第12話 背中を押す者
葉菜子の部屋のモニターは長らく無音だったが、ネットのニュースが流れてきた
繋がった
人の声がした途端、ブツッと途切れた
また、人の声が聞こえた
" 全国的に医療的クライシスが起こっています。顔を識別する機能に問題が出る現象が頻発しております、神経症の蔓延です "
また、ネットが途切れた
心が引っ掛かる。世の中がおかしくなっているらしい
モニターより再度、人の声がする
急にネットニュースが再開した
" 折門集落に入植した3家族が行方知れずというニュースが報じられました。その後、消息が判明して帰宅し、事件性は無いという事でしたが、訂正です
その3家族の5人全てがヒューマノイドに変わっていました "
そしてまた、ニュースが途切れた
おかしなことを言ってくれる
妙な神経麻痺症状があるって?
顔が認識出来ないの?
私もそうかしら?
身寄りの少ない限界集落
妙な事件
葉菜子は気分直しがしたかった
お気に入りの2人掛けの小さなソファーで、ふと宇宙海賊コブラの愛蔵版に目を通した
いつ、こんなやつを買ったかな
コブラが困難を乗り越えたところで、天井を見上げた
世界中で情報が遮断され、全貌が分からない状況が進んでいる
政府機関がこんなに当てにならなくなるなんて
不安だわ
ワインレッドのソファーは革製で滑りやすく、バンザイの形で体が滑ってゆく
体が落ちきると改めて床で両腕を伸ばし、コブラを再度見る
貴方なら解決できるかもしれない
聞くわ、コブラ
どうしたら良いの?
床に寝た葉菜子の輪郭がブレだす
葉菜子は目をつぶって顔の上に掲げたコブラの本を顔に落とす
イテ、痛い
もう1つの人格Hamakoが別次元イマジナリーから再度舞い降りて来た
またこの次元に戻ってしまった
大事な仕事は済んだので良しとしようか
コブラ様のバイブルが顔に落ちて来たんだな
コブラ様もカツを入れてくれた
これはもう、何かを示唆している
それにしても、ダークワンの奴ら、やってくれる
これはもう、本当に、なんとかしなければ
イマジナリーで情報は取ってきた
特異点の情報を得たけど、ビックリしたわよ
ここから、そんなには離れていない場所にある
集合住宅がその地点に建っている
隣の部屋との境がベニヤ薄っ皮一枚で有名なアパート
住人記録を見て再度の衝撃をもらったわ、葉菜子の会社、三花製作所の同僚が住んでるじゃないの
猪瀬という男
これは偶然?
きっと違う
確かめるしかない
心が決まると行動は早い、上着をとって外にでた
車に向かい運転席に座ると、クラクションが聞こえた
白い車がこちらを意識しているのが分かる
気が遠くなる様な光に照らされた
文字通り気が飛んだ
気がつくと男が運転席のドアに後ろ向きに寄りかかっていた
風間だ
はっきり分かる
こやつ、何かを企んでる
窓を降ろす
「世間では顔の認知機能に問題が出ているそうだけど、私にはお見通しよ、風間さん。他人の車に寄りかからないでくれるかな」
「さすが、顔を認識する神経系統が正常なんだ」
「あなた今、変な光で舐めた事したわね」
「すまん、本物なのか確かめさせてもらった。もし本物でなかったら、懐柔するか殲滅するかしなければいけなかった」
「そんな野蛮さが、嫌」
「そう言うなよ。緊急事態なんだ」
「貴方こそ、認知機能はどうなの」
「私は仕掛けた側の人間だから対策は出来ている」
「あっさり白状するのね」
「朝から頻繁な次元の裂け目を検知したんだ。私とて、事件の全容を知りたいと思っているから、ここに来た。私も連れて行ってくれないか?情報があるんだろ」
Hanakoはハンドルを両手で握り、視線を落とした
「私にどんなメリットがあるの?」
「私は貴重なダークワン側の人間だぜ。利用価値はとてつもなく大きいと思うな。今までの罪滅ぼしにここに来たんだ」
Hanakoは首を回した「乗りなよ」
「レディーの慈悲は有り難い」
助手席の風間はいきなりカーナビをオーディオモードにして、いじり出した。
「ハードな曲はあるかい?」
「あなた、不審な機材がないかチェックしてるのね」
「チェック半分、いかしたベビーメタルが聴きたいのが半分さ」
Hanakoは車を出した
「呆れた奴ね」
「そうかい?私の曲の趣味だったらAORだと思ったのかい。おしゃれだからね。でも、ベビーメタルなんだよね」
「なんでも良いわよ」
ロニー・ジェイムス・ディオのシャウトの中、ライムグリーンの軽自動車は滑るように進んでいった
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