掌編第二回 真昼の戦場(制限800字)
*この作品は書き出し固定指定です。
書き出し「これはゲームであっても、遊びではない」
これはゲームであっても、遊びではない
「ヤキソバパン、ヤキソバパン、ヤキソバパン」
三回呟いてグーを出した。
「ああ、今日は負けか」
昼の購買は戦場だ。急がないと売り切れてしまう。とにかく早く駆けつけるしかない。だから僕らは、昼休み5分前になるとジャンケンでその日の買い出し担当を決める。育ち盛りなので三限目の休み時間に早弁しているのでむろん弁当は既にない。
最初は注意していた教師達も諦めたのか最近は見て見ぬふりをしてくれるようになった。
「俺は揚げソーセージパン」
「ぼくはカレーパン」
負けてしまってはしょうがない。昼食買い出しは、今日は僕の使命だ。
昼休みのチャイムと共に教師の注意を背に教室からかけ出す。僕らの教室は三階の一番端だ。購買は隣の校舎の二階にある。しかも連絡通路は廊下の反対側の二階だ。
階段を二段跳びに駆け降りる。そこで僕は失敗をやらかした。注文を頭の中で繰り返していて注意がそれた。二段跳びに駆け降りるのは集中力が必要だ。リズムがズレて足を踏み外す。僕の身体は宙に飛び出した。
パーン。ラッキーだった、派手な音を立てて踊り場に着地するだけで済んだ。しかし、足が痺れて十秒は動けない。
「まずい。時間をロスした」
痺れが取れきれる前にダッシュを再開する。駆け降りて二階も通過して一階をめざす。連絡通路は同じ事を考えている生徒達で混み合って時間がかかる。それよりも、一階の廊下を経由して反対側入り口からアプローチしたほうが結局は早い事に気がつくまで何度売り切れの憂き目を見た事か。
「ヤキソバパンと揚げソーセージパンとカレーパンちょうだい」
どんどん無くなっていく商品に焦りながら、おばちゃんに声を掛けた。
今日はなんとか使命を果たせたようだ。獲物を手に意気揚々と教室へと引き上げる。
明日はジャンケンに勝つぞ。
高校生にとっては昼休みは戦場なのだ。担当を決めるジャンケンはゲームであっても、遊びではないのだ。
——————————————————————————————————————
*応募は一作のみのところ、間違えて2作応募してしまった二作目です。
書き出し「だからさ、アイスとご飯はちがうでしょう」
トイレから戻った僕は思わず大声を上げた。机の上には森永カップアイスが置いてあり湯気を立てていた。いや、これは湯気ではないな。加湿暖房されているオフィスでは、湯気ぽく見えなくもない冷気が机の表面に沿って広がっているのがよく見えた。眉を吊り上げて室内を見回すとふたつ離れた机に座りアイスの棒を咥えた先輩と視線が合う。これはやっぱりあれだ、先輩に昼ご飯の手配を頼んだ僕が悪いのだ。
肩を落としノートPCの蓋を開けた。
「ほらほら、アイス解けちゃうわよ」
いつものように僕の椅子の背に張り付き、右肩越しにモニタを覗き込んでくる。いつものように肩に加わる柔らかい圧力。いつものように僕は無視する。これに反応すると反撃がうっとい。目の端にアイスの棒がちらちらして甘い匂いが鼻をくすぐる。
「先輩、じゃまっす。食べ難いっす」
霊付のごとく重い肩に耐えアイスを口に運ぶ。
「脳に糖が早く回る様にね、応援してるのよ」
「ちっとも応援になってないっす」
「それでーどうなの、掌編第二回の応募は? あらあら、来てるじゃない」
「今回は出足は遅いっすけどね」
「『灰色洋鳥?』こいつってこの間、三題噺でずるした人じゃない。よし、あたしが選評を書いてやる」
「だめっすよ。前に担当じゃなから要項から外れるって自分で言ってたじゃないすっか」
先輩が立ち上がると肩は楽になったが頭にメロンふたつ分の重みがかかる。
「重いっす。でたらめっす。あ、社長。先輩に何か言ってくださいっす」
僕らに気がついて社長窒に戻ろうとする社長に助けを求めた。
「あ、まあ…… そのだな。社員の仲が良いことはいい事だと思うよ……」
「そうじゃないっす。掌編の選評を書くって。要項破りを……」
頭が軽くなる。
「あ、ごめんね。お昼買ってくるよ。モナカで良いよね」
目にも留まらぬ早さでドアから消える先輩の背に向かって叫ぶしかなかった。
「だからー、アイスとご飯はちがうって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます