掌編集
灰色 洋鳥
掌編第一回 ある事務所のひとこま(制限800文字以下)
*本作はフィクションです。実在の団体、及び個人とはいっさい関係ありません。
*本作は三題話で『メモ』『天然』『坂道』でした。
「聞いたよー。第一回掌編イベントのお題が決まったんだって」
ドアの開くけたたましい音と、異様にテンションの高い声が飛び込んできた。声の主は席に座る僕の背中に張り付いてPCの画面を覗き込む。
「はい。三題話は『メモ』『天然』『坂道』に決まったっす。もう次々に送って来ているっす」
「どれどれ、なかなか良い出だしじゃない」
ここはストロングブレードの事務所、編集業務を行っている小さな会社だ。社長が何を思ったかWG(ワーキンググループ)を始めると言って、社員全員が巻き込まれた。下っ端の僕はイベントの係を割り当てられ第一回を担当する事になったのだ。
先輩が画面をよく見ようとしたのかささやかとは言えない弾力が更に僕の背中に加わる。
「先輩、ちょっと何をするんすか。暑いっすよ」
「まあまあ、これから参加者全員の小説を読まなきゃならない君への応援だよ」
「そんな応援もらっても嬉しくないっす。それだったら先輩も選評つきあってくださいよ」
先輩は僕の背に張り付いたまま、こめかみを両親指でぐりぐりと押してくる。
「やめてくださいよ、痛いじゃないっすか」
「何言ってんの、要項と違っちゃうでしょ。あたしがやったら嘘つきになるよ」
「それはそうっすけど」
先輩が立ち上がると、メロン二個分の柔らかな重量が頭に乗ってくる。
「重いっす」
「文句言わない。見ててあげるから、ほらちゃちゃっと、仕事する」
僕は諦めた。この人のペースに巻き込まれたら、飽きるまで待つしかない。
「えーっと。『灰色洋鳥』さん。洋鳥て何て読むんだ『ようちょう』いや、『ひろとり』かな。作品名は『ある事務所のひとこま』」
僕は作品を読み終わると首を固定したまま先輩に声を掛けた。
「何ですかね、これはメタ小説?」
「これはだめね。三題話になってないじゃない」
「どうだい。掌編小説の参加状況は?」
「あ、社長、お疲れさまっす。なかなか好評っす。でもこれなんですが……」
その日はその作品の有り無しで、夜遅くまで侃々諤々と議論をする事になったのだった。
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