いつも通り、推理と論理がすべての『私の日常』へ」
『真の探偵』、榊原恵一の日々は、まだ終わらない……。
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