掌編第三回 メロンでたわわな先輩に元気がない、声をかけるべきだろうか?(制限800字)

*今回はテーマ選択です。①「雨」 ②「夏祭り」 ③「結婚式」から「夏祭り」を選択しました。


 珍しく先輩が机に突っ伏していた。豊かな胸が机に挟まれて歪み、ゴーレムに踏み潰されるスライムの如く机の表面にそって広がっている。見てからに苦しそうだ。いや違うな、そうじゃなくて辛そうだ。


「どうしたんすか。珍しく元気ないっすねぇ」

「あう、山本か…… あたしゃもうダメだよ。肩がばりばりで体起こしてるのもつらいわ」

「そりゃそんな立派なものを持ってるから、今まで良く平気でしたっすね」


 身体を起こした先輩のメロンにもたぐうたわわな果実に思わず目が惹かれる。いつもはこの武器で僕を翻弄するのだが、今はその元気もなさそうだ。


「ふっ、なにを見ているのかな。自慢じゃないけどこの体に育って十年未満。そんなことで苦しんだ事はないわ!」

「じゃあどうしたんすか。本当に辛そうすよ」

「あたしのアパートの大家に誘われて、町内の夏祭りで神輿を担いだのよ。さらしで胸はきついし、神輿は重くて肩痛くなるし、大変だったわ」

「そりゃご苦労様っす」

「なに、人事ひとごとな事言ってんの、明日は祭りの最終日、君も参加するんだから」

「えー、何で僕がすっか」

「そりゃ、お世話になっている先輩のご近所付合いに協力するのは後輩の勤めでしょ」


 この先輩がこんなことを言い出したら逃げるしかない。


「まて、江戸の下町の風情を無視するか」


 訳判らん事を言い募る先輩が瞬息の間で僕の襟首を掴む。


「ああ、捕まってしまったっす」


 その時、社長室のドアが開いた。途端閉まった。


「ああ、社長! これはパワハラ案件すよ」


 閉まったドアの向こうからくぐもった声が聞こえる。


「いや、社員同士も地域との交流もいいと思うよ。江戸の風情いいじゃないか。勉強になるぞ、はははは」


 最後は乾いた笑い声で終わった。


「しゃちょー」


 いままで逃げてきた先輩との個人的接点、それがこんな夏祭りでからめ捕られるとは、僕の明日は、ゆったりまったりな休日は、映画と小説に塗れる明日はどこへゆくー。

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