逆再生

@cafe_mocha

逆再生


 彼は長年連れ添った妻を亡くした。


 子供もいなかった彼は大いに悲しんだが、一方である一つの希望を見出し

ていた。彼は科学者であり、生命現象について、とりわけ死んだ者を生き返

らすことについて研究をしていた。彼はある事象があれば、全く反対の事象

が存在してもいいだろうと考えていた。つまり、まるで真上に投げた球が頂

点でちょうど折り返して落ちてくるように、盆から水がこぼれる現象があれ

ば水が盆に返っていく現象が、生から死へ進む現象があれば死から生へ向か

う現象があってもいいだろうということである。彼は亡くなった妻を生き返

らすために熱心に研究に取り組んだ。


 そしてついに彼の研究品は完成した。彼は期待と緊張を胸に妻を装置につ

なげた。


 彼が装置を作動すると、真っ青だった妻の顔はみるみるうちに血色がよく

なり、だんだんと生気を取り戻していった。ついには呼吸をし始め、目を開

いたので、彼は実験の成功を確信して喜んだ。


 その後、妻は何やら言葉を発し始めた。しかし、彼には妻が何を言ってい

るのか全く見当がつかなかった。妻の話し方は、ちょうど動画を逆再生した

ときの音声に似ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

逆再生 @cafe_mocha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説